在宅勤務を続けるUOMOの編集者たち。愛用する私物を自宅から紹介!
雪らしい雪を見たのは、結局いちどきりだった。それも三月も下旬に入ってから。積もったと思ったのも一瞬ですぐにとけてしまった。
出身は熊本県だが、小学生まで過ごした山と田園だらけのスーパー田舎で迎える冬は、東京なんかよりよほど寒かった。毎朝、両親の車のフロントガラスには氷が張り、自分はと言えば、田畑にできた霜柱を踏み歩きまくって感触を楽しんでいた。冬は特別な季節だった。今も氷雪の世界には憧憬の念がある。
ストックホルム在住のガラス作家である山野アンダーソン陽子のオブジェは、昨年の夏に千駄ヶ谷の「パピエラボ」(@papierlabo.tokyo)で購入したもの。山野さんを知ったきっかけは、たまたま何かで見かけた、写真家の三部正博さんが撮影した彼女のアトリエの写真。その作品のひとつひとつがどれもあまりに素敵で、思わず山野さんご本人に連絡した。山野さんはグラスをはじめ日用の器も多く作っているが、自分はこんな抽象的なオブジェが好き。ストックホルムの伸びやかな自然の息吹がそのままパッケージされているかのよう。用途が限定されないことで、文庫本を挿してみたり、かえって楽しみ方が広がる。自然光が透過する輪郭の柔らかなにじみもいいが、夜の照明を受けぱらっと光を散らして落とす様もいい。氷山みたいだ。 『週刊少年ジャンプ』で連載中の『鬼滅の刃』が大人気。在宅の時間が増え、Netflixでアニメを追っているが(原作は二度読んだ)、現代の小学生読者と同等(以上)の熱量で、冒頭の頃の自分が夢中になったジャンプマンガが『聖闘士聖矢』だ。キグナス氷河というキャラクターがいる。ロシア人の母をもつハーフだが「キグナス」は名前じゃない。違う、そうじゃない。「白鳥座」を英語読みしたもので”属性”を指す。雪や氷を操る技を持ち、『鬼滅』で言えば、”霜柱”的ポジション(いないけど)。深海に沈む母の亡骸に献花するため、氷点下の海を身ひとつで素潜りするなど逞しさとロマンチシズムを持ち合わせるが、いずれにせよ常軌を逸している。”氷山”のオブジェに閉じ込められたムーミン(写真二枚目)は、外出自粛中の自分のようでもあるが、むしろ自分なりの彼へのオマージュ。だが、実のところキグナス氷河は昔からそんなに好きじゃない。師であるカミュのほうが断然かっこいい。操り出す技の冷気も数段上で、そういう意味でもクール。
カミュと言えば『ペスト』が100万部を突破したとか。出版業界の人間として、社会背景がどうあれ本が広く読まれるのは嬉しい。外出自粛要請がとけるのは当分先だろうけど、久々にあたたかな気持ちだ。
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