サステナブルな「RE.UNIQLO ダウンリサイクルキャンペーン」が2024年1月31日(水)まで期間を延長。新たなダウンジャケットに生まれ変わる前段階、布帛とダウンを分別する過程を、ユニクロと協業する東レ瀬田工場で見学してきた。
薬師神:東レの取材?
北條:ユニクロの取材でもあります!
真のグローバル企業として、「UNIQLO(ユニクロ)」ではSDGs(Sustainable Development Goals)の理念を社会に根付かせるサステナブルな取り組みである「RE.UNIQLO ダウンリサイクルキャンペーン」を全国の実店舗で開催中。好評につき、2024年1月31日(水)までダウン回収期間が延長された本キャンペーンの根幹が、「回収したダウン製品からの再利用可能なダウンの抽出」であることは言うまでもない。
北條:ふと立ち止まって考えてみました。「あらかじめリサイクルされたダウンというパッケージ素材を専門商社から仕入れて作った」リサイクルダウンと、「ダウンジャケットからダウンを抽出する工程を自社開発して生産された」リサイクルダウンの違いを。
薬師神:いかにも。東レと協業してリサイクルダウンを開発したユニクロは後者よね。
ユニクロと日本を代表する素材メーカーである東レとの戦略的パートナーシップは2006年6月に締結。ここで、これまでの足跡を振り返っておこう。
分水嶺は2006年6月
ユニクロ・東レ、合同記者会見の資料とは?
2006年3月、株式会社ユニクロ(柳井正=代表取締役会長兼CEO)と東レ株式会社(榊原定征=代表取締役社長)は両社の戦略的パートナーシップ構築について締結した基本合意書に基づき、同年6月に中長期的・包括的な調達及び供給に関する合意書を締結。2010年に売上高1兆円を目指すFRグループ(国内と海外のユニクロ事業合計で7,000億円)と、同じく1兆8,000億円を目指す東レグループ(繊維事業合計で6,000億円)は、この戦略的パートナーシップを構築することにより、消費者の皆様に新しい価値のある商品を提供するとともに、新たな業態・事業の開発を視野に入れた協力関係を築いていくことになる。
薬師神:おお。これぞ「大人のユニクロ」。もう少し、かいつまんで説明をおねしゃす。
ユニクロと東レの両社は、新商品の開発・企画に共同で緊密に取り組んでいくための「中長期提携方針」を策定し、この方針に従って、両社は素材メーカーとSPA(製造小売業)の境界線を越え、素材段階から最終商品の販売に至るまでの一貫した商品開発体制を構築して、消費者の皆様方の生活を豊かにする衣料品等を提供。この中長期的な取り組みにより、東レのユニクロに対する素材・製品供給は、2010年までの5年間累積金額で2,000億円を超える計画で、世界の繊維業界では類のない規模の取り組みとなる。
北條:2006年6月のお話。念のため。
薬師神:はい。
もう1つ、「画期的新素材の開発」に関して、両社はそれぞれが保有する研究・開発・生産・販売・マーケティングの総合力を結集することにより、市場のニーズを的確に把握し、現在の市場には存在しない画期的な素材開発を目指し、今までにない“夢のある”商品創りにつなげ、新たな需要を創出。この取り組みにあたり、両社は本年3月にプロジェクトチーム(名称:次世代素材開発プロジェクト)を設置し、「美・健康」「SUPER NATURAL」「エコロジー」「FUNCTION&COMFORT」「新機軸」の5つの方向性をもとに、73項目にわたるテーマを抽出し、具体的な素材の共同開発に着手。素材開発に伴う人材交流も活発に行なっていく。
薬師神:2行で説明よろ。
北條:2006年に明文化された“夢のある”商品創りが今日のリサイクルダウンへと繋がりました。
ちなみに、グループ売上高が2.5兆円を超え、関連企業を含め約5万人の従業員を抱える日本有数の素材メーカーである東レ(旧社名:東洋レーヨン)は1926年(大正15年)に創業。1970年1月に現在の東レに社名変更した。ユニクロとの初タッグは1999年で、縫製品のOEMから。ちなみに、前述した2006年6月のパートナーシップ宣言の後、ユニクロ専門部署として発足(2000年)したグローバルオペレーション(GO)推進室は、2014年10月に事業部に昇格している。
布団を切って羽毛を見ちゃう通販番組のアレ
通常のダウンとリサイクルダウンを比較してみる
北條:東レとユニクロの協業の成果は、ヒートテック、エアリズム、ウルトラライトダウン、感動パンツなど。ロールモデルになりうる良好な関係性です。
薬師神:話題を「リサイクルダウン」に舵取りしましょう。このアイデアはどっちから? いつ?
