リステア×ヴェトモンのルーズなフーディ、アレキサンダー・マックイーンのスニーカー、そしてシャネルの3枚重ねのサングラス。どれもボリューミーで存在感がバリバリ。「ミッキーマウス・バランス」を思い出し、手にもハンターの大きな長靴バッグを持った。顔を小さく見せたいといつも考えているが、このルーズなフーディルック、いかがなものか。
久々にエールフランスでパリに行った。離陸してすぐ、映画チャンネルをチェック。最新作には日本語の字幕作品はほぼなく、吹き替えが数本あるだけ。それでは、と古い映画のラインナップを見る。が、こちらも日本語字幕版はなく、すべてがフランス映画。トリュフォーの名作の数々や、うちの親父のヒーローだったジャン・ギャバン主演作品が並んでいた。と、その中に『César et Rosalie(邦題:夕なぎ)』のビジュアルが。僕のお洒落アンテナが即反応した。
フランス語はちんぷんかんぷんだが、最悪、嫌なら途中でやめりゃいいやとクリック。映画を見始めるとすぐ、ロミー・シュナイダーとイヴ・モンタンの洒落っぷりに心を奪われた。会話は理解できなかったが、二人の着ている服がとにかく素敵だった。それに、食事、飲酒、カード遊び、葉巻、タバコ、歌、運転…どのシーンにおいても、二人の完璧な身のこなしに魅せられた。
イヴ・モンタンは、ピンストライプのスーツに、今では見なくなった大きな襟のシャツ、そして短いニットタイの組み合わせ。タイのノットは大きめである。そんなかっちりルックを、彼はあたかもジャージでも着ているかのように軽やかに着こなす。エレガントこのうえない。
役柄は、車や船を解体して荒稼ぎしている陽気で気さくな男。性格は『男はつらいよ』に出てくるタコ社長に近い。見た目と中身の温度差もツボだ。カフェでキメるビールやチンザノ、パーティの席でのカルバドスなど、シーンごとに見せる酒の飲み方も洒脱で気持ちがいい。
後半では車はシトロエンになり、カーキのコットンスーツで登場するのだが、それをクタクタに着ている姿も好きだ。合わせていたベルトもよかった。…と、原稿を書きながら映画の衣装について調べたら、なんとイヴ・サンローランが担当していたことを知って驚き! どうりで出演者全員イケてるわけだ。
僕は20代の頃、この主人公のようにスーツを粋に着こなせるオヤジになりたいと思っていた。なので若い頃からずっと、現在に至るまでスーツを作りまくってきた。世界中、いろんな場所で作って、どのスーツなら洋画に出てくる素敵なオジサンのごとく軽やかに着こなせるのだろうと、試行錯誤してきた。だけど、実際イメージしていた年齢になってみたら、フーディを着ているほうがはるかに軽やかなのである。若い頃は、童顔ゆえにフーディはしっくりこないと思っていたが、今はいい具合だ。
ファッションは、つかめそうでつかめない、フワッとしたものだ。着たい服と似合う服は時によって合致しない。でも、僕はずっと「着たい服」を着続けている。もちろん、自分では常に「似合っている」と思って着ている。
周囲には、「ひと言言ってやりたい」と思うくらいまったく似合わない格好をしている人もたまにいるが、僕がとやかく言う資格はないし、そのままの道を進んでほしい。だってそれが彼の個性なのだから。第一、似合う服ばかり一生着ている人なんて、なんだかつまらない。そんなそつのない人より、いっつも似合わない格好をしている人のほうに興味が湧く。
僕は今、イヴ・モンタンみたいにスーツを軽やかに着こなす男に憧れつつ、実際には超ラクチンなルーズ・フーディにぞっこんだ。この年でこの格好にはまるなんて、人生は予想外の連続で楽しいね。
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa