2019.09.01

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.9 VALENTINOのオートクチュールコート|2014年12月号掲載

人生初のオートクチュールを体験! 作ったのはヴァレンティノのコート。1月のパリコレでひと目惚れし、6月にはローマのアトリエで採寸。身分不相応なほど極上のコートが、ついに東京の僕の元へと届けられた。

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当然のことだが、ジャストサイズの服は着ていて気持ちがいい。だから僕は、仕事でモデルやアーティストに着せる場合でも、なるべくジャストサイズで着ていただけるよう最大限努力する。「誂えたように」という言葉があるが、サイズの合った服を着たときの気持ちよさは何にも勝る。



そのため僕は、私服はもちろん、仕事で使う服も頻繁に“お直し屋”に出している。時にはかなり大規模な直しを頼むこともあるが、ほとんどの場合はミリ単位の直し。ほんの少しのサイズ直しで見え方が大幅に違ってくる。なので直さないわけにはいかないのだ。



既製服というのは、どんな高級ブランドだろうが、自分にジャストサイズのものが店に揃っているわけではない。細かいことは気にせず、ロックな気分でオレ流に着こなす心意気もいいが、ジャストサイズをロックな精神で着るほうが数段アカ抜けていると僕は思う。特にジャケットとコートにはとことんこだわりたい。



そんな僕のハートに火をつけたのは、今年1月に見た「ヴァレンティノ」のパリ・メンズコレクションだった。冒頭に出てきた5体のコートを見て「オヨヨ」。一瞬にして頭の中が真空と化した。



パリで「ヴァレンティノ」のショーを見たのは、このときが2シーズン目だったが、ファーストシーズンが好感触だったので、2回目も大いに期待が高まり、いい感じの緊張感で臨んだ。物事には流れが重要。ファッションの世界も事情は同じで、変化の波はジワジワとやってくる。どんどん自分に迫ってくる波を、身をもって感じられる仕事に就けた、この幸運に感謝したい。



いかなるときも冷静であるべきだとは思うが、本物に出会ったときはむしろ興奮するべきだとすら思う。冒頭のクチュールラインに興奮した僕は、約半年後、ローマのアトリエでコートを誂えていた。「ヴァレンティノ」のアトリエでは、約100人の腕利きの職人が働いていた。日々、オートクチュールのドレスを中心に、顧客やプレスを満足させるための作業を繰り返す。



その現場は明るいムードに包まれていた。それぞれがプロフェッショナルであり、自分の腕に誇りをもっている。彼らの姿は見ていてすこぶる気持ちがよかった。アトリエでの貴重かつ至福の体験は一瞬にして終わり、それから何カ月かが過ぎ、ついにコートは僕の元へ届いた。重厚な箱からコートを取り出すと、コート自体は箱よりもずっと軽くてびっくり。洋服でこんな体験はしたことがない。



さて、そんなスペシャルなこのコート、どんなふうに着たら格好いいのだろうか。まずはコレクションを参考に、ジーンズを合わせようと思う。この1年半は、意図的にジーンズをはかないことにしていた。理由は、一度ジーンズをはいてしまうと何にでもジーンズを合わせてしまうから。



が、それも「ヴァレンティノ」のオートクチュールコートの出現で解禁。ジャストサイズのコートとは正反対に、オーバーレングスのジーンズを合わせてみた。切ったばかりの髪を、わざと手櫛で乱すように、美しいオートクチュールのコートをオーバーレングスのジーンズで着崩したかったのだ。つまり照れ隠し。



今回のコート作りは、これまでのどんなオーダーよりも、自由と遊びに満ちていた。実に幸福な体験だったことは言うまでもない。



(左)プラダのパンツは紫色が気に入って購入。スニーカーと合わせて、レイトセブンティーズなノリではく予定。 (中)ヴァレンティノは迷った結果、紺ラインのものを。アディダスのマイクロペーサーはずっと欲しかった一足。 (右)ロエベのフィッシャーマンズパンツ。豪快にロールアップして、折り返し部分の汚れも気にせず、ガンガンはいてガンガン洗う。新鮮なパンツ。
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Text:Tomoki Sukezane 
Illustration:Sara Guindon Photos:Hisashi Ogawa

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