「ダンデライオン・チョコレート」のディレクションなどを手掛けるWAT inc.の石渡康嗣さんが選ぶ、自然派ワインとのペアリングが最高な名店のひと皿を4つ紹介します!
“いい店”に共通するのは、空間に無駄なものが一つもなく、すべてに存在意義があること。その意識が行き届く店は、必然的に味も空間も所作も洗練されていることが多いですね。
本来は古い居酒屋や喫茶店に一人で行くことが多かったのですが、都心にはそういう店の居場所がなくなりつつあって。でも「アヒルストア」など、自然派ワインが揃う良質な店が増えてきて、一人でも気軽に行けるという理由から通うようになりました。目的はクールダウン。22時頃までは完全に仕事脳なので、その後、無意識に自転車をこぎ店々へ向かっています(笑)。
店ごと信頼しているので、自分からワインを選ぶことはしません。醸造家の哲学が液体に反映されるからこそ、飲み手が細かく注文するより受け入れたほうが多様性を理解できるんです。予想外の一杯に出会っても、それを受け入れる訓練になりますからね(笑)。
1. SAjiYA の牛赤身肉のロースト
夫婦で営む、客との距離感が心地よいビストロ
「長らく通う店で、カウンターで過ごすことが多いですね。ワインの好みを言えば、赤と白、両方の要素をもち、どんな料理にも合う懐の深いロゼが好み。ここは魅力的なフランス産のロゼがいつもあります」。リエットを注文することもあるけれど、この日は低温のオーブンでじっくり焼成した「牛赤身肉のロースト」¥3,000を。「何事もシェアを掲げる時代ですが、肉だけは独り占めしたい(笑)」。
2.松㐂 のスープ オ ピストゥ
“手をかけている”ことがひしひしと伝わります
フレンチやビストロの名店で研鑽を積んだ藤澤進大郎さん、侑子さんを中心に切り盛りするフレンチ。「コースもありますが、僕はアラカルト派」という石渡さんは、野菜や白いんげん豆を巨大な鋳物鍋で煮込み、バジルを香らせた「スープ オ ピストゥ」¥1,200や店主と相談し、“その日の一皿”をおすすめのワインとともに注文することが多いそう。滋味豊かな一皿と自然派ワインは身体にやさしくしみ込む。
3.Comptoir Coin の自家製ピザ
ミーティング後に足を運ぶイタリアン
調理から接客まで一人で行うワンオペのイタリアン。さまざまな職業を経て食の道に進んだシェフが営むゆえ、料理も雰囲気も概念にとらわれないフラットさが魅力。「『ダンデライオン・チョコレート』の目と鼻の先にあるので、会議が長引いたとき、仕事仲間とともに。ピザは必ず頼みますね」。写真はトマトベースにアンチョビとニンニクをのせた「ロマーナ」¥1,400(税込み)。グラスワインは日によるが6種前後。
4.ペタンク のウフマヨとタルティーヌ、クリームチーズとブルーベリー
いい意味での男くささや骨太感に惹かれます
パリのレストラン、海外の日本大使館、フジマル醸造所…魅了されたら国や場所を問わず修業してきた店主が営む。「武骨なムードでワンオペでも、気遣いはすみずみまで」。「ウフマヨ」¥300と「タルティーヌ、クリームチーズとブルーベリー」¥800(各税込み)のほか、「松喜」の精肉や「浅草開化楼」の麺など地元浅草の食材を使ったメニューも。ここでしか飲めない山形産デラウェアで造るオリジナルワインをぜひ。
Yasutsugu Ishiwatari
1973年京都府生まれ。大手電機メーカーから飲食業界に転身した異端児。「ダンデライオン・チョコレート」のディレクションを行う一方で、「Coffee Wrights」などの運営も。“健全な食で街を明るく”がモットー。
Composition&Text:Yukino Hirosawa