最近、すごく気になっているのが、〈ロエベ〉を率いるJ.W.アンダーソン。彼はこの4月にもテキスタイル作家のジョン・アレンとともに来日。表参道の店で華やかな宴が開かれた。誰も今、彼から目を離せないのでは?
僕は服を買う際、「これ、本当に着るのだろうか」と思うことがある。そのアイテムが気に入って、お金を出して買おうと思ったにもかかわらず、である。実は「ほんとに着るかな~」との思いが頭をよぎらないことのほうが少ない。「よし、これを着まくろう!」などと思って買うことは実に稀である。
昔はよく、パリやミラノの展示会で見て気に入ったものを予約していたが、結局、その商品が上がってくる頃にはすっかり気分が変わってしまい、着ることもなくお蔵入りということが多かった。最近になってやっと、「展示会オーダー=危険」の法則が頭に刻み込まれ、それは極力避けるようになった。
そもそもランウェイに登場する服というのは、そのまま街で着るには相当エネルギーがいる。しかもショー会場では、選び抜かれたモデルが選び抜かれたルックを着て歩いているのだ。素晴らしい照明の下で。その“クール”がそのまま自分にも当てはまると思うのがよく考えればちゃんちゃらおかしい。おかしいのだが、最近まで僕は、ショーを観て舞い上がったまま、「これだ!」とオーダーを入れていた。
が、しかし…。半年後にその服が届き、いい気分で着込んで東京の街を歩いてみると、「な~んか違う」のである。まっすぐ歩けないほど大量の荷物を抱えて満員電車に乗ったり、時には嫌いな色のタクシーで移動したりする僕は、ランウェイのモデルとは似ても似つかない日常を送っているのだから仕方ない。まあ、だからといって、「じゃあ作業着でいいじゃん」とは思わないわけだけど。
しかしまあ、ミラノやパリのメンズコレクションを取り巻く状況は、この二十数年で大きく様変わりした。今、ショー会場やその周辺には、「コスプレか?」と思うような奇抜な格好をした人たちがたくさんいて、デザイナーが発表する服よりもむしろそっちのほうが目立っていたりすることも多い。
そういう、格好の被写体が大勢出てくれば、それをスナップするカメラマンが出現するのも当然の流れだ。今や、会場の内外は一種のステージなのである。スナップされるためにおしゃれをする、という人たちも多くて、それはそれで面白いし、ファッションをエンジョイしているな~と感心するが、僕自身は撮られるためにコーディネートを考えたことは一度もない。
さて、今回紹介するのは〈ロエベ〉のボマージャケットである。何度か撮影で使用しているうちに欲しくなった。レザーの光沢感とジップアップで着たときのシルエットがクールだったからだ。でも勇んで買いに行ったら、なんと商品化されていたのは光沢のないレザーのものだった。
気落ちしていたら、〈ロエベ〉のPR担当の方から「サンプルを譲りましょうか?」という甘い囁き。かくして、僕はこの貴重な光沢ボマーを手に入れました。ワンサイズ大きめだけど、つば広のポークパイハットとコバの張ったスリッポンを合わせれば、ナイスな感じで着こなせると思っている。さ~、バリバリ着るぞ!
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa