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写真家・平野太呂が、気になる人の行きつけにお邪魔。決まって頼むというメニューを食べて、本音をつづる連載から「カレー」にフォーカスしてピックアップ。
01:二子玉川|アッチャカーナのチキンカレーと麦ご飯。
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街のエアポケット
一人、昼ご飯を食べるとき。少し身を隠したい気分になるのは僕だけでしょうか。話題のレストランでも、いつもにぎわってるカフェでもない、誰も気がついていない場所。そんなところでお昼ご飯を食べたいときってありませんか。自意識過剰でしょうか。誰も気がついていないなんて言い方はお店の方に失礼ですね。いい意味で街に馴染んでいるということです。僕はそんなところが大好きです。
僕が参加している釣りの同人誌のイベントに来てくれた細根さん。アパレル業と並行し、なんと竹の釣り竿を作っているという。そのギャップに引っかかりを感じずにはいられない。そしてこんな雰囲気の店が好きだと言う彼。なんだか気が合いそうな気がする。いちど一緒に釣りをしてみたい。
しかし何度も二子玉川に来ているのに、今までこの店を知らなかったことを悔やむ。カレー屋と喫茶店の2店舗の間に共有の中庭がある。まるで通路のような中庭で自然光を感じながらスパイスカレーをいただくと、子どもの頃に行った原宿セントラルアパートメントを思い出す。古きよき、日本における外国感。そんな時間を楽しむことができる。今度来るときは歩いてすぐの多摩川で小物釣りをして、昼ご飯にカレーにビールかな。そんなコースが頭を巡った。
アッチャカーナ
気持ちのいいテラス席は、土日は家族連れでにぎわう。白米と麦ご飯を選べるランチメニューの「チキンカレー」はサラダとプチグラッセがついて¥1,500。
東京都世田谷区玉川3-17-1 玉川髙島屋S・C 本館1階
TEL:03-3708-5038
営業時間:11時30分~21時
定休日:玉川髙島屋に準ずる
柳内恵一郎氏とともにファッションブランド「ETHOS」のデザインを行う。音楽や釣りにも造詣が深く、「Roothin -HOSONE TSURIGU-」にて釣り竿を製作&販売中。
02:奥沢|とんかつ ミカドのロースカツカレー。
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城南のカツカレー
梶雄太は旨そうに飯を喰う男だ。20代の頃に知り合って、仕事も遊びもたくさんともにしてきた。天然で日焼けした肌とつぶらな瞳。豪快に笑うけれど、どこか恥ずかしそうで。そして何かを喰う姿が印象的なのだ。ロケバスの中で頰張る納豆巻き、ファミレスでかきこむジャンバラヤ、思えば食事をともにすることも多かったな。これからもそうあることを願うよ。
僕にとって梶くんは城南の男。東京は江戸城を中心にしてエリアを東西南北に分けることがあるが、僕は城西の住人、梶くんは城南の人。城南は閑静な住宅街にプラスして少し海の香りのする風通しのいい場所。紹介してくれたのはやはり城南地区の住宅街に佇む「とんかつ ミカド」だった。お薦めメニューはカツカレー。なんとも梶くんらしい選択でうれしくなってしまう。
1939年創業の老舗でありながらまだ二代目のご主人だという。なので間違いなく味が引き継がれているのだ。偉ぶった感じがまったくしない店内、おばさまたちの給仕も自然でかわいらしい。店に入ればここがいかに地域の皆さんに愛されているかすぐにわかる。手作りカレールーの上にのるとんかつはほのかに甘く、カツカレーのカツはけっして脇役ではないことを教えてくれる。そして手作りマヨネーズのサラダが優しい。誰かを思い浮かべながらの食事っていいもんだなという気分で店を出た。
とんかつ ミカド
1939年創業の奥沢の名店。歴史を感じつつも清潔感のある店内は落ち着ける空気に満ちている。「ランチのロースカツカレー」は¥1,200。
東京都世田谷区奥沢3-5-9
TEL:03-3727-4156
営業時間:水〜土曜11時~14時、17時30分~19時30分L.O.、日・祝日17時30分~19時30分L.O.
