2020.02.29
最終更新日:2024.03.07

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.72 ディッキーズ×ビームス×野村訓市のセットアップ|2020年3月号掲載

コートはボリュームのあるアイテムだ。だからこそコート「以外」がすこぶる気になる。例えば首元や袖口、裾の下から見えるもの。それからコート自体の裏地とかポケットとか。細部にこだわりすぎるのもどうかと思うが、それこそがコートルックのポイントだと思う。最近はそういう部分をハデめにするのが好き。ソックスもイエローとかハデ色が最高なのだ。

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ディッキーズといえば、今ではストリートファッションには欠かせない存在だが、’80年代後半〜’90年代前半にアメリカで見た印象は、もっとガチなワークウェアだった。アメリカの田舎町には必ずあるK マートに行くと、かなりのスペースをディッキーズコーナーが占めていた。



’90年代のある時期、僕は半年に1 回刊行される「his TUBE」のカタログのスタイリングをしていたのだが、’96年のロケ撮影はサンフランシスコだった。このカタログ撮影は、半年に1 回、デザイナーの斎藤久夫さんが行きたい街へみんなで出かけて、モデルはストリートキャスティングというラフなスタイル。



最初はオーディションなどもして、合格者には本番の日時を伝えて来てもらっていたのだが、なにしろ相手は素人。約束をカッチリ守るような真面目な人ばかりではない。大概は時間を守らないし、バックレて来ない輩も続出。それでは撮影にならないので、撮影当日に街角で声かけ→その場で交渉→OKならそのまま同行してもらって撮影、というパターンになっていった。



いきなり声をかけられた相手も驚いたと思うが、通訳をしてくれる人もいたりいなかったりだったので、声をかける僕も苦労した。いちばん気をつけたのは、“瞬時に相手が信用してくれるムードづくり”であった。



サンフランシスコでの撮影では、某アートスクールに撮影隊みんなで入っていき、屋上にあった広い学食を目指した。当然「チームアポなし」であったが、カメラマン含め、スタッフ全員ファッション系の空気をギリギリキープしていたのが功を奏したのか、あるいはアートスクール特有の緩さがわれわれを受け入れてくれたのか、入り口からして何のおとがめもなし。校内をさんざんうろうろした後、学食に陣取った。



僕たちは、イケてる生徒に片っ端から声をかけた。そのとき、やたらとイケてる子たちの相当数がディッキーズの874を格好よくはいていることに気づいた。中でも、ネイビーの細身シルエットの874をはいているボーイッシュな女の子がいて、オールスターの黒いローカットを合わせていたのが印象的だった。その光景は僕の脳裏に、マイ・アーカイブ映像として残っている。



撮影後、ユニオンスクエア近辺でディッキーズの874を探したが、どうしても見つけられなかった。その’96年以降、ディッキーズ、カーハート、ベン・デイビスなど、アメリカのワークウェアブランドの動向が常に気になっている。



今回着ているヘリンボーンのセットアップは、ディッキーズ×ビームス×野村訓市氏(トリップスター)のコラボ。1 年前に訓市さんが着ていた素材違いのセットアップを見て僕も欲しくなり、値段を聞いてその安さに驚愕。今季のモデルを手に入れた。素材的にもシルエット的にも「緩さ」が追求されている。どこででも寝られそうなパジャマライクな着心地なのに、見た目は質実剛健なヘリンボーン。そのギャップがいい。ついつい毎朝、スルッと着てしまう。



合わせたコートは3 シーズン目を迎えたヤンチェ_オンテンバールの自信作。チェック柄のツイード素材と、裏地の激しい柄(もちろん香取慎吾作)とのコントラストが好きだ。足元にはイエロー系ソックスをちらつかせています。ラペルにつけた安全ピンは青山のコム デ ギャルソンで購入。これもとがっているけど落ち着くのです。



(左)ヤンチェ_オンテンバールのコートはヘビーウェイト。柄違いでグレーのヘリンボーンもあります。裏地は香取慎吾さん作。(中)底が口になったバッグはボッテガ・ヴェネタの新作。クリエイティブ・ディレクター、ダニエル・リーの斬新なアイデアがきいている。持ち手のデザインも含め、モダンな印象。軽くて機能的。(右)大きなポケットは何かと便利。雑誌や新聞、ホットドッグ、コーヒーまで入る入る。両ポケ使えば余裕余裕。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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