2024.06.21
最終更新日:2024.06.21

読書猿が教える! 本を読めないビジネスマンのための「読書」を仕事に役立てる方法論

そもそも最近すっかり読書から遠ざかっている日々。そんな悩みを抱える社会人に向け、『独学大全』の著者である読書猿さんが「読書」の効能を語る。

読書猿プロフィール画像
独学者・作家
読書猿

正体不明、博覧強記の読書家であり、独学の達人。ブログ「読書猿 Classic: between/beyond readers」主宰。著書に『アイデア大全』『問題解決大全』(ともにフォレスト出版)、『独学大全』(ダイヤモンド社)などがある。

『ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方』

『独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』
読書猿著
26万部を突破したべストセラー。ギリシア哲学から最新の論文まで、あらゆる「知の先人」から学んだ内容を読書猿独自の視点で55の技法にまとめた一冊。¥3,080/ダイヤモンド社

凡百のビジネス書よりも課題に合った数冊が重要

 皆さんは本を読むことが好きですか? 正直、私は苦手です。読まないで済むのなら読みたくないとすら思っています。そんな私ですが、『独学大全』をはじめとして、主に読書を通じて得た「役立つ知識」を紹介する本をいくつか発表しています。今回は、仕事で読書をどのように役立てることができるのか、現在もサラリーマンとして働く自らの経験を踏まえながらお話ししたいと思います。

 そもそも、世にあふれるビジネス書は基本的に役に立たないと考えています。これらは、社会人が読書をしなくなった時代において、本を売るためのマーケティング上の方便として登場した歴史上の産物です。つまり、時代が変われば消えてしまう存在に過ぎません。また、多くのビジネス書は、そこに書かれているノウハウだけが唯一正しいというスタンスで、その背景にある膨大な他分野の知識が蔑ろにされています。でも、ビジネス分野の知識ではないけれど、ビジネスにも応用できることってたくさんあるんです。知識というものは、学んですぐには役に立ちません。しかし幅広く学んでおけば、いざというときに助けられるかもしれない。そういう性質のものです。にもかかわらず、「すぐに役に立つ」などと銘打たれている本は、知識があってノウハウが成り立つという前提を無視しているんです。だからこそ、私の本では、ノウハウとその根底にある知識をセットで紹介するようにしています。

 有用な本を選び取るコツとして、参考文献が丁寧に記載されている書籍をおすすめします。役に立たない本は、元ネタを隠すことが多いんです。ただ、書かれている知識は何十年も前に考案されたものだったりする。例えば、課題解決のフレームワークとして頻用される「ロジックツリー」よりも、そのもとになった心理学者カール・ドゥンカーの「解決のファミリーツリー」という考えのほうがシステマチックです。このように元ネタが記載されていれば、たとえその本では十分な役には立たなかったとしても、遡って参考文献に触れることで、もう一歩理解を進めることができます。本というものは、歴史の中で幾度となく批判にさらされ、議論が重ねられた知識の蓄積です。「巨人の肩に乗る」という表現が用いられるように、本を読めば自分ではけっして見えなかった景色が見えます。

 もう一つ、自分で仕事本をつくってみるのも有効です。仕事上の課題を整理し、その解決に役立ちそうな本を読む。そして、その中で自分のケースに応じた知識をまとめてみる。例えば、職場の人間関係に悩んでいる場合。いくらビジネス書を読んでも、根本的な解決には至らないでしょう。なぜなら、その人が苦しんでいるのは仕事の問題ではなく、コミュニケーションの問題だからです。であれば、コミュニケーションについて書かれた凡百のビジネス書よりも、専門家であるカウンセラーが書いた本や、そうした人々が仕事で活用している専門書を読むほうが、遥かに強力なテクニックを獲得することができる。そうして得た知識をまとめれば、自分だけの仕事本が完成するはずです。

 読書嫌いの私が本を読み続けているモチベーションは、社会への抵抗なのではないかと思います。働いていると、本を読む時間なんてどんどん失われていくじゃないですか。労働が読書を阻害してきた歴史については、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本でも丁寧に説明されています。私も深夜まで働くような生活が続いていたときに、せめて昼休みだけは自分の時間にしたいと本を読むようになりました。人生が仕事ばかりになってしまうと、別のやり方を考えることができなくなってしまいます。そんなときに、時間的にも精神的にも自分だけのスペースを生み出すための方法として、読書は有意義だと考えています。

働き方が変わる3冊

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
三宅香帆著
「最近本を読めていないな、と実感している多くのビジネスマンが、自分の立ち位置を理解するのに役立つ一冊。読書ができないことは自己責任ではなく、労働による拘束をはじめとする社会構造に問題があるのだと気づかせてくれる“メタビジネス書”としておすすめしたいです」。¥1,100/集英社

『思考力改善ドリル 批判的思考から科学的思考へ』

『思考力改善ドリル 批判的思考から科学的思考へ』
植原 亮著
「私の“推し哲学者”が書いた知性改善論、頭がよくなる方法です。私たちがバカになる場面をとことんえぐり出し、気をつけていてもはまってしまう思考のピットホール、つまり間違いやすい落とし穴を避けられるようになる。あまたのフレームワークよりずっと役に立つと思います」。¥2,200/勁草書房

『ワークプレイス・スタディーズ:はたらくことのエスノメソドロジー』

『ワークプレイス・スタディーズ:はたらくことのエスノメソドロジー』
水川喜文・秋谷直矩・五十嵐素子編
「社員がストレスを抱えながらも、それなりに機能している職場ってありますよね。このように、人が共同で何かに取り組んでいる“現場”には、やりとりを成立させて、トラブルを抑える工夫や認識の束が必ず存在しているんです。それを有効活用するための技術が学べます」。¥3,080/ハーベスト社

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