2019.09.29

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.21 トーマスマイヤーのダッフルコート|2015年12月号掲載

3泊5日のNY弾丸ロケから帰国。ひと月前は2泊4日だったから、それに比べれば1日余裕はあった。その小さな余裕が買い物心を誘い、「トーマスマイヤー」の2店舗を徹底的にチェックしたのであります。

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今年に入ってNYに来たのはこれで3度目。ついひと月前にも2泊4日で来ていたので、またイミグレで面倒な質問をされるかもと、憂鬱な気分でJFKに到着。「ネークスト!(次)」と、「ハヨコンカイ、ワレ」的ニュアンスで呼ばれた僕は、足早にカウンターへ。今回はラッキーなことに、髭&キッパの正統派ユダヤ教徒集団の後ろに並ぶことができたので、待ち時間が少なかった。



イミグレーションの係官にパスポートを渡し、しばし緊張タイム。こういうときはできるだけお利口さん顔をつくるように努力するが、下手な愛想は禁物である。へらへらせず、ゴルゴ13のごとく、きもち低めの声で明確に答えるのが大切だと思う。でもまあ、周りから見たら、単に「怪しい表情づくりをしている人」だったかもしれない。



係官はパスポートのページを何度もめくり返して見ているが、一向にスタンプを押す気配がない。「早く押して!押してください、押してよー! 押せ、押すんだこの野郎!」…と心の中で葛藤しながら、懸命にお利口さん顔(のつもり)でゴルゴを装う僕。



すると係官、「このパスポートはもうスタンプを押す場所がない。だいたい何でこんなにいろんなところへ行っているんだ? 仕事は何してんねん」といったニュアンスの質問をぶつけてきた。



「あ~、また面倒な」という気持ちを抑えながら満面の笑みで(こういうときはいいんじゃないかと思う)「ファッションエディター。時々カメラマンもやるし、記事を書いたりもするんです。だからね、メッチャ忙しんですよ。どこにでも行かないといけないんです」と、僕は腰の低い関西人イントネーションにゴルゴ調をかぶせたつもりで伝えた。



係官は、マッチョな左腕を一度伸ばし、「ふん!」というそぶりを見せて「今度来るときはページを増やしとけよ!」的なことを言い、スタンプがいちばん山盛りに押されているページにドカッと押した。かくしてようやくカウンターを通過。毎回、NY入りは緊張するのである。



そして僕らはJFKから今回のロケ場所であるブルックリンへ下見に。その後はホテルで果てしないモデルオーディション。翌日が本番だったので、その日は準備に没頭した。なんやかんやと丸2日間働き、最終日はややオフ気分で買い物!と思いきや、取材もしたのであった。行ったのは「トーマスマイヤー」の店。マンハッタンに2軒あり、まずはアップタウンの店へ行った。センスのいい設えが奏功し、置かれているジュエリーや洋服がさらに素敵に見える。トーマスさんの空間づくりはいつも素晴らしい。



気分が盛り上がり、自然な成り行きでダッフルコートを試着。残念ながらサイズが大きい、と思っていると、優秀なスタッフは、「そちらのコートですが、小さいサイズはダウンタウンの店に用意しております」。反応早! 僕が買う、って踏んでるんだね~。店を出た僕は、一目散にブリーカー・ストリートにあるもう1軒の店へ。こういうときの衝動を抑えないのが長生きの秘訣だと信じる僕は、無事にダッフルコートをゲット。



ホテルへ帰る車中、遠い昔を思い出した。10代の頃、最も信頼していたセレクトショップの店長に「自分、ダッフルコートは似合わへんな~。顔が若いから」と言われたのだ。今のこの姿を見たら、彼はなんと言うだろうか。



(左)〈トーマスマイヤー〉のダッフルコート。ほかに黒もあったはず。ピーコートもかわいかったが、トグルに惹かれてこれを選んだ。(中)〈スリーピージョーンズ〉のギンガムチェックのトランクス。いつもはボクサーブリーフをはいている。これはいつはくのだろう。(右)めったにはかないボーダーのソックスをなぜか買ってしまう。自分の心は、もしかしたらいちばん遠いところにあるのかもしれない。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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