最終更新日:2024.11.13

尾花大輔が選ぶ究極のスラックスBEST5

クラシックな佇まいの正統派20本を、N.ハリウッド デザイナー尾花大輔さんが試着して、今本当にはきたいベスト5を選出。最高の審美眼によるスラックス選びは意外性の連続だった。

――ちょっと前からスラックスにハマっていると聞きましたが?

尾花 よく見てはいます。人の大きなファッション周期の中でデニムばかりはく時期やジャージーばかり着る時期があるように、自分もずっと基本はコンフォタブルの範疇にいた。着心地がよくて活動的な服がベースだけど、ラクなことばかりだと少し鞭を打ちたくなるじゃない? その繰り返しの中でスラックスをどうとらえていくか面白さがありますね。例えば極厚ウールのスラックスなんかは着物と一緒で、今は僕にとってコスプレに近い。でもファッションが何かって言ったら極論コスプレ。デニムだって実は着づらいし、厚いウール地も硬くて動きづらいけど、それでもはきたい理由があってこそ所有欲が満たされるものだと思います。

――今日揃えた20本は正統派のスラックスですが、いつもはどんなスラックスをチェックしていますか?

尾花 仕立てのいいもの、そして新しいものを見ます。安価なものは当然工程が省かれているし、たくさん持っているヴィンテージやデザイナーズ古着は時代ごとのトレンドが決まっていて、発見にも限界がある。普段からラグジュアリーブランドのショップにもよく行くし、買うこともあります。ちゃんとはかないと本質がわからないので机上の空論はダメ。だから今日はたくさん試着できてうれしいですよ。

――仕立てのいいもの、ということですが、例えばイタリア製のように、ヨーロッパの高級スラックスならではの上質さは、今でもありますか?

尾花 日本にも素晴らしい工場があるし、そういう伝説めいたものは薄れたけど、向こうの歴史で脈々と築かれた生産体制のすごさはある(笑)。例えば、パンツの顔とも言える腰まわり。フロントの持ち出し、ベルトループ、裏側の仕様など最も工程が詰まっている箇所ですが、そのデザインを縫製工場の生産ラインで正確に実現するために、翻訳のように美しく再現できる人たちが昔からいる。糸・生地・縫製、すべてが当たり前につながっている点では「ヨーロッパならでは」の仕立ては存在しますね。ただし最近は「高級」という価値観が崩壊しているのも事実。稀少なカシミヤとか細番手の糸とか作る過程の苦労は着る側からしたらどうでもいい。ポリエステルでもいいものはいいし、高級になりえる。ファッションにはもう肉のランクみたいな定義はないのでデザインでいかにブランドの世界観をつくるかだけですよね。

――今日はどういうポイントを見て選びましたか? 5本ともシルエットから素材までさまざまですよね。

尾花 自分に似合わなそうなもの、意外性のあるものから試着しました。自分の体型上、似合うものはもうはかなくてもわかっているので、形も色も新鮮さを重視。はいたら意外といいなあ…と発見がありました。でもこうもいろんなバリエーションがあったらスラックスの定義自体から見直したい。僕はスラックスをはくという意識はなく、きれいに見えるドレッシーなパンツと考えたい。スラックスはこうあるべきという余計なタガが外れて、違う方向から見られる。スーツと革靴が売れない時代なんて言われるのは、そもそも活動的じゃないデザインだから。スーツではなく「セットアップ」、スラックスではなく「ドレッシーなパンツ」と、日常的に使えるものであってほしい。そんなことを考えながら20本を試着しました。


――では、尾花さんが本当にはきたいと思ったドレッシーなパンツ=究極のスラックス5本について、それぞれお話を伺いたいと思います。

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