ポリエステルの布帛やダウンパックの中に閉じ込められた羽毛はリサイクル・リユースに最適。ダウンを取り出すすべての工程を自社内でカバーするリサイクルダウンの提案は、2014年に東レ側から。すぐさま柳井正=(株)ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の鶴のGOサインが出て、再生羽毛の検証を推し進め、2017年末に商品化へと本格着手した。
薬師神:けっこう昔からなのね。
北條:エコ、リサイクルの意識が今ほど高くなかった頃からのプロジェクトです。しかも、将来的に利益が出るプロジェクトになるのかもわからない。
2019年9月、店頭での自社ダウンの回収キャンペーンがスタート。2020年秋冬(2020年9月18日発売)にて「ユニクロ ユー」で初のリサイクルダウンジャケットが発売された。翌年の2021年秋冬(2021年9月17日発売)には異なるカラー展開で同デザインのリサイクルダウンジャケットが発売。しかもこのジャケットの材料には前年度に回収したダウンも含まれていた。
薬師神:そうでした。
近畿の水瓶・琵琶湖に隣接する東レ瀬田工場は、1938年に繊維製品の生産を始動。化学・プラスチックの素材開発に注力し、現在では生産のみならず、開発センターの機能をも併せ持った複合工場として素材業界・ファッション業界では認知されている。
薬師神:タクシーを呼びたいくらいに広大ですよ瀬田工場。寒くなったしダウンを着たいよ。
リサイクルダウンについて質問ある?
キーパーソンの岡さん(東レ)です
薬師神:帽子がお揃い。
岡さん(東レ):ハイ。ウチの施設ですから。
北條:かなり話が早い人と見た!
ここで、東レの中の人が登場。リサイクルダウンの保管・搬出施設では、東レ 滋賀事業場 エンジニアリング開発センター 第1開発室の岡尚樹さんがお出迎え。後楽園球場ほどの広さがある倉庫内で、まずは保管物(通常非公開)をいろいろ見せてもらおう。
岡さん(東レ):ハイ。これは「ユニクロ」の「Ultra Light Down」の略です。回収量で1番です。
北條:私が「dos」?ってボケるより先に!
薬師神:なかなかに手ごわいですぞ。
岡さん(東レ):店舗で回収したダウンジャケットは山口・仙台・岐阜にあるユニクロの提携倉庫に一旦すべて送られまして、そこで「ULD」などモデル別に仕分けてから弊社に送られてきます。このワンクッションで、全国各地から多様なダウンが選別なく送られてくるよりも輸送費と人件費が削減できます。このスキームは、ユニクロの難民・被災者支援の取り組みにおいて、古着をボランティアで送り届ける仕分け工程を一部利用させていただいているからこそなのです。
薬師神&北條:なるほどです。
岡氏が言及していた、ユニクロでワールドワイドに取り組んでいる難民・被災地支援途を目的とした衣類一般の回収はダウンリサイクルの遥か前、2006年から始まっている。2021年度は約1,420万点、2022年度は約1,670万点の衣料を回収。
岡さん(東レ):ダウンの回収キャンペーンは2019年9月にスタートしまして、初年度は62万着が集まりました。現在はコロナ禍の影響などもあり、当初より回収量は減っています。ぜひ、ご協力ください。
薬師神&北條:キャンペーン大事!
北條:ハッハッ、見ろ! ダウンジャケットがミルフィーユのようだ!! ハッハッハッハッ!!
薬師神:この片づけ術を見習いたい。
岡さん(東レ):そもそもの企業の目的は商品を販売して売り上げを計上することですので、回収量に関しては成り行き次第なので計画性に欠けます。安定した回収量の確保が課題ですが、無理強いもよくありませんし、長く使うことも大切です。これはリサイクル活動全体にも言える難しい課題ですね、ハイ。
薬師神&北條:たしかに。
世界のアパレル市場において、洋服(回収衣料)から洋服(貨幣価値が付くリメイク・リユース)へのリサイクルは僅か1%程度と言われている。大量生産・大量廃棄がファッション業界の常であり、巨大アパレル企業である「ユニクロ」においても、品質を落とすことなく価格を従来品と同等に抑えるリサイクル商品の生産は、フリースが爆発的にヒットした2000年代初頭から至上命題のひとつだった。東レの瀬田工場が開発した、「回収ダウンから布帛とダウンを分別・抽出する」世界初・世界に1つの機械は、まさに僥倖。
その実機が、岡氏の後ろにある。
北條:ふざけちゃダメってこと?
薬師神:ふざけちゃダメってことだね。
岡さん(東レ):ハイ、安全第一。隔離されたこの中で、ダウンの抽出工程を見ていただきます。
ユニクロ公式サイトには、「究極の循環型リサイクルモデルをお客さまの協力を得ながら自社のサプライチェーンの中で作っていき、結果的に資源使用量や二酸化炭素排出量、廃棄物の削減を目指す」とマニフェストが掲げられている。その本丸へ、いざ!
世界に一つだけの機械
地味かつ有能。日本らしい「世界初」は他国も羨む
作業員さん(東レ):はい。
薬師神&北條:ワクワクです!!
