端境期にこそ見直したいスタンダードアイテム。4名のファッション賢者が愛してやまない私物との出会いと変遷を通して、新しいスタンダードを考えるヒントにしたい。
デザイナーズブランドがつくる細身のブルーデニムたち
ファッションに関心をもち始めた中学生の頃、ワークスタイルが大流行したこともあって、デニムは自分の着こなしになくてはならないアイテムです。たくさん持っていますが自分の中で欠かせないのがブルーの細身デニム。これらは買った時期はばらばらですが、どれも今もはいています。(写真右上から順に)大学の頃に購入したヘルムート・ラングのインディゴスリム、サンローランのスキニーデニム、セリーヌのストレートと、最後はいちばん最近買ったセリーヌのストレートの裾がカットオフ風になったもの。僕の世代でデニムというとワークやアメカジのブランドのものを愛用している方も多いと思いますが、僕はデザイナーズブランドが好き。というのも、現在に至るまでの僕自身のデニムスタイルのきっかけがエディ・スリマンの提案するスキニーデニムだったので。本当に衝撃的でした。デニムっていうワークウェアも、こんなふうにモードになるんだ!と感激。なのでサンローランのディレクター時代も現在のセリーヌも、彼が生み出す細身のデニムはチェックするようにしています。黒も持ってはいますが、いちばんのスタンダードはやっぱりブルー。特にノンウォッシュのものは、キレイめにも振れて、着こなしの幅が広いんです。ジャケットと合わせてもいいし、パーカなどラフなものとももちろん合う。カジュアルなのにちゃんと品もあるスタイルになるんです。ワイドパンツがトレンドだった間も、細身のものが好きでした。もちろんワイドデニムもはきますが、元来トップスにゆとりをもたせつつボトムは細身、というバランスが好きなのもありますし、同じ細身デニムでも、ちゃんと毎年更新していれば古くは見えない。股上の深さや裾のシルエットなど、ちゃんとアップデートされているのもデザイナーズのよさ。大人になったからこそ、「流行」とか「似合うかどうか」という客観的な目線だけでなく、そこに「自分が変わらず好きなもの」をうまく織り交ぜてファッションを楽しめるようになるんじゃないかと思います。
抜け感と違和感を足す。17歳からキャップが相棒
所有するキャップは全部で70点は下らないかと思います。きっかけは高校時代に買った古着のポロ ラルフ ローレンのブルーのもの(写真前列中央)。顔まわりに抜け感やこなれ感が足せるのと、髪をセットしなくていいので(笑)、なんて便利なんだ!と、そこから現在に至るまで、ほぼ毎日キャップスタイル。今もすべて現役で、シーズンごとに一軍~三軍を吟味して入れ替えます。今回紹介するのはこの春の一軍たち。普段からバッグに2~3点キャップを持ち歩いていて、出先でかぶり替えることも。
学生時代に購入したものを今も愛用する一方で、買い足すものには微妙な変化もあります。古着のキャップが僕の原点なので、以前は新品を買うと一度洗濯してくたっとしたシワを足したりしていましたが、最近は自分が年齢を重ねたからかキレイな状態のキャップをかぶる頻度が少し増えました。また、抜け感を足す役割だけでなく、逆に着こなしのアクセントとして活躍させたり、キャップの用途も広がってきたように思います。
…と言いながら、実はあまりにキャップ頼みだったので、意図的に“キャップ断ち”期間を設けたことも。そうすると、自分が今までキャップに何を求めていたかが明確になって、自分のスタイルで大事にしているものがクリアになったり、新しい着こなしに挑戦するきっかけになったりするんですよ。スタンダードアイテムって、出会い方や愛し方にその人の個性が出ると思うのですが、僕の場合は増え続けるキャップを目にすると、“愛し方”をアップデートしたくなる。慣れ親しんだアイテムゆえに油断すると、あまり考えなくても成立してしまうので、進化がなくなってしまうんです。単にたくさんの着こなしを試せばいいわけではなくて、“一時的にそのアイテムを断つ”とか、あるいは服と関係なく自分自身が好きなモノについて考えてみるとか…。遠回りしているようにも見えますが、ファッションとは一定の距離を置いて考えるのが、僕なりのスタンダードアイテムとの付き合い方のように思います。
Illustration:Shigeo Okada
Cooperation:Yumiko Kiyokawa