2019.11.03
最終更新日:2024.03.07

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.47 ラフ・シモンズのカルバン・クライン|2018年2月号掲載

バーニーズ ニューヨーク六本木でラフ・シモンズのカルバン・クライン等を購入。自分でも驚くような勢いで、青いTシャツ、白のTシャツ、そしてパンツを買ってしまった。腕に赤いラインが入った白いTシャツは張りのある生地で作られているからなのか、着るとちょっとだけマッチョな体型に見える。そんなところもニューヨークだな、と思う。

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ある撮影現場で、某女優さんが着ていたニットがすごくかっこよかったので「それ、どちらのですか?」と聞いたら、「カルバン・クライン」という答えが返ってきた。一瞬「マジ!?」と思ったが、すぐに「ラフか! ラフの仕業じゃん」と覚醒した。



2017年2月にニューヨークであったラフ・シモンズによるカルバン・クラインのデビューコレクションは残念ながら見に行けなかったし、ウェブやコレクション雑誌をチェックするのも忘れていた。でもそのニットは「さすがラフ」だった。遅ればせながら、ラフの力量に深く感銘を受けた。



ラフ・シモンズのパリにおけるデビューコレクションを見たのはもう20年前のことだ。夜の8時か9時のスタート。今となってはそういう時間に始まるショーは珍しくもないが、当時のメンズコレクションでは異例だった。ほかのショーは夕方には終わっていたので、ラフのショーの前に僕はカフェで簡単な食事をし、赤ワインをさんざん飲んでいた。



会場に着くと、予想していたことではあったが、観客の70%は日本人だった。特にバイヤーが多かった。東京のショップのバイヤーはもちろん、札幌や名古屋のバイヤーの顔も見えた。薄暗い倉庫で行われたショーは、モデル、音楽、服、場所…そのすべてが渾然一体となって僕に迫ってきた。いわば「事件」のような衝撃として、僕の記憶に刻まれたのである。それ以降、ラフに倣って夜9時デビューをする新人デザイナーは多いが、ラフほどの衝撃を与えてくれる存在が出てこないのが残念だ。



ラフ・シモンズはその後、紆余曲折を経て、ジル・サンダーのディレクターになる。そのデビューコレクションもミラノで見た。モデル選びやコーディネートにはラフらしさがにじみ出ていたが、なのにジル・サンダーのミニマムな世界観を完璧に構築していた。見事だった。



その後はクリスチャンディオールのディレクターに就任。今度はパリで、ウィメンズのデビューコレクションを見た。ラフはムッシュ・ディオールのニュールックに現代的なアレンジを加えて今に甦らせた。圧倒的にモダンだった。前任者のガリアーノとは真逆のテイストだったので、リブランディングのイメージがいっそう際立った。時を同じくして、エディ・スリマンもサンローランでデビュー。思えば当時のパリはにぎわっていた。



ミラノとパリで十分なキャリアを積んだラフが、今度はニューヨークでカルバン・クラインをやると聞いたとき、僕は彼が原点に近づいた気がした。確か1996年頃、彼が東京に来たときに、僕は今はなき原宿のオーバカナルでインタビューをした。周りには普通にお客さんがいて、ガヤガヤした中でワイン片手に話すカジュアルなインタビューだった。



そのとき彼が自慢げに見せてくれたのは、秋葉原で買ってきたというリーボックのフィットネスシューズだった。’80年代初頭にニューヨーク発で大ブームを巻き起こした、ソフトレザーの白いピカピカのあれである。満面の笑みを浮かべてショッピングバッグからシューズを取り出した姿が忘れられない。あれがその後、ラフ・シモンズのクリエーションに生きてくるとは、当時は思いもしなかった。



六本木のバーニーズのフィッティングルームで、僕はスタッフの丁寧な説明を聞きながら、昔のラフの姿を思い出し、カルバン・クラインの新作を衝動買いした。



(左)ドリス ヴァン ノッテンのTシャツ。フォックスブラザーズ(イギリスの伝統ある生地メーカー)のマークをプリントしたもの。このキツネ印は昔から好きだったので即購入。(中)カルバン・クラインのTシャツ。目の詰まったヘビーなコットン製。アーム部分のラインが気に入りました。リチャード・アヴェドンのブルック・シールズの写真をモチーフにした織りネームも渋い。(右)パンツは色にシビれてひと目惚れ。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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