フランス軍の6ポケットパンツにグッチのチャイナジャケット。で、足元は黒のジャックパーセル。日仏伊中米、入り乱れスタイルだが、どことなくK-POP風にも見える。にぎやかな、異文化交流ルックが完成。
23歳のとき、初めてのニューヨーク旅行から帰国した僕のスーツ姿を見た先輩が、「スケさん、ニューヨーカーにとってスーツは軍服のような存在なんだよ」と言った。
確かに、バーグドルフグッドマンやバーニーズ ニューヨークのウインドウに飾られたスーツのディスプレイは首元に緩みがなく、肩やウエストにも寸分の乱れがなかった。その空間に立ちこめたる凜とした空気に感動していた僕は、あらためてスーツの起源はミリタリーだったのだとわかった。
以来、アメリカのニュースキャスターや政治家、映画に出てくるスーツ着用の人たちを見ると、真っ先に首元や肩をチェックするようになった。日本のキャスターや政治家も、その当時(1988年頃)と比較するとシャツの首元に緩みをもたせない人が増えた気がする。別に軍服を意識しているとは思わないが、首元はピシッと締めたほうが顔が精悍な印象になると思う。
さて、最近買った仏軍のパンツには、そんなニューヨーカーのようなスーツ感覚はあるだろうか? 答えはNO。まったくない。フランス人のスーツの着こなしを思い出してみても、ネクタイの締め方やシャツの首元には絶妙な緩さがある。けっしてだらしないわけではなく、気張った感じにもならず、何というか、ゆとりを感じさせる着こなしだ。
以前、ヴァンドームにあるシャルベでシャツをオーダーメイドした際、相手をしてくれたオーナーが、採寸時に僕の首元に指を一本入れ、「これくらいあきがあったほうがいい」と言った。あれ、そんなに余らすの? と思ったが、仕上がってきたシャツは着心地抜群。首元の見え方も優雅この上なかった。
この軍パンは、足元をボタンで絞るタイプ。戦闘よりむしろ洒落感を優先したように思えるディテールには、いつか見たような懐かしさがあり、ロマンティックな気分になる。レングスが長いので、このイラスト用の写真を撮った後に裾を丈詰めした。
僕がいつも修理を頼む店は渋谷にある。中国人の女性店主はとにかく器用で、ジャケット、スーツ、ジーンズ、シャツ…、なんでも絶妙のバランスでリサイズしてくれる。彼女みたいなマジシャンが身近にいるのは非常に心強い。
軍パンに合わせた派手なチャイナジャケットは、ドナルドダックが「ウォーリーをさがせ!」のごとく中国柄に紛れている。短い着丈でブルゾンのような気軽さがあり、首元のアストラカンのあしらいにはフォーマルな気品が漂う。相反する要素を持ち合わせている点が最高。
オーバーサイズのパンツと着丈の短いトップスを合わせるのは昔から好きで、20年前には上海灘のチャイナジャケットにナイキのルーズなスノボパンツ。12年前にはサンローランの着丈の短いライダースにアバクロンビー&フィッチの軍パン。アイテムこそ違うが、今回の組み合わせに似ている。つまり、着こなしの気分が一周して戻ってきたのだと思う。
黒いジャックパーセルを履くのは初めて。これまで白しか履いたことがなかったが、白よりも悪目立ちせず、全体に馴染みやすいのが特徴だ。底がブルーではなくて黒(ジャーニーの別注)になっているのがクールだ。
ゴージャスなジャケットにワイルドな軍パン。こんなふうに、相反する雰囲気をもった服を組み合わせるのは面白い。最初は不自然に感じたりもするが、しばらくすると、自分も周囲もそれがごく普通の個性だと認識するようになる。
まあ、別にそこまでして個性的になる必要などないし、それってスマートじゃないかもしれないけれど、でもやっぱりみんなそれぞれが工夫して心地よい格好をするのって大事じゃない? それを個性と呼ぶなら、僕は断然、個性肯定派だな。世界中に個性の花が開いたらどんなに楽しいかと思う。
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa