2023.12.30

【40歳からのメシ旅・長崎編】「白い鉄火巻ってなんだ?」|爆食ウィークエンド72hours! @ 長崎くんち祭り(前編)

長崎の氏神である諏訪神社の秋の大祭、「長崎くんち」が10月7日・8日・9日に開催された。1634年から続く名物祭りと美食を求め、編集部員の薬師神と北條が二泊三日で現地に赴いた珍道中を、前編・中編・後編の3本立てで紹介する。

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長崎出張は、寿司職人の御尊顔から!

薬師神:ちなみにカメラマンはボクです。


北條:ファッション関連取材が多い我々のルポ記事ですが、今回は「長崎グルメ&祭り&観光」の変化球。初っ端からインパクト勝負でいこうかなと。


薬師神:ツカミは大事。たくさんの大人男子に読んでもらって、長崎を好きになってもらいたい。


大人は皆、旅のキッカケを求めている。去る10月7日・8日・9日の3日間、長崎県長崎市の氏神のひとつである諏訪神社の秋の大祭、「長崎くんち」がコロナ禍前の2019年以来となる4年振りに開催された。この名物祭りと美食を求め、編集部員の薬師神と北條が長崎の地に二泊三日で赴いたのだ。






【40歳からのメシ旅・長崎編(2泊3日)】のメンバー

副編 薬師神(パイセン)プロフィール画像
副編 薬師神(パイセン)
165cm・60kg。ランチの行きつけスープカレー店「ネイビーズ」にてライスは50円引きの微盛り(80g)でトッピングに凝る。ドトールのヨーグルン定番化運動の旗手。甘党。下戸。
ウェブ担当 北條プロフィール画像
ウェブ担当 北條
185cm・90kg。同スープカレー店でライス特盛り(400g)の上、超特盛り(600g)を裏メニュー化。幕の内弁当が苦手で丼もの好き。焼肉はおかず派。サラダの意味がわからない。





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薬師神:てことで、タイチ寿司から?

北條:食ルポは後ほど。店内の奥の方に呈上札(ていじょうふだ)がありますでしょ?


薬師神:橙色のお札のことかしら。すし券の隣に「踊呈上・芸妓さんの絵・丸山町」とあるね。


北條:食べてるうちに、観光しているうちに、「長崎くんち」が学べます。本稿の趣旨です。


薬師神:「長崎くんち」初心者のボク…。


ここで改めて、長崎の氏神のひとつである「諏訪神社」の秋季大祭「長崎くんち」の概要を記しておこう。1634年に2人の遊女が諏訪神社神前に謡曲「小舞」を奉納したことが「長崎くんち」の始まりとされている。1663年の長崎大火で市外の大半が焼失し、1672年に町が再建された際に、復興祈願の意味合いも込めて現在のような「秋の大祭」として整理された。開催期間は毎年10月7日(前日)・8日(中日)・9日(後日)と定められており、コロナ禍により2020年、21年、22年は中止の憂き目に遭っていた。


北條:実は、長崎市内の老舗や名店には必ずと言っていいほど飾られているあの呈上札が「長崎くんち」のキーアイテム。我々の「【40歳からのメシ旅・長崎編】」を一気通貫しております。


薬師神:まじか。ホテルに飾られたポスターにも芸妓さんと丸山町・本踊の文字があったよね。



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薬師神:要は、踊りを見物するお祭り?

北條:商売繁盛・町対抗戦みたいな?


