2019.11.24
最終更新日:2024.03.07

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.63 ヤンチェ_オンテンバールのレインコート|2019年6月号掲載

表はトラディショナルな柄、裏には激しい絵。ヤンチェ_オンテンバールのトレンチコートは、静けさと熱さが表裏一体となっているのが特徴。エルメスのマスタードイエローのパンツは、にぎやかな色めとは裏腹に落ち着きが漂う。その伝統の重さと深さに、素直に感じ入る。最近見た映画『グリーンブック』は、主人公二人の人間関係と衣装に魅せられた。

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チェック柄の服を見ると、つい手に取ってしまう。中でもブラックウォッチには目がない。今持っているものだけでも、パンツ、ジャケット、シャツ、セーター…。とにかく好きなのだ。一点だけ取り入れるケースが多いが、ジャケット、パンツ、シャツ、すべてがブラックウォッチというエクストリームな組み合わせにトライしたこともある。そのときは「コメディアンみたい」と言われたが、子どもの頃は漫才師に憧れていたから、嫌な気はしない。



ヤンチェ_オンテンバールのトレンチ型レインコートはロング丈なので、全体の印象はブラックウォッチ度たっぷり。ブラックウォッチのようなタータンチェックは、マフラーやコートなど、秋冬向きのアイテムや傘に使われることが多いが、われわれは梅雨や台風に見舞われる国に住んでいる。なので今回は、折りたたみ傘のモバイル感を目指して、ペラッとしたトレンチ型レインコートを作った。



内側に使用したのは、一緒にディレクションをしている香取慎吾さんのアート作品『フラワーマジック』。軽量なメッシュ素材にプリントしている。表は伝統的なチェックで、裏には慎吾さんの激しい絵。前シーズンも裏地に香取さんの絵を使ったが、今季もまた見えない部分に遊び心を取り入れた。一日の寒暖差が激しい晩春のシーズンには、丸めて鞄に入れられるこんなコートが重宝すると思う。



エルメスのマスタードイエローのパンツは、シルエットが素晴らしい。細からず、太からずがいい。エルメスも大好きで、靴やブレスレット、時計、コート、ジレ、タイ、カレ等々を買ってきたが、パンツを買ったのは意外にも初めて。思い起こせば、30年ほど前にNYのバーニーズで買ったスエードのジレもこんな色だった。あのジレは今もトランクルームのどこかにあるはず…。



イエローといえば、一昨年からレモンイエローのソックスをスーツに合わせ始め、また、レモンイエローのシャギードッグセーターを愛用したりしている。昨年はイエローのスニーカーを何足か履いていた。今年はフーディと、このパンツ。マイ・イエローブームが密かに進行している。



3月には、エルメスが主催する「ソー・エルメス」なる馬上競技イベントをパリのグランパレで観戦した。かねてから馬に乗りたいという夢をもっているので、この競技を見られたのは実にうれしかった。正装した競技者が颯爽と馬に乗る姿にしびれた。この競技では、いくつもの高いバーを飛び越えてスピードとジャンプの完成度を競う。入念にボディをブラッシングされた馬の輝き、そして緊張感漂う人間の表情は、まさに人馬一体となる美しさに満ちていた。ますます乗馬への興味が高まった一日であった。



パリへの往復の機内で、映画『グリーンブック』を観た。まず行きに1回見て、帰りは好きな部分だけをはしょって見たのだが、僕が何よりひきつけられたのは、1962年当時の主人公二人の格好。高等教育を受けたアフリカ系アメリカンの天才ピアニストと、下町育ちのアウトローなイタリア系アメリカンのドライバー。まったく違った世界に生きる二人が、旅を通して精神的につながっていく姿に魅了された。ラストの人情たっぷりなオチが好き。車や服装、音楽のチョイスが素晴らしく、それでいて人情モノ。「白人の救世主」との批判も浴びているらしいが、僕はこの作品が大好きだ。



(左)イエローとはいえ、落ち着いた雰囲気なのがいい。エルメス銀座店では、ほかにもグリーンやオレンジなどカラフルなパンツが並んでいたが、迷わずこの色にキメた。気分上がります。(中)パリのフォーブル・サントノーレ通りにあるエルメスでお買い物。旅用に機内持ち込みの鞄に入れる小物入れとして使うつもり。最近は黒い小物入れ袋は目が衰えてきて、鞄の中では見つけにくい。派手な色がいい。(右)ヤンチェ_オンテンバールのトレンチ型レインコート。とりあえず、豪雨の日にずぶ濡れになって着てみたい。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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