長崎の氏神である諏訪神社の秋の大祭、「長崎くんち」が10月7日・8日・9日に開催。この名物祭りと美食を求め、編集部員の薬師神と北條が二泊三日で現地に赴いた。三部作の後編、滞在最終日は軍艦島に上陸、締めは長崎ちゃんぽんだ!
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いきなりド派手な「御朱印船」。寛永11年(1634年)から続く長崎・諏訪神社の秋季大祭、「長崎くんち」目当てで訪れた飯ルポ三部作のラストを飾る後編は、スペクタクルな「庭先回り」からスタート。威勢よく呈上する踊町は本石灰町(もとしっくいまち)だ。
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北條:旅とは一期一会。偶然の出会いに興じる醍醐味、それを象徴するお祭り「長崎くんち」。
薬師神:いかにも。
ここで今回のメシ旅の趣旨を改めて。昨年の10月7日・8日・9日の3日間、長崎県長崎市の氏神のひとつである諏訪神社の秋季大祭、「長崎くんち」がコロナ禍前の2019年以来となる4年振りに開催された。この祭りと美食を求め、編集部員の薬師神と北條が長崎の地に二泊三日の予定で降り立った。最終日もまた長崎名所を観光しつつ、長崎名物を食すのだ。
【40歳からのメシ旅・長崎編(2泊3日)】のメンバー
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富士フイルムのハイスペックミラーレス一眼「FUJIFILM X-Pro3」を着こなしのワンポイントとして首から提げた薬師神が(ほぼ)撮影担当、文化系大食漢の北條が食担当。薬師神と北條の長崎珍道中を流し読みしつつ、長崎グルメと異国情緒あふれる観光スポットをチェックしながら、1634年発祥の国指定重要無形民俗文化財「長崎くんち」(祭り)を楽しく学ぼう。
ちなみに、毎年必ず10月7日・8日・9日の日程で開催される「長崎くんち」の2023年度は雨天順延のため、「中日」にあたる8日に中央公園で催されるはずの奉納踊が9日に移行し、本祭の後に市内各地を行脚する庭先回りも翌9日の夕刻がメインとなっていた。御朱印船との出会いは、たまたま運がよかったのだ。
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薬師神:強フィジカル・強メンタルでお馴染みの文化系大食漢の北條さん、なんとめちゃくちゃ船酔いするという弱点がありました。ボクは元気です。あと、端島の通称が軍艦島になります。
クルーザー船で約40分。ここで簡単に軍艦島の歴史を紹介しておく。1890年、三菱合資会社が端島全体と鉱区の権利を買い取って、本格的な近代炭坑である「三菱鉱業高島炭坑端島坑」として開発。隣接する高島炭鉱とともに日本の近代化と高度成長期を支え、石炭出炭量の増加に比例するように島は急成長を遂げる。最盛期の1960年には5,267人が住んでいたが、それまでの主要エネルギーであった石炭が石油へと変遷するなかで衰退の一途をたどり、1974年1月15日に端島抗は閉山。同年4月20日に全ての住民が島から離れ、軍艦島は完全なる無人島になった。
薬師神:そして2015年7月、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼・造船・石炭産業」のひとつとして世界文化遺産に登録されました。北條さんはGoogleマップでの廃墟巡りが趣味とのこと。そろそろ起きて!
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薬師神:そういえば初日に赴いた「タイチ寿司」の大将、木本太市さんも軍艦島出身だと言ってたよね。お父さんが厚生食堂を営んでいたって。
片や、相棒の弱点を発見してなぜか意気揚々としている薬師神。ほぼ全作制覇しているというシリーズ第23作目の『007/スカイフォール』(2012年)にて、敵役シルヴァのアジトとして登場したマカオの廃墟島、デッドシティのロケ地を発見して興奮しまくりだ。
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薬師神:ドヤるときだけ元気よね。
薬師神と北條、しっかりと腰を落とし、肥前端島灯台を臨んで激写。今回の長崎出張のベストショットだ。2人にとってのトラウマだったという、1981年に制作された公共広告機構のCMに去来する軍艦島のイメージがようやく刷新された瞬間だった。
北條:「資源とともに、島は死んだ。私たちも資源のない島、日本に生きている」。ACのなんたるかも知らぬうちに心に刻まれたあの怖いCMは今も広告業界では語り草になっており、ググれば出てきます。
薬師神:それ知ってる人はたいてい1970年代前半生まれよね。でも確かに、あのCMのインパクトで資源は大切にしなきゃダメなんだとは思った。
北條:さあ、長崎本土に戻りましょう。
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薬師神:北條さん、飯ルポ行ける?