薬師神:さっきの橙色の呈上札とどう繋がるのか。追い追い明らかになっていくのでしょう。



祭礼・お祭り・観光名物としての、現代における「長崎くんち」のメインコンテンツが、バラエティ豊かな「奉納踊(ほうのうおどり)」だ。7年毎に持ち回りで担当する「踊町(おどりちょう)」の有志が、それらを演し物(だしもの)として毎年10月8日(中日)に中央公園にて披露している。1979年に国指定重要無形民俗文化財に認定された奉納踊には、日本唯一の西欧交易拠点であった出島を擁していた長崎ならではの異国趣味が取り入れられている。

▼丸山町:傘鉾・本踊
▼本石灰町:傘鉾・御朱印船
▼桶屋町:傘鉾・本踊
▼船大工町:傘鉾・川船
▼栄町:傘鉾・阿蘭陀万歳
▼万屋町:傘鉾・鯨の潮吹き

長崎市街が多くの観光客・見物客で賑わう「長崎くんち」の本丸、「踊町:演し物」の2023年度は以上の6つ。江戸時代より美意識の高い豪華絢爛な祭礼だった「長崎くんち」の主幹事となる踊町は長崎市内に58ヵ町。全町が7つの組に区分され、奉納踊を出す当番年が7年に一度回ってくる。(2023年度は雨天順延)


薬師神:細かいですが、町(まち)なのか町(ちょう)なのか。編集者魂が騒いでしまうよ。


北條:船大工町(ふなだいくちょう)以外の読みは町(まち)ですね。「傘鉾(かさぼこ)」とは大きな傘の上に鉾・長刀・造花を飾りつけた祭礼アイテムになります。纏をイメージしてください。



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ざっくりと旅のモチベーションを押さえたところで、時間軸は6時間前の長崎空港へ。4年ぶりの開催となる2023年度の「長崎くんち」はタイミングよく土・日・月祝に該当。薬師神と北條は、祭りの後半2日間と、プラス1日の日程で来崎した。

有効画素数2,610万画素、富士フイルムが誇るミラーレス一眼「Xシリーズ」の中でも上位に位置する玄人モデル「FUJIFILM X-Pro3」を着こなしのワンポイントとして首から提げた薬師神が(ほぼ)撮影担当、文化系大食漢の北條が食担当。「長崎くんち」観光を軸とした2人のメシ旅が、今始まる。






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メシ旅の拠点は、日蘭交流400周年を記念して長崎港ベイエリアに2000年に開業した複合商業施設、長崎出島ワーフ。気軽にリゾート気分を味わえる風光明媚なスポットで、大人男子のロマンとはなんぞやとしばし物想いに耽けてみる。長崎は今日も雨だった。

北條:長崎グルメをさがし、さがし求めて。ふたり、ふたりさまよえば、行けど切ない石だたみ…。



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北條:あゝ長崎で今日もお腹が空いた。

薬師神:ちなみに、1969年にリリースされた昭和のヒットソングは「内山田洋とクール・ファイブ」のデビュー曲にして最大のヒット曲。初見ではメインボーカルが内山田洋さんだと誤解されがちですが、歌い手は長崎県生まれの前川清さんで、グループリーダーを務める内山田さんはギター担当になりますのであしからず。


北條:さすが元バンドマンのパイセン。長崎港を眺めていたらお寿司が食べたくなりました!









①タイチ寿司:白い鉄火巻き=シロテッカ

長崎市銅座町5-16



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まずは軍艦島出身の大将、木本太市さんの朗らかなキャラクターとともに地元民に愛される「タイチ寿司」へ。新地中華街から徒歩2分ほどの路地裏に佇む寿司店は、カウンター10席・テーブル4人掛け1席。全国区のテレビや新聞で紹介されるや、長崎名物の「白い鉄火巻き」を目当てに観光客が押し寄せている。

薬師神:海なし県、岐阜県土岐市出身です。マグロを巻いた赤い鉄火巻きしか知りません。


北條:札幌出身で寿司には一過言ある私ですが、同じく知らず。マグロを炙ってるのかしら?


今や長崎を代表する寿司として認知されるに至った「白い鉄火巻き」、いざ実食!



