ヒップホップな「ランバン」!
フランス最古のクチュールメゾンである「LANVIN(ランバン)」は、仏・パリで1889年に創業。モードの聖地を拠点にしつつもカジュアルファッションの裾野は意外に広く、世界的アーティストとデザインタッグを組む「Lanvin Lab(ランバンラボ)」を昨秋よりスタート。
いわば「ランバン」メンズの“オルタナ”と言えるこのコラボの初のクリエイティブディレクターとして、グラミー賞受賞アーティストである米国人ラッパーのフューチャー(Future)を起用。モードを超えた新鮮なヒップホップラグジュアリー「Lanvin Lab by Future(ランバンラボ バイ フューチャー)」を展開。そのファイナルコレクションが、3月5日(火)に発売された。
ここはランバン銀座店。フューチャーとセッションしたカプセルコレクションの試着ルポに、モデル兼俳優の若林拓也が訪れた。ヒップホップ好きの若林はフューチャーの楽曲をダウンロード済みだった。
若林拓也:サザン・ヒップホップ界隈でフューチャーは超有名です。僕は16作目のミックステープ『Purple Reign』をよく聴いています。
Lanvin Lab by Future とは?
上掲画像はフューチャー(1983年11月20日生~)自らがモデルを務めた「ランバンラボ バイ フューチャー」の公式ヴィジュアルだ。補足だが、フューチャーは昨年度の第65回グラミー賞にて「最優秀メロディック・ラップ・パフォーマンス」を受賞。ラッパーのイメージを超越した美的センスでも知られており、ファッションアイコンのセレブリティとして頻繁にパパラッチされている。
そんな彼が手掛けたヒップホップラグジュアリーの「ランバン」を、さっそくディグってみよう。
Fatなヒップホップラグジュアリー
若林:おっと、このスタジャンは単品で70万円超え。もう少しリアルプライスのアイテムがいいかも。ワッペンのイーグルはフューチャーのお気に入りのモチーフで、「強さと自由」の象徴です。
右胸にはイーグルと重なる「LANVIN」の「L」、左胸には「冥王星」のワッペンが施されていた。コラボのインスピレーション源としてフューチャーが掲げたキーワードは、宇宙探査・冥王星・惑星間旅行など挑戦的なものだった。これらはモード黎明期のパリで非凡を追求し続けたブランド創設者、ジャンヌ・ランバン(Jeanne Lanvin/1867~1946年)のマインドとシンクロさせることで導き出されたものだ。
さあ、「ランバンラボ バイ フューチャー」の試着ルポは王道のデニムから。よくあるストーンウォッシュかと思いきや、デザインが斬新だった。
若林:生地が最初から斜めにカットされていて、股下の縫製を辿るとどういうわけか曲がってカカトに達します。円柱を両端からねじった感じ。
まるでダウンタウンの廃ビルに描かれたグラフィティのよう。「LANVIN」ロゴが全面プリントされているデニムシリーズは「ランバンラボ」のキーアイテムだ。このデニムを中心に試着を重ねていこう。
着用感を確かめる。ダメージ加工でフェードアウトさせており派手さは感じられない。ストレートともルーズフィットとも違うユニークなツイストシルエットは、遊び心を理解する大人男子によく似合う。
若林:気のせいかもですが、ねじれた縫製によって足が外に外に向かっていくような感覚。内股でお上品に履くようなデニムではないなと思いました。
価格は20万円超え。ラグジュアリーの世界でヒップホップを謳歌するスタンスはいかにもフューチャーらしいアプローチだ。そして、デニムが決まればシューズも欲しくなってくる。
現行の「ランバン」を象徴するアイテムとして、ファッショニスタからの羨望を集める「Curb Sneakers(カーブスニーカー)」をチョイス。世界各地のおしゃれスナップで本当によく見かける。
若林:スニーカーもフューチャーとのコラボ。レトロなピンバッジも嬉しい。セレブリティってこういう童心に還るアクセサリーが好きですよね。
Fatにデフォルメされたシューレースもデザインのうち。締まりなく引っ掛ける程度に抑え、ラグジュアリースニーカーをカジュアルに料理したい。
トップスのグレーパーカのみ若林の私服。
1990年代のスケートシューズにインスパイアされたデザインの「カーブスニーカー」は肉厚のシュータンと極太のシューレースが最大の特徴。ちなみに「curb」には「抑制・制御・これ以上に増えたら困る」という意味があり、その対象ははちきれんばかりのフォルムを指している。デニムとスニーカーだけでもストリートで映えるのだ。
「母と娘のランバン」へのリスペクト
ブランドのアーカイブヴィジュアルを題材にアレンジした絵柄にエスプリが漂う。HipでHopなフューチャーのセンスは、「ランバン」の本丸から外れているものでは決してないのだ。
若林:「OH, WHO’S “WE”?!」の答えは?