北條:行けます。行かせてください。戦場ジオラマ好き、箱庭好き、京町家の坪庭好き、トミカの中身よりも紙パッケージ好きの私にとって、軍艦島上陸は幼少の頃からの夢でした。誠にありがとうございました。
薬師神:なんか違う競技になってきた。
軍艦島デジタルミュージアム1階の「cafe X」にて普段は飲まないブラックコーヒーをホットですすり、坂の街・長崎で数少ない平地にて三半規管と自律神経の乱れを整える。加えて隣接のスーベニアショップで「軍艦島ジオラマ(1/4,000)」を景気よく購入し、気分だけ軍艦島を手中に収め、心の平静を保つのだった。
⑧江戸びし:長崎ちゃんぽん
長崎県長崎市江戸町1-6
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タクシーの運転手に店の名前を言うだけで連れて行ってくれる長崎ちゃんぽんの名店「江戸びし」に到着した。肉野菜を炒め、中華麺を入れて濃いめのスープで煮こんだボリュームたっぷりの麺料理「ちゃんぽん」は19世紀末に長崎で発祥。開国後の明治中期に訪れていた中国人留学生を中心に人気を博し、長崎の町中華きっての定番メニューとして浸透した。1970年創業の江戸びしは家族経営の町中華だ。
北條:日本の開国は「いやあ降参、ペリーさん」なので1853年。発祥の歴史まで異国文化とマリアージュする長崎っぽい。魚貝類の出汁が効いたスープは魔法瓶に入れて持って帰りたいくらいです。
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北條:なんか、呈上札がドラゴンボールのように見えてきました。私が店主ならば集めたくなっちゃう。御花代もそれなりに積んでしまいますが。
薬師神:胃も心もおなかいっぱい。よく知る長崎ちゃんぽんよりもちょっぴり甘い気がしました。カメラを片手に「長崎くんち」を追いかけて、長崎グルメを満喫しながら駆けずり回った3日間、無事に過ごせて感無量です。呈上札については前編と中編をご参照ください。
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北條:おやつの時間までどうします?
薬師神:散歩しながら探しましょうか。
⑨古田勝吉商店:御手引きラムネ自販機
長崎市東古川町1-7
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北條:えっ、ここ、観光名所?
薬師神:古田勝吉商店の「御手引きラムネ自販機」ね。名物ラムネがさりげなく自販機のラインナップにあるという。こういうの好き。
ちなみに手引きとはビー玉栓のこと。1877年に初代・古田勝次が居留地の外国人からラムネの製法を学んで創業。卸先のほか自動販売機の設置場所は、亀山社中資料展示場、長崎市南山手レストハウス、そしてここ古田勝吉商店の3箇所。復刻したノスタルジックなデザインの瓶は捨てるには惜しい。その場で飲み干し、回収箱に入れるのだった。
⑩匠寛堂茶房 玉響(たまゆら):長崎カステラ
長崎市魚の町7-24 匠寛堂内(眼鏡橋前)
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薬師神:天地悠々。
北條:お、おう。
薬師神:カステラしっとり、玉露にほっこり。「佳好帝良」と書いて「かすていら」、「玉響」と書いて「たまゆら」。長崎三大カステラとは違い、このお店でしか買えない逸品なのね。隣の茶房で食せるのも嬉しい。
北條:よく聞く長崎三大カステラは、福砂屋(1624年創業)、文明堂総本店(1900年創業)、松翁軒(1681年創業)の3店舗。匠寛堂は、1983年に史上初の甲子園夏春夏3連覇に挑んだ池田高校(徳島)を0-7で打ち破ったPL学園(大阪)のような立ち位置かと。
薬師神:1年生のKKコンビか。言わんとすることはわかるようなわかんないような。ちなみにそのときの長崎代表は佐世保工業ね。
北條:しかし長崎って名店・名所がコンパクトにまとまっていて観光しやすい街だなと。ここは眼鏡橋で、昨日食べた「ちりんちりんアイス」が目の前です。
薬師神:昨日だっけ。もはや懐かしいよ。
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薬師神:このチョークの跡、昨日の夜にトラットリア ウーゴの入り口で北條さんが見てたやつ?