定休日:月・火曜
1998年からスタイリストとして活動を始め、現在はファッションブランド「SANSE SANSE」のディレクションなども行う。「駐車場があるのも便利です」。
03:幡ヶ谷|喫茶 壁と卵のポークビンダルー。
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時間の流れを変える店
この連載、取材NGのお店にあたることも多く、いつも推薦者の皆さんには何軒かお気に入りの食事処を提案してもらっている。今回は麻生要一郎さんから4軒ほどご提案いただき、あとは僕の直感で、ということであった。コンクリート打ちっぱなしの四角い建物に取り付けられた古い木枠のドアを開けると、僕の直感は正しかった! うれしい気持ちになった(もちろんほかのお店も素晴らしいのだろうが!)。分厚いテーブルと本、レコードと絵。目がキョロキョロして、カレーをいただく前から早くも満足感が湧いてくる。
これまでにも幾多の飲食のお仕事をしてきた友部香代子さんは、シェフの雄基さんと3年前に「壁と卵」を始めた。もともとカレー好きだった雄基さんと、香代子さんが担当するお菓子の二本柱だ。村上春樹が好きなら店名を聞いてピンとくるのではないだろうか。そう、エルサレム賞を受賞した折にイスラエルで行ったスピーチからつけた店名である。なるほど、あちこちに安西水丸さんの絵が飾られているのもうなずける。
肝心のカレーは本格的なスパイスカレーでありながら、爽やかな酸味とともに、インド米に少しだけ日本米がブレンドされていて、とても食べやすい。次は好きな本を片手にのんびり来たい店である。
喫茶 壁と卵
住宅街の中にひっそりと佇むお店。今回紹介した「ポークビンダルー」¥1,300以外にも、数種類のカレーや、お菓子が楽しめる。
東京都渋谷区幡ヶ谷2-11-7 プエブロM 1階
営業時間はInstagramで確認
@kabetotamago
優しい味を詰め込んだお弁当ケータリングが人気の料理家。その傍ら文筆家として、料理エッセイも執筆。「僕はカレーが食べたくなると、この店に出かけていきます」。
04:下北沢|SANZOU TOKYOのカレー。
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新しい定番
昔から知っている街が変わっていく。「シモキタ、もう俺の街じゃないな」と心の中でつぶやいてみる。もともと俺の街じゃないとわかっているのにね。変化を嫌う気持ちもわかるけど、リロードなんて何年前から営業しているのだろう。もう定番として落ち着き払っているようにも感じる。下北沢の隣町でお店を構えるゴローちゃんから教えてもらったカレー屋もやはりリロードの中にあった。
SANZOUはカウンターで立ち食いスタイルだ。横のスペースには小さなギャラリーも併設されている。立ち食いなのでお客さんの回転が速いために少し待てばすぐに店に入れるのがうれしい。
ゴローちゃんに言われたとおり「ウルルゆるめコールスロートッピング」という呪文の言葉で注文してみた。なるほどしっかりとした辛みの中に一瞬の甘さを感じながらもコールスローが爽やかさを投げ込んでくる。めくるめく味の到達に夢中になっているうちにあっという間、一皿を食べきってしまう。
帰り道、新しい映画館で映画を見て、新しいカフェでコーヒーを飲んだ。新しいシモキタも俺の街になってきた。
ストリートショップ「MIN-NANO」オーナー。「もともと好きだったメニュー『ウルル』のおすすめの食べ方を友人に聞き、この『ゆるめ&コールスロー』にハマっています」。
SANZOU TOKYO
柏の名店「ボンベイ」の二代目・磯野晃一氏が考案したスペシャルなカレーが楽しめる店。今回紹介した鶏肉のキーマカレーは食券で「ウルルカレー」¥1,200、「コールスローサラダ」¥150を購入し、「ゆるめ(通常より水分が多めの状態)で」と口頭で注文すると食べられる。
東京都世田谷区北沢3-19-20 reload1-7
Instagram:@sanzoutokyo
営業時間:11時~20時 無休