端境期にこそ見直したいスタンダードアイテム。4名のファッション賢者が愛してやまない私物との出会いと変遷を通して、新しいスタンダードを考えるヒントにしたい。
理想のタートルを求め紆余曲折。最後は自分で作りました(笑)
タートルネック歴はたぶん15〜16年くらい。最初はウールやカシミヤのタートルネックニットでした。一枚で着るというよりも、インナーとして活用しているのは、その頃から変わりません。パーカなどカジュアルなものとシックなタートルネックを掛け合わせるところから、今の僕のミックススタイル自体がスタートしたと言っても過言ではありません。あくまでもインナーなので「薄手であること」、そして「タイトなシルエットであること」が当初の譲れないポイントだったんですが、毎日着るうちに加わったのが「袖口がリブであること」、そして「首がちくちくしないこと」。後者がかなり難しくて、あらゆるものを試したのですが、長時間着ていると必ずかゆくなる(苦笑)。そこで出会ったのがL.L.Bean(写真上段)の化繊のタートルネック。特に’90年代頃までのものが最高でカラバリもあってかなり長い付き合いになりました。でも「こいつがいちばん。一生オマエだけだ」とはならず…。というのもやっぱり見た目にわかる化繊の質感に、もう一声!という欲が出てしまって(笑)。先述の条件に「コットン地であること」が加わりました。
その後、数年前に出会ったのがライフウェア(写真中段)。これは当時3000円台で買えて、しかもコットン。すごく気に入っていたんです。ちょっと気さくな直近の元彼女のような感覚。ところが着るうちに首まわりのヘタりが気になり始めた。製品の問題というより、僕の意識の問題というか…。前まで気にならなかった欠点が目につくようになると「やはりキミも違うのかも…(涙)」ということで、その後もさまざまなタートルネックを試した結果、「理想のものを自分で作ればいいじゃないか」という結論に。こだわりまくって自分のブランド、ドレス(写真下段)で作りました。素材は上質なコットン100%でもちろん薄手、首まわりも目が詰まっているので一日中着ていてもヘタらない。そして袖口はリブ。最高の一枚になって感動です。やっぱり大人になるほど、自分にとって“スタンダード”と思えるアイテムがあることは心強い。新しい着こなしにトライするときにも背中を押してくれる、まさに最高のパートナーです。
白シャツの偏愛遍歴は一本道ではなくてループする
もはや収集癖と言っていいと思います。もちろん着るんですけど、気分によって「これは休憩」というものも。縫製やデザイン、素材に凝っているから買うというわけでもなく、そこにブランドの表情やオーラを感じられるかが大事。白シャツってシンプルなようでいて、ブランドのアイデンティティがかなり出るアイテムなんです。なので僕は、買い物に行くとどんなショップでも白シャツから見ます。初めに買ったのはコム デ ギャルソン・シャツ(1)。出会った当時は学生でした。普遍的なのに圧倒するオーラがあって、白シャツで4万円は高い…と思いつつも買っていました。今もサイズを更新&同じ型を買い続けていて、必ずアイロンをかけて着ます。
1.コム デ ギャルソン・シャツ
その後はメゾン マルジェラ(2)やユーゲン(3)、ジュンヤのレディス(4)など、モードな白シャツが気分だったことも。白シャツを白衣のような感覚で、はおりとして着ることが多かったです。
2.メゾン マルジェラ
3.ユーゲン
4.ジュンヤのレディス
最近は張りのある生地でワイドシルエットなものは休憩中で、よく手が伸びるのはブリエンヌ(5)とコモリ(6)。おのおの違う魅力がありますが、共通するのは洗いざらしで着られる点。僕自身が年齢を重ねてそういった楽さに流れている部分もありますが(笑)、オーセンティックなものを着崩す感じに惹かれます。
5.ブリエンヌ
6.コモリ
もともと、プレーンなようでよく見ると普通じゃない、という着こなしが好き。古着もよく着ます。白シャツは古着に対して緊張感やコントラストを加えてくれる存在。お店に立っていた頃は同じ白シャツに古着という組み合わせも、とがったスタイルで楽しんでいましたが、昨年からフリーランスになり、クラシックなものを自分なりに着崩すことに興味がシフトして、あらためてシャルベやフライを検討中。けれどきっとまた、モードなものが気になる時期も来ると思います。僕にとって白シャツは、回り続けるスタンダードアイテム、というのが当てはまるのかも。白シャツにデニムの組み合わせを楽しめることが僕のスタイルの終着点なので、ただ集める、気分で着るという以上に、将来への投資になっているはず。同じアイテムをたくさん着続けることで見えてくるものがあると信じているので。
Illustration:Shigeo Okada
Cooperation:Yumiko Kiyokawa