2019.10.06
最終更新日:2024.03.07

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.26 グッチのセットアップとプリントT|2016年5月号掲載

久しぶりに米・西海岸に行ったら、無性にプリントTが着たくなった。でも一枚で着るには身体が…。まずはジャケットの中から始めて、真夏には一枚で着られることを祈り、ロックンロールダイエット、開始!

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.26 グの画像_1

以前、目利きのアートコレクターに、「新しいモノというのは、最初見たときにうっ!と拒絶感が湧き起こるもの」と聞かされた。納得。僕の場合、その対象は着る服や食べ物、時には人間。そして「うっ!」となる体験はときめきに似たものがある。



果たして目利きの発言と僕の理解が合致しているかは不明だが、真に新しいものには、慣れ親しんだ定番を相手にするときの安心感はない。その代わり、それまで体験したことのないワクワク感に満ちている。僕はいつも、そのワクワクを期待する。未知との遭遇こそすべてである。



僕もこれまでいろんな服を着てきたので、新しい服への抵抗感は普通の人よりは少ない。そのため「うっ!」となる体験は、年を重ねるとともに減っている。経験を積み重ねるのは大事なことだが、そのぶん、素敵な驚きは減っていき、マンネリ感が増大していく。その狭間に生きるのが人間の宿命だ。



それを回避するために、時には無理にでも少しの変化に喜びを感じようと努力するが、そんなことして頭でっかちになっても真の「うっ!」はやってこない。見たことのないもの、聞いたことのないもの、ドキドキする圧倒的な美しさを、僕は死ぬまで期待しているのだと思う。



さて、アレッサンドロ・ミケーレがクリエイティブ・ディレクターに就任してからの〈グッチ〉が、なにやら得体の知れない魅力を放っている。映画や写真集、はたまた薄汚れた古着店でしか見なかった’70sテイストの世界観を、モダンに見事に今に甦らせた。



最初見たときは、まさに「うっ!」であった。が、時間がたち、試着したり撮影したりしているうちに、どんどんその魅力に引き込まれていった。着てみると、最初の「うっ!」という拒絶感はなくなり、「なんだ、食わず嫌いだっただけか」と気づいた。



今回イラストになっているパイピングのセットアップは、そんな〈グッチ〉のコレクションの中でも、拒絶度が少なくて着やすい一着。が、着てみると納得できる着こなしには到達できず、あれこれと努力を重ねる日々である。この日も足元が曖昧なまま外出。サイドゴアブーツは無難にまとまるが、ベストではなかった。手ごわい服だが、そこが面白い。



10年以上遠ざかっていたプリントTシャツを着始めたのも、新生グッチの影響である。ロック、フォーク、ソウル、ヒップホップ、アイドル、バイカー、アート、漫画…。ジャンルを問わず、クールなプリントTを着たい。セットアップのジャケパン×プリントTな気分なのだ。



先日、サンローランのコレクションを見にLAへ1泊3日で出かけてきたが、そのときもセットアップのジャケパン×プリントTだった。到着早々、ウエストハリウッド周辺を散歩して写真を撮っていたのだが、レンズをのぞきながら、この街には流行のスカジャンが似合うと思った。と、その瞬間、30年前に初めて来たときも同じことを感じた!のを思い出した。



頭の中でタイムスリップしていると、どこまでも続いていた青空は夕日になり、街はオレンジ色に包まれていった。「おー、時間よ止まれ!」と、コロナを飲んでひと休み。ポルシェ911タルガでのドライブは今回かなわなかったが、近々、UOMOの撮影でまた訪れる予定なので、おばかなLAドライブをぜひ実現させたい。



(左)〈サンローラン〉のバンダナは、柄、サイズともに素晴らしい。プリントTシャツの首元に巻いて活用する予定。(中)〈ルブタン〉のスリッポンは乱暴に履くとビーズが取れそうなので、最初は素敵なパーティのときだけ。(右)グラムロックTです。ジャケットの中にいるのはヤングなイギー・ポップさん。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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