インテリアとして石を飾る人が増えている。当然、宝石のような価値もなければ、神秘的なパワーもない、ごく普通の石…。それでも眺め、触れると愛おしい。この不思議な魅力はいったい何なのか。石に魅せられた男たちの声に、耳を傾けてみた。
奇跡的なバランスで成り立つ自然のアート
自然の中で石を拾い、好きな形に積み上げていく
大小さまざまな形の石が奇跡的なバランスで積み上がっている。これはロックバランシングと呼ばれる、自然にある石を積み上げてつくるアート。三國古渓さんはその第一人者として知られている。
「僕がロックバランシングを知ったのは、今から10年ほど前です。マイケル・グラブというアーティストの作品をたまたまテレビで見たのがきっかけでした。僕自身、もともと滝や川を巡るのが趣味で、あるとき見よう見真似で石を積んでみたらできてしまって。うまく積み上がっていくと楽しいので、そこからどんどんのめり込んでいきました」
やり方は人によって異なるが、三國さんの場合、髪型をスタイリングするようなイメージで石を積むという。
「美容師の仕事をしていたことがあって、髪型って顔の形に合わせてつくっていくんですね。ロックバランシングも全体のバランスを見て積んでいくんですけど、最近は上にいくにつれて大きい石を持ってくるパターンが多く、感覚としてはまさに髪型をつくっていくイメージ。石の形や傾き加減の違いなどでいろいろな表情が生まれるんですよ。早いときは2~3時間で完成することもあれば、納得いかないときや難しいときは、2日間ほど川に通ってようやくということもあります」
川で石を拾い、好きな形に積み上げていく…その行為がロックバランシングの魅力だと三國さんは話す。
「家の中でも積めますが、僕は自然の風景の中に自然物の石でつくった造形があると面白いという考えでやっていて、周囲の風景と合わせて一つの作品だととらえています。道具はいらず、誰でも簡単に始められるので、まずは気軽にチャレンジしてみてください」
Kokei Mikuni
和歌山県出身。2012年頃から本格的にロックバランシングを始める。’14年には、カナダの世界的フェスにも出場。地元・和歌山の安川渓谷を主に作品制作を行う。
「手漉き紙の解釈を拡張したい」 名門の七代目がつくる紙の石
紙メディアの記録をとどめるオブジェとして
カラフルな縄で十文字の形に結わえられた丸い石。日本庭園や神社の境内で立ち入り禁止を示すために置かれる止め石をモチーフにしたこのアート作品、実は石ではなく、紙でできている。手がけているのは、佐賀県で300年以上もの歴史を誇る「名尾手すき和紙」の七代目、谷口弦さん。谷口さんは昔ながらの伝統的な和紙づくりに取り組む一方、「手漉すき紙の解釈を拡張する」という思いから、アートコレクティブ「KMNR™(カミナリ)」を立ち上げ、さまざまな技法や素材を用いた作品制作を行っている。
「江戸時代では、使い古しの紙を集めてつくった再生紙のことを還かん魂こん紙しと呼んで使用していました。再び魂が宿るという考え方はすごく日本的でいいなと思って、このコンセプトで何かできないかと考えたときに、例えば和紙以外にもいろいろな素材を使って、それがもっている記憶や物語といったものも一緒に漉いて紙にしたら面白いと思ったんです。この紙の石は、和紙の原料に新聞や雑誌を細かく混ぜ込んで漉き、できたものを丸めて押し固め、乾燥させてつくっています。新聞や雑誌だったときの情報や記録を現代のひもで結ぶことでとどめながら、紙でつくられた止め石として新たな文脈をもったものになっていく。このほかにも、手漉きの紙にはまだまだたくさんの可能性があると思っています」
Gen Taniguchi
名尾手すき和紙の七代目。還魂紙をコンセプトにしたアートコレクティブ「KMNR™」の中心メンバーとしても活動。
石の作品をインテリアとして飾ってみる
新しい趣味は走ることに決めた!
Text:Masayuki Sawada
Illustration:Yu Masuko