2025.02.17
最終更新日:2025.02.17

目黒・武蔵野の納豆蕎麦【「あの人」の定番メシを訪ねる。行きつけで、いつもの。|第35回 】

写真家・平野太呂が、気になる人の行きつけにお邪魔。決まって頼むというメニューを食べて、本音をつづる。今回は川辺ヒロシさんが教えてくれた「最高」の納豆蕎麦。

第35回 目黒|武蔵野の納豆蕎麦

武蔵野の納豆蕎麦
このメニューに出会い「納豆蕎麦」に開眼。しかしここを超えるものにはいまだ出会えず
今月のあの人|DJ/トラックメイカー
川辺ヒロシさん

DJ・トラックメイカーを務める「TOKYO No.1 SOUL SET」は、2025年1月10日渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブを開催。「蕎麦が出てくるのを待つ間はビールを楽しみます」。

納豆蕎麦の最終形

 ちょうどいいってなんだろう? 帰りながらそんなことを考えていた。人によってちょうどよさって変わる。年齢や、置かれた立場、お腹の空き具合…。今日のお昼ごはん、川辺さんの推薦文にもあったように僕にもちょうどいい。まずもって店の佇まいがちょうどいい。高級感を演出することもなく、かつ派手な看板や装飾物もない。そして運ばれた納豆蕎麦のバランス。蕎麦と納豆とつゆの関係がちょうどいい。少し硬めな蕎麦が好きな僕にとってはちょうどいい硬さ。少し少ないかな?と思うくらいのほうが名残惜しく、そこは天丼でカバーするくらいでちょうどいい。

 寡黙だった蕎麦職人の父の背中を見てきた娘が、自分が父の蕎麦を食べたいという一心で継いだ店である。どうやったらあのときの父の蕎麦を作れるのか。その一心で「武蔵野」はできている。なんて父親冥利に尽きる話だろう。自分が住んでいる街に欲しい蕎麦屋だ。よい店はその街の価値を上げる。その店をつくっているのはやはり人であって、その家族の物語である。そんなことまでいただいているような、温かい昼ごはん時間だった。

 この連載はこれで最後となる。これまでたくさんの男たちに昼ごはんを紹介してもらった。街で働きながらも、昼の1時間、ふと手も頭も休める至福な時間。そんな特別な時間を教えてもらった。僕にとってはとても贅沢なことだった。これでしばらく昼ごはんに困ることはないだろう。さあ今日も、昼ごはんを楽しみに街に出ようと思う。

武蔵野

親子三代でつないできた目黒の蕎麦店。蕎麦のメニューのほかに、川辺さんも好きだという天丼¥2,300なども人気。納豆蕎麦は¥1,300。
東京都目黒区中町1-40-6
TEL:03-3715-2241
営業時間:11時30分~19時
※夕方は蕎麦がなくなり次第終了
定休日:水・木曜

撮影・文・食
平野太呂

カルチャー誌やファッション誌などで活躍。主な著書に『POOL』(リトルモア)、『ボクと先輩』(晶文社)など。

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