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その正体とは、長崎港で採れる天然の白身魚であるヒラス、ブリ、ハマチを使った細巻き寿司だった。この日に食した白い鉄火巻きはヒラスで、別名ヒラマサとも呼ばれる。基本事項として、長崎湾では天然マグロの水揚げが少なく、入り組んだリアス式海岸で育てられる養殖マグロの生産量は長崎県が日本一。日本の養殖マグロのうち約3割が長崎産になる計算だ。

北條:この文脈では、天然マグロを使った鉄火巻きは高級寿司になりそうですが…。


しかし、こと長崎での食文化においてはマグロの鉄火巻きは異端止まり。生まれも育ちも長崎の御仁にマグロの赤い鉄火巻きを出すと、「なんだこれは?」と御叱りを受けることもあるのだとか。マグロよりもメジャーな白身魚を打ち出す通称・シロテッカは、長崎に生きる寿司職人と長崎県人のプライドなのだ。


北條:脂肪分や旨み成分が多いマグロのソフトな食感と比べると、白身魚のプリプリとした歯ごたえに満足感があります。クセもない。無限に食えます。


薬師神:白身魚好きのボクにとっては超好み。逆に、東京で食べられるお店を探したいよ。



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北條:個人的見解として、白い鉄火巻きのレゾンデートルと隠語の「白無垢鉄火」が脳内で重なります。鉄火に白無垢を被せたるが如く、外貎素直にして、心ざま暴らく張の強き漢かな。人のよさと九州男児の熱い魂が同居する。まるで長崎人の心意気のよう。

薬師神:いかにも。


北條:あと、味わい深い甘露醤油が白身魚に良く合いましたよね。ほろ酔いで店を出ると、ドロッと甘い九州醤油のような闇夜が降りてきていました。


薬師神:うむ。醤油が東京みたいに辛口でサラサラしておらず…って、なぜにロマンチストに?


北條:あ。呈上札について聞くの忘れた!


気になる「タイチ寿司」のお値段だが、白い鉄火巻きが1,000円、特上寿しが3,000円とリーズナブル。他にもアジ、鯨のサエズリ、カラスミなどを堪能した薬師神、「あのラインナップを東京の江戸前で注文してお酒を付けると3万円は超えそう」と述懐している。









②桃若(ももわか):おでん

長崎市本石灰町3-1



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「行こか戻ろか」の迷いもなく思案橋通りへ直行。長崎メシ旅、2軒目は昭和6年創業の「桃若」へ。三代目の女将さんと四代目の息子さんが切り盛りする老舗おでん店はアットホームな雰囲気。ちなみに思案橋は現存せず、川は暗渠で欄干の跡を残すのみだ。

薬師神:常連さんが集まるこういうお店には、よそ者のボクは怖くて絶対に入れないわけです。「桃若」も西部劇のバーみたいな感じかと思ったら、違った。


北條:なんでしょうね、この温かさ。


店内は常に大繁盛で5分に一度は「座れます?」「ごめんなさいねぇ」の応答が引き戸越しに行き交うが、客の回転率は速い。タイミングと縁が命。



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練り物を軸に据えた純正「長崎風おでん」の聖地である「桃若」。トビウオを乾燥させたアゴダシで煮込んだボリューム満点のおでんは2軒目に最適。長崎では縁起物としてお馴染み、卵をかまぼこで包んだ人気メニューの「龍眼」はマストで注文しよう。

薬師神:りゅうがん?


北條:御意。あと、長崎では「かんぼこ」。


薬師神:かまぼこ?


北條:かんぼこ。座れたらラッキーな「桃若」は町の中央を思案橋商店街が縦断している本石灰町にあります。「長崎くんち」ではスペクタクルな御朱印船を演し物として奉納しているそうです。


薬師神:ちょいちょい「長崎くんち」を差し込んでくるよね。見たいけど雨で明日に延期かぁ。









③宝雲亭本店 とり福:一口ギョーザ

長崎市銅座町8-9



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長崎の夜をまだ締めたくない2人、「タイチ寿司」のある銅座に戻る。長崎メシ旅、初日のラストを飾る3軒目は「元祖 一口ギョーザ」の暖簾が掲げられた「宝雲亭本店 とり福」だ。「桃若」と同じ本石灰町にも「宝雲亭 思案橋店」があるが、満席にて徒歩3分の本店へ。

