猛暑、猛暑、猛暑。うだる暑さに耐えきれず、今年の夏はついに水着を街着にしちまった。ドリス ヴァン ノッテンのスイムショーツにホーズとボウブラウスとジャケットを合わせて某メンズ誌のインタビューの撮影に挑む。水着をドレッシーに着るのは新発見的気分。40度前後の気温には、水着で対応するしかない。この夏、僕のニューワードローブはドレス水着!
某メンズファッション誌から、インテリアについての対談依頼を受けた。当日は写真も撮られるということで、どんな格好で行こうかと考えた。一人で撮影されるならそのとき気に入っている格好で行くことが多いが、今回は対談相手がいる。なので、彼の格好をイメージしながら、彼が絶対しないような格好をしてみようと考えた。そのほうがコントラストがついて面白いと思ったからだ。
7月の猛暑まっただ中だったこともありショーツを合わせたかったが、前号でも紹介したエンジニアド ガーメンツのコーデュロイでは暑い。で、1年前のパリコレの際に個人オーダーしたドリス ヴァン ノッテンの水着を思い出した。ビニール袋から出しつつ、こんなの、いつどこではくつもりで買ったのだろうと思った。毎度ながら衝動買いの怖いところである。
はいてみれば、当然ながら中にメッシュのパンツ付き。水着を脱いで、下着を脱いで、あらためて水着をはき直した。わお! ブラボー! 涼しい。一瞬、下着なしの開放感に溺れた。そうか! ならばこのスーパーカジュアルなアイテムをドレスな着こなしにするのはどうだろうか。
そこで思い出したのが、同じくいつどこで着ていいのか不明だったグッチのボウブラウスである。それにシックなモスグリーンのホーズをはき、暑いのを我慢してベルベットジャケットを合わせた。あとはハイヒールなグッチのモノグラムシューズとティアドロップのミラーグラスで完成。なんとも不思議なドレス水着ルックの誕生である。
撮影は無事に終了し、すっかりこの異次元ルックが好きになった。暑いときはプールや海でなくても水着に限る。それも僕の場合は水着でドレスアップするのが快適。キメながらにして開放感を得られる。猛暑の東京に居ながらにしてハワイの夕暮れにカクテルを傾ける気分になれる格好がこれなのであった。
そんな中、グッチがハーレムの伝説のテーラー、ダッパー・ダンとタッグを組んだ店へ招待してくれるというではないか。ハーレムへ行くのは30年ぶりだった。初めてニューヨークへ行った1988年に、ちょっと足を踏み入れて以来である。当時はジーンズのポケットにナイフを入れている人が普通に歩いていて驚いた。が、今回歩いたエリアには、そんな人はいなかった。
ダッパー・ダンこと、ダニエル・デイに会えるとあって、僕は今いちばんのお気に入り、「ドレスアップ水着ルック」でキメて行った。この格好でハーレムを歩いていると、知らない人々(みんな多分アフリカ系アメリカン)に「You look so nice!」「You look great!!」と声をかけられた。すれ違いざまに、耳元で「You’re looking gooooood!」と言う紳士もいた。
ま、見知らぬ外国人がヘンテコな格好して頑張っているなと、冷やかしを込めたお世辞を言っているようにも思えるのだが、ここまで持ち上げられると、なんだか気分は上がる。それも、なりきり系ではなく、ヒップホップの本場で、そんな言葉を彼ら特有のリズム&ポーズ&イントネーションで言われると気分は上々なのだ。
日本だと照れが優先するので、サラッと褒めたり褒められたりするのが普通。それも素敵ではあるが、ハーレムのダイレクトな「褒める力」に圧倒された。2018年7月のハーレムは暑いがクールだった。もちろん、ミスター・ダッパー・ダンもね。
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa