2023.11.01

味噌汁という宇宙をめぐる旅 長野編|文・嶋 浩一郎【40歳、味噌汁を極める。】

日本一の味噌の生産量を誇る長野県。そんな聖地に行けば、味噌汁が愛され続ける理由がわかるかもしれない。我々は特急あずさ号に飛び乗った。

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嶋 浩一郎博報堂ケトル クリエイティブディレクター

博報堂ケトルのクリエイティブディレクターでありながら、本屋B&Bの運営にもかかわる。本誌ではブックコラム「未知への扉」を担当。食にも造詣が深い。


 ついに、UOMOが味噌汁の特集をすることになった。
 味噌汁は多忙な大人にとって日々のチルアウトアイテムでもあり、健康を意識して手軽に発酵食品を食生活にとりいれたい我々の強い味方なわけ。やっとその価値に気づいたかと思っていたのだが、なんと味噌王国信州長野県でひたすら味噌汁を味わうツアーを敢行するという。わかってるじゃないか、UOMO!
 長野県には古くからの味噌蔵がいくつもあるし、神州一味噌やタケヤみそなど大手メーカーも本社を構えている味噌の聖地だ。関東圏で食卓に並ぶ味噌汁はたいてい長野県産の信州の味噌を使っている。長野県には味噌汁ライフのヒントが溢れているに違いない。

各店舗のマップ

1石井味噌

 まず、最初に訪れたのが、150年以上前から味噌をつくり続ける松本の味噌蔵 〈石井味噌〉。6代目の石井康介さんに製造法などお話を伺う。
 味噌は米麴と大豆と塩と水だけでつくられるシンプルな発酵食品。米麴のかわりに麦麴を使ったり、大豆の産地の違いや、塩分量の調整などで、味噌の味わいは全く異なるものになるという。使用する味噌の種類や、豆腐やワカメなど組み合わせる具材の違いで味噌汁の味は無限に変わる。味噌汁は宇宙なのだ。
 石井味噌は国産丸大豆を使用し、松本の湧水を使ってつくるが、なんといっても3年という長期間、杉桶で天然熟成するのが売り。信州の味噌は淡色で知られるが、熟成すると赤みを帯びてきて味わいはまろやかになる。
 味噌蔵にあるレストランで豚汁をいただくことに。赤味噌は動物系の臭みを消す効果もあるそうで、豚汁にはもってこい。この豚汁、サイドメニューというよりは完全なメインディッシュのボリューム。地元の信州野菜たっぷり、豚肉たっぷりで大満足。まろやかな味わいでホッとできます。
 日本には1000軒弱の味噌蔵があるという。産地や熟成期間を変えて自分の好みの味噌を探すのも面白い。これからは日本酒だけでなくローカルな味噌にも注目してみよう。早速、3年熟成の赤味噌を購入だ。

おにぎりセット
三年味噌の豚汁

長野県の松本市にある老舗の味噌蔵、石井味噌の3年熟成させた赤味噌と地元食材を使った豚汁。口にした瞬間の圧倒的なうまさとコク、深い余韻のバランスが素晴らしい。

石井味噌
味噌蔵併設のレストラン。「三年味噌の豚汁」660円と「おにぎりセット」550円は、ランチで味わえる。
長野県松本市埋橋1-8-1
TEL:0263-32-0534
営業時間:8時~17時(昼食は11時~14時)
無休


2餃子の店

 つぎに訪れたのが松本の餃子店、その名も〈餃子の店〉。どんだけ餃子推しなのか、その店名からうかがい知れる。普通、餃子の付け合わせといえば中華スープ。しかし、長野県では中華料理店でも豚汁を供する店が多いという。
 店主の牛山さんに話をきくと、豚汁には近くの工場から購入するタケヤみそと、ハナマルキの2種の味噌をブレンドして使っているそうだ。餃子の後に味噌汁をいただく。うん、滋味深い味わいが意外にも餃子とマッチするではないですか。餃子には中華スープ、和食には味噌汁という狭い価値観に縛られていた自分を反省だ。味噌汁の新しいパートナーを探してみよう。

餃子の店
餃子の店 地元で人気の老舗の餃子専門店。餃子5個、ライス、つけもの、そして豚汁がついて660円。 長野県松本市高宮南7-37 TEL:0263-25-6951 営業時間:11時45分~13時30分、17時~20時 定休日:月曜

3ユウナギ ごはんと文房具と

 松本から長野市に移動して訪ねたのが元文房具店のカフェ〈ユウナギ〉。店主は両親が長年経営していた文具店を引き継いだ濱野友美さん。おにぎりと味噌汁をメインに打ち出している。味噌汁は季節の地野菜を具材に信州の味噌と西京味噌をミックスしているのが特徴。ミックスすることによって甘く優しい味わいに。〈餃子の店〉もそうだったけど、各店、味噌をミックスして自分の好みの味をつくっている。

ユウナギ ごはんと文房具と
ユウナギ ごはんと文房具と 元文房具店を改装したおにぎりカフェ。好きなおにぎりに、味噌汁&つけものセットを350円でつけられる。 長野県長野市吉田5-26-7 TEL:026-243-8665 営業時間:11時~15時 定休日:火・水曜

4横町カフェ

 最後に訪れたのが七味唐辛子で知られる根元 八幡屋礒五郎がてがける〈横町カフェ〉。善光寺参りのお土産としてヒットした七味唐辛子ということで、カフェも善光寺の仁王門のすぐ近くに。ここでも、味噌汁が飲めるのだが、コーヒーをドリップするように自分の好みにカスタマイズできるのだ。まず、だしをセレクトしてコーヒーポットで注ぐ。味噌も選んでだしに溶かして味噌汁に。まるで気分はバリスタ。今回は正統派の昆布だし、味噌は善光寺のすぐ近くのよしのやの「御開帳 粒 黄」を選んでみた。
 七味唐辛子屋さんのカフェだけあって、味噌汁に七味唐辛子をかけて途中で「味変」を楽しむこともできる。グッと、味わいが引き締まる。
 今回はオーソドックスな昆布だしをえらんだんだけど、ビーフコンソメやチキンブイヨンをベースに味噌汁をつくることもできるなんて面白くない? さすが、味噌王国! 長野の味噌汁の振れ幅ってすごい。うーん、味噌汁ってクリエイティブだ。
 明日から、創造力を羽ばたかせてマイ味噌汁を極めてみよう。味噌汁は自由だ!

横町カフェ
横町カフェ 七味唐辛子でお馴染みの根元 八幡屋礒五郎が営むカフェ。新感覚ドリップ味噌汁「MISOGORO」500円が人気だ。 長野県長野市横町86-1 TEL:026-232-8770  営業時間:10時~16時30分(L.O.) 無休


Photos:Shinsaku Yasujima
Text:Masataka Kin

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