北條:店内から学生やサラリーマンの歓声が聞こえてくる町中華のような佇まい。大好きですね、こういう地方ならではのチェーン店。


薬師神:ていうか、暖簾も「宝雲亭本店」と「とり福」の2つが横並びだし、どっちがどっちなのか編集者としては気になってしまうよ。


以前は別店舗だった、福岡・博多発祥の一口餃子の名店「宝雲亭本店」と唐揚げの名店「とり福」。2020年7月1日に「宝雲亭本店 とり福」として合併して壁が取り払われ、B級グルメ好き感涙店へとポケモンフュージョンした。餃子と唐揚げの厨房は今も異なる。



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北條:宝雲亭公式ホームページを拝見しますと、福岡の数店舗のほか、こちら銅座の「宝雲亭本店」の記載はありますが合併前の名称で出ていて、「宝雲亭 思案橋店」の店舗紹介がありません。なぜ?

闇なのか美味なのか考える余裕もなく酔い潰れる。焼き餃子(450円)、やっぱり甘かったニラ玉とじ(450円)、からあげ 骨なし(550円)の看板メニューは食欲に拍車を掛けるミニサイズと衝撃の安さでついつい食べ過ぎてしまう。まさにカジュアル中華の魔窟であった。






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満腹を癒やすべく、散歩がてら長崎新地中華街の北門へ。風水学に基づき配置が決められた牌楼は、1986年4月に中華街の四方、東西南北の入り口に建てられた。門の敷石に彫られた四神は五行に基づき色が定められ、「東門:青龍(青)」「西門:白虎(白)」「南門:朱雀(赤)」「北門:玄武(黒)」のカラーパレットで東西南北を司っているのだ。

薬師神:あれ。なんか聞こえない?


北條:祭り囃子みたいな…。


そろそろ看板の時間帯に突入した新地町。ふと遠くを見やると、囃子太鼓とともに御神輿のようなものが動いているではないか!?


薬師神:近くまで行ってみよう。



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薬師神:なんか赤い。御朱印船かしら。

北條:明日の練習?


雨天のためビニールシートで覆われているが、これも「長崎くんち」の一環なのだろうか。奉納踊は一般見物客を収容して中央公園で催されるはずだが、ここ新地町での見物客も拍手をしたり写真を撮ったりとガチな空気ではあった。とりあえず初日は食べ過ぎでギブアップした2人、明日は開店前の行列に並ばねばならない名店も控えており早々に退散した。


薬師神:北條さんのiPhone、霧雨のおかげで最後にエモいショットが撮れてるけど?


北條:街の熱気も相まって、メガネのレンズを曇らせた長崎の夜の雨滴。万華鏡のような視界のなか後ろ髪を引かれる思いで帰路につく。こうして「40歳からのメシ旅・長崎編」、初日の夜は更けていった。


薬師神:だからなんでロマンチックなの!?






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オマケの3枚。

空港到着後にお邪魔した「長崎国際観光コンベンション協会」にて「長崎くんち」についてのレクチャーを受け、パンフレットを入手していた薬師神と北條。滞在2日目となる明日は、国指定重要無形民俗文化財である「奉納踊」を見物することができるのか!?


中編につづく)





▼タイチ寿司
住所:長崎市銅座町5-16
TEL:095-826-2744
営業時間:17時~23時(L.o.)
席数:カウンター10席・4人掛けテーブル1席
定休日:日曜

▼桃若
住所:長崎市本石灰町3-1
TEL:095-823-3392
営業時間:18:00~24:00
席数:24席(カウンター席・テーブル席・小上がり)
定休日:日曜・祝日(夏季)/不定休(冬季)

▼雲龍亭本店 とり福
住所:長崎市銅座町8-9
TEL:095-823-4042
営業時間:17:30~24:00(L.o. 23:30)
席数:78席
不定休

<問い合わせ>
長崎国際観光コンベンション協会
長崎くんち <長崎伝統芸能振興会>

Photos: Kazuhiko Yakushijin, Takafumi Hojoh
Text: Takafumi Hojoh

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