その「WE」とは「ランバン」のエターナルコンセプトである「母と娘」に他ならない。往年の顧客層ならば知っているブランドヒストリー、その序章は、ジャンヌと娘のマルグリットの母娘愛が結実した子供服のデザインから語られる。無償の愛から始まったそのオリジンこそがメゾンの礎。母と娘が手をつないだ姿のブランドアイコンは今も多くのデザインに使用されている。
シューレースとテイストが同じ「CURB LACES(カーブレース)」をドローコードに取り入れたパーカを重ね、カジュアルなトータルコーディネートが完成。ヒップホップな大人男子に向けた「ランバン」の現在形は、どこか静謐な貫禄が漂う。
若林:シンプルでミニマル、ファットでパワフル。なんだか気持ちまで強くなった感じがします。
あえてスノッブに主張するフードの「LANVIN」ロゴと、ねじれたデニムにカーブスニーカーを合わせたボリュームに注目。闊歩するとより際立つ個々のインパクトが、ストリートの視線を鷲掴みにする。
さらに、同柄のデニムジャケットでセットアップを組んでみる。ラックの下に置かれた「ハイパーカーブスニーカー」のシュータンを見ると、「母と娘」をモチーフにした伝統のブランドアイコンが刻まれていた。温故知新なこのスニーカーもフューチャーとのコラボアイテムになる。
19世紀末、男性優位のパリ社会、女性創業者、そして女性デザイナーのブランド。それは危うさや儚さよりも、極めて革新的であり野心的なビジネスアプローチであったと自伝に記されている。時代に迎合することなく、先駆的に美意識の機微を掴むそのセンスは、1889年の創設以来変わることはない。
若林:このデニムジャケットも着物みたいに身頃がツイストしたデザインでした。気分が高揚してきたので外でチルアウトしてきます。
日本旗艦店として「ランバン銀座店」は一昨年11月26日にグランドオープン。老舗クチュールメゾンならではのモードの本丸を色濃く打ち出すショーウィンドウからは、深紅のウィメンズドレスが覗いていた。一方、若林のデニムセットアップも等しく「ランバン」である。セレブラッパーのフューチャーとのコラボで、敷居やクラス感はハイエンドのまま、カジュアルな親しみやすさが増した。
若林:こうなったらもっとラフに。とことん「ランバンラボ」を楽しんでみます。
セレブ御用達のスウェット上下
パーカを脱ぎ、カラーをホワイトからブラックにチェンジして「同色スウェットのセットアップ」に挑む若林。世界中のいかなるラグジュアリーブランドにおいても、おしゃれに着こなすことが難しい筆頭格のコーディネートであることは、意識の高い大人男子ならば誰もがわかるはずだ。
いくら「ランバン」とはいえ、野暮な部屋着感が出たら一発NG。さあ、答え合わせをしてみよう。
パーフェクト。勝利打点はやはり、貧相に見えない突き抜けたボリューム感にある。フードは三角形の形をキープしたまま背中に乗るほどにしっかりしたつくりだが、単にヘビーウェイトに依るものではなく、フードの内側までコットン生地を張り巡らせた丁寧な仕立てが根底にある。また、太番手で刺繍された「LANVIN」ロゴもここまでビッグフォントだとかえって潔い。絶妙なるスタイルの均衡をいとも簡単に保つセットアップに見惚れてしまう。
若林:余裕で全然アリですね。緩くフードを被って夜の銀座を練り歩きたい。
そして、ラックに掛かったパープルのブルゾンに目が留まった若林。ラスト試着はこれで決まり。
Futureへのアンサー
若林:冥王星を意味する「PLUTO」のワッペン付き。フューチャーが2012年にリリースしたデビューアルバムのタイトルが『Pluto』です。
補足でもう1つ。このプルオーバーブルゾンは1色展開だが、その色は「PURPLE」ではなく、フランス本国の公式オンラインには、フューチャーのアルバム名である「PURPLE REIGN」と記されていた。まるでアンサーソングのような粋な演出だ。
若林:エモすぎ。このスタイルで『Purple Reign』を今すぐ聴きたくなりました。
アイコンにコンセプチュアルな想いを潜め、ハイファッションの範疇において、とことん「ランバン」ど真ん中。今やサザン・ヒップホップ界をレペゼンする存在であるフューチャーへのアンセムのような春アウターだが、パーソナルな色合いは思いのほか薄い。上級者向けのプルオーバーデザインで攻めに転じているところにも好感が持てる。
若林:上下が黒スウェットだと重く見えるのでホワイトのスニーカーにしていました。このパープルならば、スニーカーもパンツもブラックで締めます。
高貴なる「紫の支配」。文化系男子が着こなすべき2024年春夏「ランバン」メンズの旬がこちら。ヒップホップラグジュアリーを堪能したい。
若林:ハイプなロゴ入りデニムのセットアップもいいけれど、パープル三昧も好みです。コーディネートに名前を付けるなら、やっぱりパンチラインの「PURPLE REIGN」で。
試着ルポは以上。最後にフューチャーの公式コメントを抜粋しておく。
「ファッションはアートであり、音楽と同じように自己表現です。どちらも人間の経験における創造的な表現手段なのです」(Future)
2024年春夏のコラボヒットチャートに躍り出た超新星、それはフランス最古のクチュールメゾン「ランバン」が発信するアーティストタッグ、「ランバンラボ」だ。米国人ラッパーのフューチャーとセッションした魅惑のヒップホップラグジュアリーを「ランバン銀座店」で着てみよう。