南アルプスの北端にある日向山の魅力は、登山道を囲む深い緑と真っ白な山頂。その真髄はビギナーでも簡単に味わえる。
山歩きにハマる大人が続出!まずはゆるく低山から。でも景色はガチです。
この景色を見れば疲れも吹き飛ぶ!!
標高約2400mの縞枯山の頂上。ロープウェイを使ってから約1時間のハイキングでこれほどの絶景が眺められるとは。
山は自由だ。ひとたび登山口から出発すれば、あとは大自然。時刻表や営業時間といった街中での“決まり事”から脱出し、自分のペースで歩き、休み、食べたいものを食べ、飲みたいものを飲んでいい。面倒な社会生活から離れ、自分だけ、もしくは仲間たちだけで自由な気分を存分に楽しめるのだ。そんな山で初心者にお勧めなのは、やはり日帰りハイク。必要な荷物が少ないため、体力に自信がない人でも挑戦しやすく、購入すべきアイテム数も少なくてサイフにも優しい。また、山は標高の高低だけで難易度が決まるわけではないが、初心者には気象条件が厳しい高山よりも、やはり低めで歩きやすい山のほうが適している。狭い国土の大半が山岳地帯の日本は、登山には格好のフィールドだ。日帰りハイクから山歩きを始めてみれば、いつの間にか一生付き合えるすばらしい趣味となるかもしれない。
監修者・山岳ライター/高橋庄太郎
PROFILE:1970年生まれ。31歳まで集英社に勤務し、退職後2年間の放浪を経て、山岳ライターとしての活動を始める。一年のうち、100日ほど山に入っているという筋金入りの山男。名著『トレッキング実践学』(マイナビ出版)など多数の書籍を執筆。
山頂に広がるは白砂のビーチ?知る人ぞ知る“穴場”
名山に囲まれた美白の山頂は登ってよし、眺めてよし!
某アイドルグループと同じような名前を持つ「日向山」。その和やかな山名のイメージ通り、樹林帯を脱した山頂には温かな日光が降り注ぎ、登山道を歩いていると木漏れ日がとても美しい。深い森の中を緩やかに延びるトレイルは多くの体力を必要とせず、危険な場所も皆無。休日には子連れで登るファミリーやカップルも多く、まさに初心者向けの山だ。
この日向山を特徴付けるのは、“天空のビーチ”とも呼ばれる山頂部分の白砂の広がり。これは花崗岩が風化して粉々になったもので、初めて見ると誰もがびっくりするほど、とにかく真っ白だ。だから、晴れているときはさわやかな風が吹き抜けて、じつに気持ちがいい。だが、薄曇りの日や夕刻には異世界的で不気味な雰囲気すら漂ってきて、ちょっと怖くなるかも……。初心者には晴れた昼間に登ることをお勧めしたい。
日向山は、高山が立ち並ぶ南アルプスの外れに位置し、標高は1660m。山頂から間近に眺められる甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山(ともに日本百名山)はどちらも3000m近くあるのだから、南アルプスのなかでは低山ともいえるが、南アルプスは南アルプスだ。この山頂を踏めば、「南アルプスに登ったぜ」などと高山を踏破したかのようにどこかで自慢できるはず。また、日向山は一種の展望台でもあり、山頂からは八ヶ岳や蓼科山、霧ヶ峰といった名山(これらも日本百名山)も視界に入る。
下山後のお楽しみが多いのも、日向山のポイントだ。麓の白州町はウイスキーのブランド名にもなり、名水と温泉で名高い。温かなお風呂で体の疲れを解きほぐし、地元の食材を使ったおいしい食事を味わい、厳選したお土産を手にしたら、満足感はひとしおだ。
文/高橋庄太郎
往復でも4時間程度。標高1660mの中低山
車で都内を07:00に出発し、メインの登山口となる大きな駐車場を備えた尾白川渓谷に09:30頃に到着。10:00から登山を開始し、4時間ほどで往復できるので、14:00過ぎには駐車場に帰ってこられる。さらに上にある矢立石駐車場を利用すれば山頂まで往復2時間30分程度まで短縮できるが、駐車場が狭いのが難点。また、途中にトイレや水を補給できる場所はないので、尾白川渓谷ですませておこう。
さあ、登山前にストレッチはばっちり?
