2023.02.15

【スタイリスト池田尚輝さんの着こなし講座】常識をまず疑ってみる「逸脱」のススメ

時代の移ろいとともに常に自身のスタイルを模索しているスタイリストにして求道者の、池田尚輝氏。最近はただカッコよく服を着るだけでは飽き足らず、そこからあえてハズし「逸脱」することにハマっているらしい。定型やセオリーを知ったうえでの脱構築とは何なのか? セルフスタイリングとともに解説してもらった。

【スタイリスト池田尚輝さんの着こなし講座の画像_1

スタイリスト池田尚輝のファッションと逸脱

常識をまず疑ってみるのが「逸脱」のコツ

ジェンダーからの逸脱として、スコティッシュなスカートを

ジェンダーからの逸脱として、スコティッシュなスカートを

「スカートは『現代のジェンダーからの逸脱』。キルトと呼ばれるスコティッシュの巻きスカートは元来、男性の正装ですよね。以前にスコティッシュのスカートをいくつか試着した際、ウィメンズのものは細部の仕様に違和感があり着こなすのが難しく…その点、このコム デ ギャルソン・オム・プリュスは取り入れやすかった。テック系のパンツと重ねています。もともとキャンプ時にサウス2 ウエスト8のラップスカートをはいていたので、アウトドア文脈でのスカートには馴染みがあった。もちろん機能だけでなくファッションとしてのシルエットの面白さもある。最近のラフ・シモンズやマルニでもメンズのワンピースが使われていましたね」


ずっと同じスニーカーを履き続けている人、の雰囲気をつくる

ずっと同じスニーカーを履き続けている人、の雰囲気をつくる

「J・W・アンダーソンとのコラボコンバースは海外のティーンモデルが色違いを履いていて、それがとにかくボロボロでよかった。僕もあえて汚しています。上はテーラードジャケットなのに足元は汚れたスニーカーというのも『大人はこうあるべき』という価値観からの逸脱、『構うもんか』という姿勢です(笑)」


クリストファー・ネメスのような強い世界観もしれっとこなす

クリストファー・ネメスのような強い世界観もしれっとこなす

「ネメスって僕ら世代には記号性が強いブランド。’90年代に雑誌『FRUiTS』でよく見かけたし、ヴィヴィアン・ウエストウッドやジョン・ムーアなどのパンクカルチャーともひもづいている。それをいい年した大人がサラッと着ることに意外性があります。シグネチャーの縄柄も、コントラストのキツくない配色でハーフ丈なら現実的。チノパンかシルバータブなどで普通に合わせるのがいいですね。わかる人に会うと褒めていただけてコミュニケーションツールにもなっています」


組み合わせの妙で「無国籍な佇まい」を戦略的に演出

組み合わせの妙で「無国籍な佇まい」を戦略的に演出

「これは逆に記号性を薄めたスタイル。外国人ならではのカッコよさにどうしても憧れますが、それを表現するには『日本的な常識』からの逸脱が必要かと。ナイキのキャップをかぶってアディダスのスニーカーを履くことで『ファッションに意識がない人』をイメージ。GORE-TEXに対して、真逆の要素であるペラペラのデニムを合わせるのも同様です。これはたまたまアクロニウムですがアークテリクスだとまた話が変わってくる。意志をもって『無意識』を表現しています(笑)」


逸脱、それは一種のダンディズムです

「2022年秋冬のJ・W・アンダーソンが面白かったんですよ。ユルゲン・テラーが撮影したルックを大きく引き伸ばして、宣伝トラックに貼りつけたものを、さらにスナップしていくという手法。iPhoneを構えている影が写り込んでいたり…それが普通にコレクションとしてVogue Runwayに掲載されていました。まさに脱構築ですね。昔の日本人なら、その名手として伊丹十三さんや赤瀬川原平さんがいます。『ホンモノ』のクオリティを知ったうえでナンセンスにハズす矜持がある男たち。ハズシとは難しく言えば『解釈されにくい』ということで…美術においても構築(=正当)と逸脱(=ハズシ)を繰り返すことは正当な手法だそう。ファッションって誰もが楽しめるプチ芸術みたいなもの。ただ、いいスーツを着て高い酒を飲んで…って贅沢をするよりは、それを知ったうえでなお、違うアプローチで遊ぶ余裕が欲しい。僕自身、ある種のダンディズムとして、『ちょっとした逸脱』を楽しんでいます」



Photos:Arata Suzuki[go relax E more] 
Composition&Text:Takako Nagai

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