関東屈指の焼肉タウン、川崎。駅から少し離れたコリアンタウンを出発点に、マキタスポーツさんとともにその魅力をルポルタージュ。
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1970年山梨県生まれ。芸人、ミュージシャン、俳優と幅広く活躍。新潮社のWEBマガジン「考える人」で「土俗のグルメ」という食エッセイの連載をもつ。年を経て焼肉との向き合い方が変わってきた。
一軒目|焼肉 西の屋
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タレには歴史が詰まっている
川崎の老舗名店をハシゴ焼肉
「最初にキムチを食べると店の哲学がわかるんだよね。ここのは酸味があってしっかりとした旨味も感じられる。僕の好きなタイプです。最近はどこの店に行っても旨味だけが強くてごはんに合いそうなキムチばかり出てくるから味気ない。焼肉店のキムチは個性がないといけないよね。だって積み重ねてきた歴史が、それぞれ違うはずなんだから」
川崎駅からタクシーで10分ほど。通称「セメント通り」。セメント工場で働く労働者の通勤路であったこの一帯は、往時は60軒近くの焼肉店があったという。初めに訪れた焼肉 西の屋ができたのがおよそ60年前のことだ。
「このあたりは日本鋼管をはじめとする大企業の工場があったことに加えて、在日韓国・朝鮮人がこの地に根を下ろしたことで労働者向けの焼肉店がどんどん増えていったとか。本場韓国の焼肉と一線を画する日本独自の『日式焼肉』の歴史には興味があります。ハラミやリブロースともに、しっかりと下味をもみ込ませた肉は後からタレをつけなくてもおいしい。昔は肉の質が今ほど高くなかったから、味つけのタレで工夫していたんだね。終盤はキムチの残り汁に肉を着地させ、味変させるのが自分なりの楽しみ方なんだ」
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焼肉 西の屋
神奈川県川崎市川崎区浜町4-17-24
TEL:044-344-0672
営業時間:11時~22時
定休日:月曜(祝日の場合は翌火曜)
二軒目|道飛館
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次に向かったのはよりディープなエリアにある道飛館。住宅街で迷子になっていたわれわれを通りがかりの初老男性が案内してくれた。
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「事前に仕込んでいたかのように、ナイスタイミングで現れてくれた(笑)。道飛館を目指していたら、迷子になる人多いんだろうね。路地裏にあるお店は渋くて、雰囲気が素晴らしい! 建屋は年季が入ってるけど店内は清潔。こういう細部に手を抜いてないところが信頼できる。切り盛りするご夫婦の接客も気持ちいい。ほかのお客さんたちは看板メニューの生ハラミを注文している。「生=冷凍してない」ということらしいけど、せっかくだから並ハラミと生ハラミを食べ比べてみる。普通のハラミは口の中で程よく嚙みごたえがある。肉の旨味が強くてこれはおいしい。次に生ハラミ。いや、これはすごいな。とにかく柔らかくて、しっかりサシが入ってるのにまったく脂っこくない。昔からこんなおいしい肉食べてたなんて嫉妬するよ。口の中に入れた肉はあっという間に行方不明。さっきの店もそうだけど、とにかく味つけのタレがおいしい。やっぱり、焼肉はタレなんだよね。塩で肉本来の味わいを楽しみたい? だったらいい肉を買ってきて家で焼けばいい」
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道飛館
神奈川県川崎市川崎区池上町10-5
TEL:044-277-9195
営業時間:17時~22時
定休日:月曜・第1火曜
三軒目|炭火焼肉 大将軍
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最後に向かったのは炭火焼肉 大将軍。駅前の繁華街で1963年に創業し、多くの地元の人たちに愛されてきた老舗である。
「すでにお腹いっぱいのはずなんだけど、人が肉を焼いている姿を見ると無性に食べたくなってくるから不思議だ。油にまみれながら肉を焼くという行為には原初的な興奮がある。ここは駅前の一等地でもまれてきただけあって、総じてメニューのレベルが高い。ここのハラミもおいしいなあ。肉の旨味が染み込んだタレで皿がどんどん汚れていく。僕はこれを“タレのエイジング”と呼んでいる。時間がたってタレといろいろな肉の脂が重なり複雑な味わいになって、僕だけの大事な財産になる。もはや小宇宙。これは締めにも活躍する。年を重ねて食が細くなりたくさんの肉が食べられなくなっても、白米が食べたくなるのは変わらない。小皿にごはん、キムチ、残ったナムルなんかをのせ、肉とエイジングしたタレを混ぜ合わせて、「勝手にビビンパ」で締める。肉と一緒に頼んだカルビスープもおいしい。60年近い歴史を経て、たどり着いた味なんだろう。今日は川崎のコリアンタウンで独自の進化を遂げた日式焼肉の原風景を知るとともに、京浜工業地帯の懐の深さを感じました。さて、もう一軒行っちゃう?」
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炭火焼肉 大将軍
神奈川県川崎市川崎区小川町5-17
TEL:044-222-4759
営業時間:11時~22時30分(L.O.)
無休