「山にこの人あり」と称される大ベテラン・山岳ライターの高橋庄太郎氏のガイドのもと、最近登山にハマり中のモデル・髙橋義明が日向山に初トライ。
Tシャツ¥13,200/アイベックス(ロータス) パンツ¥17,600・キャップ¥4,730/マウンテンハードウェア(コロンビアスポーツウェアジャパン) シューズ¥16,500/ゼロシューズ(ケンコー社) バックパック“Fjörm 18L”¥26,400/クレッタルムーセン(スプートニク)
モデル
髙橋義明
1989年生まれ。登山に魅了され、休日、あちこちの山へと足を延ばしている。お気に入りの一足は、この日も履いている裸足感覚で歩行できる“ゼロシューズ”のもの。足裏から自然を感じられるそう。
自然の中を歩くだけ。それだけで楽しいよ!
登山口から深い森が続いていく。ずっと同じような風景に思えるが、よく見ると少しずつ木の種類が変わり、山の表情も変わっていく。頭上の光が明るさを増したら、頂上はもうすぐだ。
白砂が広がる頂上にて、Wタカハシのツーショット。これは真っ白な花崗岩が風化してできたもの。周囲にはひび割れた奇岩や怪物のような巨岩も点在し、見どころは豊富。
荷物はなるべく少なく身軽なほうがイイネ
短時間の日帰り登山ならば、荷物は少なくてすむ。バックパックの中には昼食と飲み物、夏につきもののスコールに備えたレインウェア程度。荷物が軽ければ、自然に足取りも軽くなる。
山頂から数分ほど足を延ばした“雁ヶ原”にはこんな絶景が。自分の足で登ってきた人にしか味わえないご褒美だ。足元の砂は少々崩れやすいため、喜びすぎて気が緩まないように。また、北側にそびえる凜々しい八ヶ岳をはじめ周囲の山々の景色もすばらしい。
無事に下山を完了すれば、待ちに待った温泉だ。こちらは「白州・尾白の森名水公園べるが」内の源泉露天風呂「尾白の湯」。日向山の山頂でも踏みしめた花崗岩でろ過された天然温泉はミネラル分が豊富で、もちろん肌にもいい。このすぐ隣には温泉を天然水で希釈した湯船も用意され、肌が敏感な人でも楽しめる。10名ほどが入れるサウナも完備され、水風呂はもちろんアルプスの天然水だ。
ハイキングの疲れを癒すビールと丼ものサイコー!
キャンプ場などもある複合施設「べるが」。併設された人気の食堂「白州庵」の看板メニューは、その名も“日向山どん”。近隣の生産者から提供されたベーコンや卵を中心としたたくさんの具材が白州産の白米を彩り、まるで日向山の山頂のよう。それでいて価格は900円とリーズナブルだ。運転しないでいいならぜひビールも。風呂上がりの身体がますますほぐれていく。
中央自動車道・須玉ICから約20分で、日向山への登山口である尾白川渓谷にも程近い。和風の宿泊施設やバンガローも敷地内にあり、宿泊で訪れるとますますリフレッシュできるだろう。なお、温泉とレストラン、売店などはそれぞれ営業時間が異なるので、注意したい。
尾白の湯
山梨県北杜市白州町白須8077-1
営業時間:10時~20時
定休日:水曜
Stylist:Takeshi Toyoshima
Model:Yoshiaki Takahashi
Composition&Text:Shotaro Takahashi
Supervisor:Shotaro Takahashi