コロナとともに生きる時代がやってきた。首から上はマスクやゴーグルで保護がマスト。でも膝から下は肌を出したい。だって夏だから。ベリーショート丈に挑戦するのもありだけど、日本の夏にはゆるいシルエットの膝下丈が合う。トップスは軽くて柔軟な素材のものをチョイス。インナーにはルーズなTシャツが気分だ。さて、完璧なコロナ防備でお出かけしましょう!
「カットオフすればいいんじゃない?」。かれこれ30年ほど前、パリのスタジオで日本のブランドのカタログ撮影をしているときに、大先輩のファッションディレクターが発した言葉である。僕は大きな衝撃を受けた。大先輩は、モデルがはいてい るパンツをその場で大胆にカットした。横にいたデザイナーをすっ飛ばして「祐ちゃん、こんな感じどうかな?」と聞かれた僕は、即座に「格好いい!」と答えた。サイズ感としても、全体の雰囲気としても、カットオフしたほうがベターだった。そしてその現場は、モードに挑もうとする雰囲気に満ちあふれていた。東京では経験したことのないその空気に僕はシビレた。今でもパンツをカットオフする場面になると、その情景が甦ってくる。
そのときの話をもう少し続ければ、つまらんプライドにこだわっていたデザイナーは勝手にカットオフされてもちろんご立腹。 僕はデザイナーと二人で日本から撮影用の服を運んできたのだが、撮影スタッフは僕たち二人以外、全員パリをベースに活躍している人たち。国籍もバラバラ。で、カットオフ後は、成田空港に到着するときまで、ずっとデザイナーからネチネチと愚痴を言われる始末。だけど僕は、撮影現場で確実にいい写真が撮れていたのを確信していたので、愚痴を聞くくらいはへっちゃら。それよりも衝撃的な現場体験に感動していた。
東京へ戻って数週間後、パリから届いた写真を見て、デザイナーは上機嫌になった。撮影のときとは打って変わって写真を褒め倒し、カットオフしたパンツに関しても、「これは僕のアイデアでやったの!」とご満悦。周りの部下に自慢しているではないか。僕は、そのブランドをファッションショーまで監修する予定だったが、何だかばからしくなってその場で降りた。自分をカットオフしたのである。
今回カットオフした白いペインターパンツはスミスのもので、メイドインUSA。ア メリカ産牛肉はちょっと遠慮したいが、アメリカ産ジーンズは大歓迎である。数年前に猿楽町にあるハイ!スタンダードで購入。一度もはかないままだったが、今回、コロナ自粛中に服を整理していて発見した。その瞬間、「これはあなた、カットオフしなさいよ」という神の声がした。確かにこの季節、白いゆるめの短パンがあれば重宝する。今回は丈の長さに迷い、カットオフ後にロールアップして膝下に整えた。何度かはいたり洗濯したりして、様子を見ながらベストな丈にするつもりだ。
コートはヤンチェ_オンテンバール。「真夏にも着られるコートを作ろう」というこ とで、オーガンジーで作ったバルマカーンだ。程よくルーズなシルエットが涼感を誘う。冷房のききすぎた場所に行った場合など、カバンからサッと取り出してはおれる。スカーフのように軽快に使ってほしい。インナーのビッグTシャツは、コスの厚手タイプ。ルーズなシルエットが魅力だ。足元はドレス系の革靴と迷った結果、ジャックパーセルのひもなしスリッポンにした。マスク&ゴーグルが必要な時代、首から上の忙しさはいかんともしがたいので足元は軽くしたい。テニスプレイヤーのサンバイザーよろしく(?)、フェイスシールドも加えた。ともあれ、カットオフしたペインターパンツに軽やかなサマーコートで、コロナもカットオフといきたいものである。
Illustration:Sara Guindon