業界屈指の目利きとしてお馴染みの金子恵治さんが選んだ4着を、細かすぎる視点で解説する。
ベルヴェストのコートがまさかのパッカブルに。こんな見事な裏切られ方ってアリ!?
1Belvest
パッカブル ダブルブレステッドコート
¥330,000
世界有数の工房で作られたカシミヤ混のダブル仕立てのコートは、コンパクトに収納可能。薄手の中綿を用いて防寒性を高め、身体に沿うシルエットで着膨れする心配なし。芯のない絶妙なカジュアルさが魅力だ。¥330,000/ベルヴェスト(伊勢丹新宿店)
武骨さを覆す繊細なこだわり。だからデザイナーズのミリタリーは面白い。
2OAMC
ウールジャケット
¥285,010
定番展開しているポリエステル素材の「Taos Bomber」を、高級感あるウールで製作した。両袖口には袖を通しやすくするジッパーがあり、大きな内ポケットを備えるなど機能性の高さも見逃せない。¥285,010/オーエーエムシー(エドストローム オフィス)
手間のかかった泥染めとパターン。温故知新を極めたアレンジに脱帽。
3visvim
デニムジャケット
¥143,000
12オンスのオリジナルデニムに奄美大島伝統の泥染め加工を施した、肌馴染みのいいジャケット。ゆとりのあるシルエットに加え、コーデュロイに切り替えられた襟元や、裏地の赤いキルティングもポイント。着やすい印象を与える。¥143,000/ビズビム
前代未聞な両面キルトのラベンハム。ちょっと昔の贅沢な感じを今っぽく。
4L’ECHOPPE×LAVENHAM
キルティングコート
¥101,000
ラベンハム初となる、両面にキルトを用いたリバーシブルコート。わずかに起毛したポリエステルコットンのピーチスキン地が、高級感をもたらす。潔く代名詞のパイピングを排した点にも注目。¥110,000/レショップ×ラベンハム(レショップ 青山店)
どうスタイリングしようかと考えたくなる服に惹かれる
今回、150着ほどの中から選んだ4着には、共通して今の私の気分が表れています。一つは「一着で完成しない服」ということ。アウターにはそれをはおっただけでスタイリングが成立するパワーアイテムが多く、おそらくベストテンに選ばれるのはそうしたアウターばかりだと思いますが、自分は、「これを一体どうスタイリングしてやろう?」と考えたくなる服のほうが気になります。
そしてもう一つが「ただオーセンティックな服というより、モダンな要素を備えたものに気分が移ってきた」こと。ハイブリッドな感じを面白がれるようになってきました。
一着目はベルヴェストのコート。ダブルのメルトンって肩パッドが入った重厚なものを想像しますが、これは完全にカジュアルで意表を突かれました。ボタンの間隔もラペル幅も絶妙に気が抜けているんです。なのでキャップとデニムに合わせても違和感がない。パッカブルにしては大きいですが、クルマに入れて持ち運べるし贅沢ですよね。
そしてOAMCのジャケット。フォルムに圧倒的な迫力を感じました。ざっくりはおれるけど、実はかなり繊細な作り。袖裏は滑りをよくすベくライニングを貼っているし、袖つけは動きやすさを考慮したものに。ピンストライプの裏地も上質で、いいレストランなどで上着を預けても恥ずかしくない。こんなモダンなミリタリー、気にならずにはいられません。
ビズビムのデニムジャケットにも、うならされました。ワークウェアって動きやすさを優先したパターンを採用するのが一般的ですが、これはあくまで腕を下げたときに美しく見える袖つけに。端正なシルエットにはエルメスの青いドレスシャツがしっくりきました。こだわりの泥染めによる自然と汚れたデッドストックのような風合いにもニヤリとしてしまいます。
最後は手前みそですが、今の気分を投影したレショップ×ラベンハムのリバーシブルコートを。優しいピーチスキン地を選んで、日本人が選びそうにない、ちょっと昔のエルメスのような地味で品のある配色で作った一着。両面キルティング仕様なのにボリューミーに見えないのもいい。襟の形は今っぽくシャープ。上品な面持ちゆえドレスシャツは当然似合いますが、激しく漂白されたデニムでもギャップが見せられて面白いと思います。
Profile
独自の審美眼をもとに、長年レショップのバイイング、企画に携わってきた。夏には初のウィメンズブランド「J.B.ATTIRE」を始動。アートや写真、クルマなど幅広い分野にも関心がある。
Stylist:Takeshi Toyoshima
Text:Yasuyuki Ushijima Sayako Ono Kohei Horikomi