いわゆる“グレージュ”の長財布と名刺入れ、ゴールド&グリーンの懐中時計、イエローソックスと合わせるUチップ。春だから、春らしい色の小物を揃えた。トップスは15年ぶりの迷彩ジャケット。ポンコツ兵士の気分で桜の中を歩きたい。
キャシディ ホーム グロウンが2月22日に店を閉めた。僕はその少し前、店長の八木沢さんから「ちょっと建物が古くて…。ま、本店にいますんで…」と、聞かされていた。八木沢さんは、長身をかがめながらそう言った。
彼の店は、数少ない僕のフェイバリットショップだった。残念で仕方ない。原宿に行くと必ずといっていいほど寄っていた。中に3人も先客がいればギチギチになってしまう狭い店。でもその狭さこそが、八木沢さんとの有意義な時間を過ごすにふさわしい空間だった。
この店がオープンしたのは2010年。以来7年間、僕はそこでいろいろなブランドに出逢い、さまざまな服や小物を買った。ぱっと思い出すだけでも、僕の頭の中は素敵な品々でいっぱいになる。
バリー・ブリッケンのチノパンは、いつ行ってもネイビーとカーキが揃えられていた。キャシディ本店に行けばカラバリも豊富なのだが、ホーム グロウンは2色展開。八木沢さんの趣味である。白いジャックパーセルとトップサイダーが似合う店だった。エンジニアド ガーメンツのアイテムも、ほかの店なら素通りなのに、ホーム グロウンで見ると魅力的に見えた。まさに八木沢さんのつくり出した空間によるマジックだった。
超がつく狭小スペースにギチギチに詰め込まれた洋服や小物。それらはすべて八木沢さんのごく私的なセレクションによるもので、それぞれ、ほかのアイテムと並べられることで何倍にも輝きを増していた。つまり、セレクトショップかくあるべし、という空間だったのだ。
僕にとってもアイデアの引き出しのような店だったので、失うダメージは大きい。が、この先ずっと、僕の心の中には永遠に「キャシディ ホーム グロウン」は存在し続けると思う。そういえば、ファッションにはトンと興味のない息子も、ホーム グロウンで買ったカーペンターパンツは一年を通して愛用している。
で、閉店前に何か買いたいと思って衝動買いしたのが左のジャケット。マイケル・タピアのリメイクジャケットだ。ゆったりめの身幅と短い丈のバランスが新鮮。迷彩アイテムを買うのは実に15年ぶりだった。15年前に買ったのはアバクロンビー&フィッチのM-65。迷彩柄にもいろいろあるが、僕が好きなのは今回買ったような古典的なタイプの柄だ。これをスラックスやドレスシューズと合わせ、意外性に満ちた着こなしをしたいと思っている。
…と書いて、またホーム グロウンのことを思い出した。店内には、八木沢さんが描いたイラストや雑誌や本から切り抜いた写真で作られたショーボードが、服や小物の間に並べられていて、それがまたお洒落心をかき立てた。
例えば、プレップスクールの卒業写真のイラストの横に、僕がスタイリングしたページが並んでいる。それは、ただ一枚の写真を見るのとはまた違った世界観をつくり出していた。セレクトショップというのは、こんなふうに、オーナーやその店に立つスタッフの趣味嗜好が反映されているべきだと思う。
この1月には、25年ぶりにパリ、シャンゼリゼの〈J.M.ウエストン〉で「ゴルフ」を買った。「ゴルフ」は25年前と何ら変わっていなかった。実際に並べても違いがわからない。インソールのデザインが違っているくらいか。あんまり使いたくない言葉ではあるが、こういうのを「一生もの」と呼ぶのだと思う。最近マイブームとなっているイエローソックスに合わせたい。
イラストで手に持っているのは、三茶の古着屋で見つけた懐中時計(下の真ん中の写真がそれ)。グリーンとゴールドの色合わせとサイズに惹かれました。古着にはまったくといっていいほど興味がなかったが、最近、若い友人に連れられて行ってみると、なかなか悪くないな、と思えてきた52歳の春なのであった。
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa