いつもの日常に寄り添う味噌汁。気になるあの人の記憶に残る一杯と思い出のエピソードとは。
大戸屋たっぷり野菜の麦みそ汁
定食が人気のチェーン店。「一人で飲んでいても落ち着くし、料理そのものが家庭的でどこか上品。大戸屋はリーズナブルに楽しめる割烹なんです」(稲田さん)。店舗情報の詳細は大戸屋の公式サイトhttps://www.ootoya.com/をチェック。
麦味噌の甘さと具材の存在感味噌汁を超えた一つのごちそう
鹿児島育ちの僕の実家の食卓には、2種類の味噌汁が出てきました。一つは天ぷらや牛肉などの特別な料理と一緒に出てくる八丁味噌の味噌汁。もう一つが九州でお馴染みの麦味噌を使った味噌汁。こちらは朝昼晩、365日いつでも出てくる日常的な一杯でした。
大戸屋には、全国チェーン店としてはとても珍しい、九州ローカルの甘めの麦味噌を使った「たっぷり野菜の麦みそ汁」というメニューがあるんです。たっぷりの野菜がシャキッと感を絶妙に残して煮込まれていて、「煮えばな」ならではの華やかさで味噌が香ります。素朴で程よいダシ感、薄めの味加減も含めて、もはや「一品料理」として完成されたパーフェクトな味わいです。
九州出身の僕には懐かしい味でもあるのですが、麦味噌に馴染みのない地方の方たちにも「こういう味噌汁があるのか!」と驚きを感じさせる一杯だと確信しています。それにしてもなんで麦味噌なんだろう…。昔いた九州出身のスタッフが考案したメニューが今も残っているのか? そんな想像さえかき立てられます。また、飲食店の味噌汁は作り置きを温めたものが多いのですが、大戸屋のは味噌の香りがとんでないし、野菜もシャキシャキで存在感があるので、一杯一杯、注文を受けてから、丁寧に作ってることがわかります。チェーン店にしては、というレベルではなく、外食で味わえる最高の味噌汁の一つです。
飲料メーカー勤務を経て、南インド料理店「エリックサウス」を開店。『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』など著書多数。
とんかつ とんき 目黒本店とん汁
目黒の老舗とんかつ店。「とん汁」350円、「串カツ」1100円。「カウンターの奥で職人たちがそれぞれの持ち場で働く様子を眺めるのも楽しい」(小宮山さん)。
東京都目黒区下目黒1-1-2
TEL:03(3491)9928
営業時間:16時~21時(L.O.)
定休日:火曜・第3月曜
幼い頃味噌汁を通して感じた老舗の女将の優しい気遣い
親父がここのとんかつが大好きで、幼い頃から家族で行ってたんですが、あるとき、手が滑って豚汁をこぼしてしまったんです。それが横に座っていた女性にかかってしまって、僕も両親も平謝りだったんですが、その女性はずっと怒っていて、まだ小さい僕はそれがとても怖かった。すると、当時の女将さんがすっと出てきて「こちらの坊ちゃんは悪くないです。うちのカウンターが狭いのが悪いんです」と女性にクリーニング代を払ってその場を収めてくれたんです。その記憶は強烈で、大人になっても足しげく通うようになりました。若い頃はヒレカツ派、やがてロースになり、今ではビールと串カツを楽しんでいます。締めはもちろん豚汁です。端切れの肉を使っているんでしょうが、満足度が高い。というかこれだけで酒が飲める。いずれは、豚汁とビールだけを頼むようになるのかも。味噌汁だけ単品でオーダーできる店って意外とないので、これから先も重宝しそうです。
ホフディランのボーカル・キーボード。音楽活動はもちろん、カレーをはじめ食のシーンでも積極的に発信を続ける。地元渋谷区の観光大使。
蕎麦処・酒処 みはら庵カツ丼(味噌汁付き)
蕎麦がメインの店だが、隠れた人気メニューが「カツ丼」748円。「劇場BeachVの近くにあり、若手芸人はみんなこの店のお世話になってます」(ハリウッドザコシショウさん)。
東京都豊島区要町3-9-13 2階
TEL:03(5966)8224
営業時間:11時30分~23時
無休
カツ丼の陰に隠れてるくせに存在意義を考えさせてくれた
大阪にいた頃、同期だったケンドーコバヤシたちが家に来たときに、実家から仕送りしてくれたジャガイモで味噌汁を作ったことがあります。喜んで食べてましたけど、ジャガイモの芽を取り忘れたみたいで、そのあとみんなが食あたりして大変でした(笑)。
味噌汁といえば千川駅の劇場近くにある「みはら庵」を思い出します。事務所の後輩と真面目な話をするときは必ずここでした。バイきんぐの小峠とよく話したのは、ふがいない後輩への愚痴。話してるうちに次第に腹が立ってきて、もうビールでも飲もうかって。いつも頼んでたカツ丼の横にかならずいたのが味噌汁です。きっとすごくこだわってたんでしょうけど、まあ普通の味噌汁ですわ。でもね、なくてもいいけど、ないとちょっと寂しいんですよ。若いときはみんなカツ丼になりたがるけど、こういう生き方もあるんですよね。芸人としての一つのあり方を、ここの味噌汁は教えてくれたような気がします。
ピン芸人。「R-1ぐらんぷり2016」で史上最年長の王者となる。公式YouTube「ハリウッドザコシショウの地獄大連発チャンネル」も随時更新。
松屋ビーフカレギュウ(味噌汁付き)
すべてのメインメニューに自動的に味噌汁がついてくる松屋。「カレーと味噌汁という組み合わせが、最高であることを教えてくれたのも松屋です」(上出さん)。店舗情報の詳細は松屋フーズの公式サイトhttps://www.matsuyafoods.co.jp/をチェック。
灼熱のイグアスから夜明けの松屋につながる味噌汁の縁
世界の辺境へ行くロケで、パラグアイのイグアスという古い日本人移住地区に行ったときのことでした。ペンション園田という民宿で、当然のように味噌汁と納豆が出てきたんです。実はそれまで味噌汁が苦手で、部活の合宿で出てきたときも残したくらい。パラグアイで出されたのは、おそらくインスタントで具材も豆腐とネギだけ。何十年も日本に帰ったことがない彼らの最高のもてなしですから、無理やり流し込むようにして飲んだら、沁みるようにおいしかった。それから一気に味噌汁が好きになってしまいました。
日本に帰ってきてからもよく味噌汁を飲むようになりました。牛丼店も無料で味噌汁がついてる松屋にばかり行くように。深夜まで仕事して、明け方によく食べたのが松屋の「ビーフカレギュウ」と味噌汁です。今はニューヨークにいるのでなかなか食べられないのですが、会社近くで眠い目をこすりながら食べた一杯はおいしかったなと懐かしくなります。
大学卒業後テレビ東京に入社し、「ハイパーハードボイルドグルメリポート」など人気シリーズを多数手がける。退社後、NYへ拠点を移す。
Illustration:Kenichi Watanabe
Text:Masataka Kin