2020.08.30

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.77 グッチ「ダッパー・ダン」のシャツ|2020年9月号掲載

グッチのフレアパンツを数シーズンはいている。’70年代風スタイルだが、僕はヒッピーではない。ヴィーガンでもないが、食材はオーガニックが好き。以前は夜遊び優先で遅寝早起き。今は早寝早起き。コロナ前も健康には気を遣っていたつもりだが、今はそれ以上に気を遣う。自粛から自衛だから?? 特効薬もない中、免疫づくりだけが頼みの綱だ。好きな格好をして、しっかり食べて備えるのだ!

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野球やサッカーの公式戦が無観客で行われる中、ファッション業界でも無観客ランウェイの映像配信が広がっている。イベントとしては今までとはまったく違ったものになるが、ファッションショーの場合、そもそも観客が総立ちで盛り上がるものではなく、一人一人のハートに火がつくかどうかがポイント。画面をプライベート空間でじっくり見るのも、緊張感があって悪くない。ずっとこの方式が続くのは退屈だが、これまでのようにやたらとショーの回数が多いのもどうかと思っていた。今回は配信、次回はリアルなショー、というふうに、状況に応じて見せ方を変えていくのもこれからのあるべき姿かもしれない。



グッチのアレッサンドロ・ミケーレは、年5回のショーを2回に減らすと発表し、オンライン記者会見で「服には長い寿命が必要」と述べた。その話を聞いた僕は、2年前、NYのハーレムにあるグッチ「ダッパー・ダン」でオーダーメイドしたシャツの存在を思い出した。オーダーしてから手元に届くのに約半年かかり、その間、家のリノベーションと一時的な引っ越しが重なったのでその存在をすっかり忘れていた。



ガーメントケースに入ったままだったシャツをクロゼットの奥で見つけて、「お〜、これこれ!」と思わず独り言。ボタンはグッチのヴィンテージから選んだ。選択肢は数種類あったが、スタッフにいちばん人気がないのはどれかと聞いて、それにした。シルエットはお任せだったが、今回初めて着てみて、意外とタイトなことに気づいた。同じときにウエストゴムのパンツやフーデッドパーカも買ったが、シャツはそれらとは趣の違うドレス仕様に上がっている。



早速、今季のフレアパンツのセットアップに合わせてみた。ユルい雰囲気で着たかったので、シャツの裾はアウト。足元はコンバースのオールスターをチョイス。グッチのフレアパンツはここ3年ほど愛用しているが、これまではヒールシューズと合わせていた。オールスターだと全体的にズルズル感が出て、飲みに行く店もユルい方向に変わりそうだ。といっても、“ウィズコロナ”だから、気軽に飲みには行けないけどね。



話を戻したい。アレッサンドロ・ミケーレが述べた「服には長い寿命が必要」発言にいたく共感しつつ、僕の場合はこれまでだってずっとそう思っていたことに気づいた。現に僕が借りているトランクルームには、長い寿命(?)の服がわんさかある。それらは皆、「今は着ていないけれど、いつでも着られる状態」をキープしている(つもり)。ただでさえ量が多いので、どこに何があるかわかるように整理整頓して置いてある。高価なものも、チープなものも、毎日着まくっていたものも、一度も着ていないものも…空調管理がなされたトランクルームに、まるでショップのごとく、ハンガーに掛けて並べている。「長寿な服」というか、僕にとっては「殿堂入りの服」なのである。



先日、ある場所で数年前の服を前に数名で話をしていたら、「古い服を見るとその当時のことを思い出す」と口にした人がいた。確かに音楽も古いものを聴くと、過去の情景が浮かび上がる。懐かしいだけでは未来を切り開けないような気もするが、後ろを振り返りながら前へ進むという考え方もあると思う。経験や思い出には、重要なことを教えてくれる鍵が潜んでいるからだ。



(左)ハーレムのグッチ「ダッパー・ダン」で作ったシャツ。ハットはグッチの春夏コレクションだが、素材感は秋冬向き。(中)ジチピのオーセンティックなポロシャツ。抜群の肌触りと上品な雰囲気に惹かれている。ゆったり着たいのでサイズ5をチョイス。(右)レオパード柄のコンバースはワコマリアとのコラボ。オリーブ色ベースが派手な獣柄をクールダウン。アッパーがくたびれようとも、ソールはピカピカにして履く予定。
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Text&Photos:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon

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