2019.10.13
最終更新日:2024.03.07

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.32 金色|2016年11月号掲載

とりあえずの断酒から25日が経過。味覚と視覚が甦り、頭がクリアに。当然、ヘベレケ時間を恋しく思う。でも、大好きな10月を目前に控え、体調を整えることが何よりも大事。京都では墓前で断酒経過を報告した。

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「スケザネ、人に言われてやるのは作業! 自分から進んでやるのが仕事!」。先輩は、チェイサー代わりのビールを飲みながら、ご機嫌にそう叫んだ。



夕方の4時半からスタートした二人の宴は、まだ外が明るい6時半に絶好調に達していた。先輩と京都で飲むのは、僕にとって大切な時間だが、この日は断酒中のため、ひたすら聞き役になっていた。



先輩は朝の散歩の際に寄った寺に掲示してあった一句に感動したとのことで、それが冒頭の「人に言われてやるのは作業! 自分から進んでやるのが仕事!」である。この日はそれを10回以上聞かされ、翌朝になってもなお、僕の頭の中で鳴り響いていた。



京都が故郷だが、両親が他界して10年が過ぎ、里帰りの主な目的は一乗寺にある墓参りである。今回は1泊。大文字焼きの翌々日に帰った。今年の送り火は大雨だったらしい。大雨の送り火なんて見たことない。さぞドラマチックな展開になっていたのではないだろうか。京都には雨が似合う。雨に濡れた京都は、普段にも増して情緒がある。



京都駅に着くと、まずはタクシーで墓参りへ。そしてホテルへチェックイン。予約していた部屋の準備が遅れていたので、僕はバーへと向かった。昼間から一杯、といきたかったが、我慢してケーキセットを頼む。



飲まなくなって、この日で19日目。飲まないと甘いものを食べるようになった。会食ではデザートを確実に頼み、撮影現場に用意されたスイーツも必ずつまむ。ジャン=ポール・エヴァンのビターなチョコアイス、ラ・メゾン・デュ・ショコラのエクレア、和久傳のれんこん菓子「西湖」、桃林堂の水羊羹、HIGASHIYAの棗バターにカントリーマアム…。酒飲みのときとは打って変わって、脳は甘味へと誘われるのである。



断酒すると塩加減などの味覚も変わってくる。酒やワインに合う料理や素材の話は面白いが、酒を飲まないで食べる飯の研究も面白そうだ。



そういえば、ひと月前に突然ひどくなった老眼が、断酒をして10日が過ぎたら元の感じに戻った。でもいいことばかりではない。断酒で地獄なのは、酒の席なのに飲まないでいることだ。周りは飲んでいるのに自分は飲まないと、とにかく時間がもたない。飲んでいれば、夜はあっという間に過ぎ去るのだが、飲まないと夜は長すぎる。



先日はある店で食事と飲みが続き、6時間過ぎても誰も解散しようとしなかった。話を聞いていると、みんな同じ内容を繰り返している。話している当人たちはその状況に気がついていないのか、どうでもいいのか。自分が毎晩繰り返していた姿を別部屋からのぞいているような、まるで神様に反省の機会を与えられたような夜であった。



断酒をしたのは、体調不良が原因。51歳だから、身体にもあちこちガタがきている。陶器なら、ひび割れた部分には金継ぎだ。



最近僕は、金色の小物や金色が使われたアイテムを好んで身につけている。金継ぎライクな不思議なコーディネートに傾倒中なのだ。今月はミラノで購入したアディダスのスニーカー、三軒茶屋の古着屋さんで買ったフリーメイソンのカフリンクス、そしてエルメスの絵皿と、どれも金色がポイント。ただ今、僕は金継ぎならぬ金着で心身をリセット中なのである。



(左)ミラノのセレクトショップ「アントニア」で衝動買いしたアディダス350。何用かもわからずに履いています。(中)三軒茶屋の古着屋で購入。よくわからないけど、フリーメイソン関係のものらしい。双頭の鷲に惹かれました。(右)エルメスの小皿。銀座のショップを徘徊していたら、この馬の絵にドキューンと胸を撃ち抜かれた。ということで衝動買い。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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