商用車感丸出しの粋な’80sフレンチ
かねてより、フランスの自動車メーカーは実用車づくりが上手だ。緊張感があってプロダクトとしての完成度が高いドイツ車も魅力的だが、フランスの実用車がもつ“抜け感”には、独特の親しみやすさがある。ルノー・エクスプレスは、そんな肩肘のはらない名脇役といえる。
エクスプレスは、ルノーが生み出した小型車の傑作・サンク(シュペールと呼ばれる2代目)をベースとした商用車として1985年にデビュー。その後に登場したカングーは、商用だけでなく自家用車として使う人も増えているが、エクスプレスは郵便局や生花店が使うれっきとした商用車だった。ゆえに国内はもちろん、本国でも状態が良いものは多く残っていない。今乗れるネオクラシックカーのなかでも、ひときわ珍しい車種のひとつだ。
「買ってはじめの頃は壊れましたけど、今はとても調子がいいです」と、和やかな表情で話すオーナーの永尾さん。2年前に程度極上の個体を愛知県のショップから購入し、以来、家族との移動もすべてエクスプレス1台でこなしている。傍から見るとかなりの強者だが、話を聞くと、これまで乗ってきたクルマで“耐性”がついていたことがわかる。
「エクスプレスの前にもネオクラをかなり乗り継ぎました。アルファロメオの155、フィアット・バルケッタ、VWゴルフⅠ、シトロエン・エグザンティア、あとはメルセデスの190E、それから……さらに古いですがBMWの2002tiにも。黄色いゴルフⅠの5ドアは特にいいクルマでしたね」
だが、いくら複数台のネオクラ車を乗り継いできたとはいえ、商用車のエクスプレスにたどり着くのはかなりマニアックだ。これには長年取り組んできた趣味が影響している。
「トレイルランを10年以上続けています。東北や東南アジアに転勤したこともあって、広がる大自然を前にますますめり込んでいきました。大会にも定期的に出ていますが、多くが地方遠征なので、移動や前泊のコストは意外にもかさみます。ならば自分のクルマで行って車中泊してみようと。もちろんそのために買ったわけではないですが、エクスプレスは天井も高く、車中泊が思いのほか快適なんです」。
現在は頼れる相棒として良好な関係を築いている永尾さんだが、購入した当初はスターターの故障などでレッカーを3回ほど経験。エアコンの不調も抱えていた。
「初めは手ごわかったです(笑)。ですが、神奈川県にあるフランス車に強い武田モーターサービスさんで診てもらうようになってからは、すっかり問題なく走れるようになりました。部品はサンクと共用のものも多く、おかげさまでまだどうにかなっています」
大事にしつつも、実用車として見事にエクスプレスを使いこなしている永尾さんには、ぜひこれからも大切に乗り続けていただきたい。が、数多く乗り継いできただけに、他にも気になるクルマはあると話す。
「実用性は大してないですが、ポルシェは気になる存在。空冷は人気が高まって久しいですが、今こそあえて944や968といった、FRの直列4気筒エンジンを積んだモデルに乗ってみたい、なんて漠然と思うことがあります。もちろんお金があれば、ですが(笑)」
1973年生まれ。各国の代表的なネオクラ車を複数乗り継ぎ、2021年にルノー・エクスプレスを購入。趣味のトレイルランも10年ほど本格的に続けている。