北條:昨夜は万屋町の「万」の字でした!
チョーク跡は庭先回り済みの印だ。10月8日の中日に中央公園で催される「長崎くんち」本祭の後に市内を練り歩く庭先回りでは、各踊町が企業・店舗・官公庁・観光施設などを一軒づつ回って演し物を呈上し、返礼として御花を頂戴する。その手形として呈上札が渡され、去り際に軒先にチョークで印を付けるしきたりだ。一重丸の中に踊町の頭文字が書かれる。
薬師神:こちらの「本」の印は昨日の夜に見物した御朱印船を呈上する本石灰町か。
北條:「サ」は「栄町」、「オ」は桶屋町ですね。踊町のみなさんはまだ近くにいるのでは?
薬師神:現代の庭先回りでは、呈上先がリアルタイムで更新される観光用アプリもあるんだって。でも、こんなアナログな手掛かりもいいよね。
⑪万月堂 鍛冶屋町店:桃カステラ
長崎市鍛冶屋町6-45
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北條:あれ? 陽気な笛太鼓の音が…。
薬師神:たぶん来た。カメラカメラ…。
「栄町です。ただいま呈上に参りました」
「御苦労様です。御花はお届けに上がります」
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薬師神:再三の偶然の出会いに感謝。万屋町の鯨の潮吹き、本石灰町の御朱印船、栄町の阿蘭陀万歳、6つの演し物のうち3つを鑑賞できました。
北條:非日常の異国情緒に巻き込まれるワクワク感、そして街を包み込む一体感。ユニークな「長崎くんち」の醍醐味がここにある。桶屋町の本踊、船大工町の川船、丸山町の本踊にも出会いたかった…。
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北條:はい。
笛や太鼓のシャギリの音がだんだん遠くなっていく。庭先回りに後ろ髪を引かれながらバスに乗り、ロマンティックな長崎の夕暮れを眺めながら帰路につく。二泊三日で赴いた「爆食ウィークエンド72hours! @ 長崎くんち祭り」三部作、これにて完。
ちなみに、毎年10月8日・9日・10日に開催される「長崎くんち」以外にも、冬の風物詩である「長崎ランタンフェスティバル」が2月9日から2月25日にかけて催されるなど、長崎には四季を通じて祭りやイベントが盛りだくさん。遠くて近い長崎。週末に、または有給で、ふらっと立ち寄る心の余裕を持ちたいところだ。
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こちら編集部。北條のデスクには軍艦島の絵はがきが飾られている。本業のファッション関連取材に日々追われ、顔は笑っていてもそれなりにストレスが溜まりつつあるときは、遠く長崎に想いを馳せるのだ。
北條:あやうく戻して「長崎くんち」を含む長崎オール出禁になりかけたあの船酔いに比べたら、たいていのことはどうってことありませぬ。
薬師神:そうだ。そもそも過ぎて聞けずじまいだったけど、「長崎くんち」の「くんち」ってなに?
北條:あっ。
薬師神:まさか。
北條:確かめにまた長崎に行かねば!
住所:長崎県長崎市江戸町1-6
TEL:095-826-2903
営業時間:11:00~20:30
席数:35席
無休
▼古田勝吉商店(御手引きラムネ自販機)
住所:長崎市東古川町1-7
TEL:095-822-0665
▼匠寛堂 茶房 玉響(たまゆら)
住所:長崎市魚の町7-24 匠寛堂内(眼鏡橋前)
TEL:095-826-0038
営業時間:10:00~17:30
席数:20席
休日:元日
▼万月堂 鍛冶屋町店(桃カステラ)
住所:長崎市鍛冶屋町6-45
TEL:095-893-8833
営業時間:10:00~18:00
不定休
<問い合わせ>
長崎国際観光コンベンション協会
長崎くんち <長崎伝統芸能振興会>
Text: Takafumi Hojoh