布帛とダウンを分別し、取り出すまでの第1工程がこちら。針検品した回収ダウンをベルトコンベアに乗せ、コンベアに乗せられたダウンが機械の奥の方に流れていく。作業員さんが見つめる先には…。
薬師神:えっ!? 途中で1枚、別の画像が。
北條:これが企業秘密の壁か。
第1工程は回収ダウンを裁断するまで。サイズもバラバラで回収された「ユニクロ」のダウンジャケットが、1分足らずで名刺大のサイズに切り刻まれていく。ファスナーやボタンなどの付属品も一様に裁断しており、つんざくような大音量が場内に鳴り響くのだった。
北條:呪力の無いモノには「解」が。まさに、両面宿儺の領域展開「伏魔御廚子」状態…。
薬師神:ギッタンバッタン大音量。世界初のリサイクルダウン抽出機械の中を見せてくださーい。
岡さん(東レ):すみませーん。裁断音が大きくてよく聞こえませーん!
薬師神:撮影OKの箇所はどこらへん?
岡さん(東レ):えーと、ここらへんですかね。「(※企業秘密A)」と「(※企業秘密B)」は絶対にフィルムに収めないようにしてください。
薬師神:これデジタルカメラだし…。
北條:パイセン、頑張って…!!
薬師神:めっちゃ近っ!
北條:全体像がわからん!
岡さん(東レ):でも中でぐるぐる回ってることはわかりますでしょう。こうやって攪拌(かくはん)して、布帛とダウンを分別するのです。
北條:リンゴよりも羽毛のほうがゆっくり落ちる物理、自由落下状態での重力加速度が肝かしら。とりあえずこの中は真空ではないようですね。
岡さん(東レ):特許申請中です。
薬師神&北條:早く特許体制を整えてください!(でも、めっちゃスゴイ技術)
取り出されたダウンは薬師神の背丈ほどもある納品袋に詰め込まれる。ちなみに今から3年前の2020年11月、『ガイアの夜明け(第939回)|ユニクロ “世界初”への挑戦!』(テレ東系)では、同じ東レ瀬田工場の潜入ルポを放送。取り出したダウンに不純物があったり、布帛にダウンが残っていたりと機器の改善が示唆されていた。そして今、世界初のリサイクルダウン生産工場として業界に名を馳せるに至る。
岡さん(東レ):どれどれ。今回のリサイクルダウンの出来栄えはどうかな…?
北條:つばめよ地上の星は今何処にエルドラド~って、中島みゆきさんの歌が脳内でリフレインしております。地上の星、仕事の醍醐味がここに。
薬師神:一応ツッコミを入れとくと、「地上の星」は『プロジェクトX ~挑戦者たち~』(NHK)の主題歌で別番組ね。それにしても岡さん、老舗ワイナリーのオーナーのようないい表情しとる。
以上の工程を経て、回収衣料から抽出したリサイクルダウンの梱包が完了。できたてほやほやのこの材料は海外のダウンメーカーや縫製工場に送られ、そこで洗浄されて汚れや脂を取り除き、フィルパワーがバージンダウンと同等の清潔なリサイクルダウンへと到達する。そして、新品の「リサイクルハイブリッドダウンジャケット」へと新たな命を吹き込まれるのだ。
北條:その製品化されたダウンを、東京で私が購入するに至るという。循環型社会のあるべきかたちはなかなかに感慨深い。大切に着なきゃです!
薬師神:いかにも。
2人目の名物社員!?
さらば東レ瀬田工場、こんにちはリサイクルダウン
北條:夜中に見かけたらこちらが冷や汗をかきそうな発汗クンは、満員電車や酷暑など不快指数高めの環境を設定すると汗(水)をかくロボットです。
薬師神:勝手に命名しちゃったよ。初代のテクノラマ「G I」は1983年に業界に先駆けて建設されたんですって。東レの先進性、さすがです。
薬師神:もうヘトヘトだよ。あと、北條さんがキャラ負けするとはね。東レの皆様、岡さん、ユニクロのI原さん、本日は誠にありがとうございました!
北條:近江牛を食べて帰ります!
岡さん(東レ):ハイ。写真チェックは早めにお戻しします。また遊びに来てくださいね。
意識高い系大人男子の務め
ダウンリサイクルキャンペーン、実施中!
北條:今回の出張で、滋賀人のホスピタリティと仕事への矜持に触れました。イオンの駐車場で仰ぎ見た夕焼けの空を忘れることはないでしょう。
薬師神:では、循環型リサイクルの締め。そこに北條さんのリサイクルダウンを入れちゃって。
北條:了解です。最後までガチのルポでした…って、これ、買ったばっかりなんですってば!
ユニクロの「RE.UNIQLO」をもっと知りたい!
回収期間:2024年1月11日(木)まで
実施店舗:全国のユニクロ実店舗
キャンペーン対象商品:ユニクロが販売したダウン商品
RE.UNIQLO ダウンリサイクルキャンペーン詳細
Text: Takafumi Hojoh