あのときのスニーカーを再生させる
Before
自分の尺度でアップグレード
そのタブー感が贅沢
文/小澤匡行
なんだかんだ一年に20足くらいはしっかりスニーカーを買っていて、終わらない購入履歴をいつまで重ねるのか、と自分でもちょっと怖くなる。若い頃に比べると胸がときめくような出会いも少なくなったし、今もこうして会社で原稿を書いていると、視界に広がるスニーカー棚に積み上げられたストックに「今あるものでもう十分じゃない?」と囁かれているような気にもなってくる。
特に好きで残しているヴィンテージがただ朽ちていく姿を見て見ぬふりをするのはいたたまれなく、釣った魚に餌をあげていないようで自己嫌悪に陥る。そこで最近するようになったのがスニーカーのカスタム再生だ。これにより、直すこと前提で古いスニーカーを買うようになったから、選択肢が増えた。
これは2年くらい前に購入したプーマ スウェード。’70年代末〜’80年代前半のユーゴスラビア製でセメント製法、そしてトウが細く角張った、フレンチなフォルムがいい。なんとか日常で履けるようにと、恵比寿のサーキュレーションに持ち込んだ。2024年にオープンしたばかりの、エンダースキーマを運営するライコスによるリペアショップで、共感したのは「循環」というコンセプトだ。リペアって、基本的にリセールの価値から見るとマイナスの手が加わることでもある。オリジナルの状態に戻そうとするほど、オリジナルではなくなるからだ。ただ、朽ちていくリアルと甦るアンリアルならどちらがいいか、みたいな哲学的な話にもなるが、とにかくスニーカーは履ける状態こそが健康的だと僕は思っている。
After
この時代のスニーカーにいちばん多いのはライニングのひび割れ。合皮ならではの劣化で、そのまま履くと足が血だらけになりそうなくらい凶器になる。まずここを本革、しかもより高級感を出そうと牛革に貼り替えてもらった。ソールもゴムの硬化が進んでいるし、ヒール部分がすり減っている。本来はオールソール交換といきたいところだが、ここはオリジナルを残したくて、補修してもらった。そして色褪せしたスウェードの黒にツヤを出してもらい、仕上げはシュータンの裏にヌメ革の補強をお願いした。これがエンダースキーマっぽくていいのだ。
今まではスニーカーも買うだけだったのが、再生という視点で考えるようになって、いろいろな学びを楽しんでいる。しかも元通りではなく「アップグレード」している感覚は、自分だけの尺度でスニーカーと向き合うよい機会だ。車などに比べるとスニーカーはまだまだ業界的に新品を愛でる文化が色濃いし、ましてヴィンテージカスタムはタブーっぽい風潮があるけれど、お気に入りを自分の好みに再生するのは、贅沢だと思う。
補強と装飾をかねてエンダースキーマらしく薄いヌメ革を貼ってもらい、アイコニックに。
ソールの補修。あえてどこを直したかわかるように色は塗らずに。金継ぎみたいな感覚を楽しんだ。
ライニングのレザーは柔らかな豚革という選択もあったが、あえて硬めで高級感のある牛革に。シワはおそらく履くほどに馴染んでくると思っている。
リペア内容
ソール接着
※両足(既存のオリジナルソールの再接着)
¥6,600
リフト補強
※踵の摩耗の部分補強
¥4,400
ライニング交換(シューズの内側)
※合皮からブラックカウレザーへの交換
¥13,200
シュータン裏のヌメ革補強
¥6,600
カラーリング
※スウェードの汚れ落とし、全体の色補正
¥14,300
納期:約1カ月〜
合計 ¥45,100
circulation
エンダースキーマが「循環」をコンセプトに掲げ、2024年2月にオープンしたショップ兼工房店。リペアをはじめ、カスタムやリセール、ワークショップを行っている。実際に職人さんと相談しながら、ソールの交換や破れた箇所の補強などの修理プランを考えられる。
東京都渋谷区恵比寿2-14-3 地下1階
TEL:03-6450-3125
営業時間:14時〜20時
定休日:火~木曜
編集プロダクションMANUSKRIPT主宰。UOMOのほか、朝日新聞全国版などでもスニーカー連載を寄稿中。