ハイドロの極楽な乗り心地から抜け出せない
ネオクラなクルマに求める理由のひとつに「今のクルマでは得られないアナログな乗り味」というのがある。それはコストを度外視してつくられた乗用車の滑らかな乗り心地であったり、大衆的な小型車のチープさが逆に味わい深く感じられたりと、人によってさまざま。
フランスが誇る異端、シトロエンはそのどちらにも属さないのだが、オイルと窒素ガスを混ぜたハイドロニューマティックサスペンション(ハイドロ)による柔らかな乗り心地は筆舌に尽くしがたいもので、今もこの複雑なサスを採用していた時代のシトロエンを求めるファンは多い。今回は、そんなシトロエンの“色”をなお残す「エグザンティア」(1993~2001)をご紹介。
表参道に本店を構えるヘアサロンKATEのオーナースタイリスト、豊田光信さんは、自宅から同店までの通勤に毎日エグザンティアを使っている。
「勤めていた時代には手が届かなかったクルマを、独立をきっかけにいよいよ手に入れたいと思い立ったんです。最初の一台が古いシトロエンというのは勇気が要りましたが、かつて美容業界の先輩がシトロエンのAXという小型のハッチバックに乗っていたことが強く印象に残っていて、あの独特な感じが忘れられなかったんですね」
そして2019年、webで「ワンオーナー、走行距離5.5万km」という極上の売り物件を長野県のショップで見つけ、クルマに詳しい知人のフォトグラファーとともに赴き即決した。
そしてなんといっても深みにハマる人が多いのが、ハイドロの乗り心地。シトロエンは2015年まで製造されたミドルセダン「C5」を最後に、この複雑なハイドロを採用しなくなったため、エグザンティアは今や稀少なハイドロシトロエンの生き残りだ。
「夫婦でキャンプに行くことも多いのですが、ハイドロの足回りが本領を発揮するのは高速のクルージング。ガタゴトと路面の凹凸を乗り越えたあとに、上下に浮遊するようなフワッとした余韻が残るのですが、これを一度体感してしまうとやめられない。柔らかなクッションが入ったシートの座り心地も相まって、本当にリラックスした気持ちで運転できます」
シトロエンのハイドロは、前述のとおりオイルと窒素ガスを混ぜ合わせている。その緑色のオイル(LHM)は、シトロエンの血液ともいわれるほど重要な役割を果たすもの。だが、オイル漏れのトラブルは、古いシトロエンオーナーであればお約束。漏れ出した箇所によって重症度は異なるが、大きく漏れた場合は修理の手間が大きくなることも。
「幸いにも、自分は今のところ大きなトラブルに見舞われていないですが、やはり漏れやにじみは避けられません。定期的に専門店のオートモービル木村さんで見ていただいているので、そうした定期メンテナンスが大事になってくるのだと思います」
初めての愛車にして、ハイドロシトロエンの虜になってしまった豊田さん。良好なコンディションを保つエグザンティアとの蜜月は当面続きそうだ。
1977年生まれ。美容専門学校を卒業後、19歳の時にヘアサロン「SHIMA」に入社。2015年、KATEに代表として参加。現在は4店舗を経営する。
Photos: Mitsuru Nishimura