2021.08.05

祐真朋樹の密かな買い物 Vol.87 J.M. ウエストンのゴルフ|2021年8.9月合併号

最近、「大谷翔平情報のチェック」が日課に。暗いニュースが続く中、唯一の心躍るネタだ。そんな中、アルベール・エルバスが亡くなった。死因は新型コロナウイルスだという。あらためてクロゼットからランバンの服を出した。そして、これに合うのは〈ゴルフ〉だと思った。日本では入手困難だった頃から恋焦がれた靴。死ぬまで愛し続けるであろう名作だ。

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僕がJ.M. ウエストンの存在を知ったのは、この業界に入った1986年のことだった。そして’89年、初めてパリへ行ったときに購入したのが、今回紹介する〈ゴルフ〉である。以来、2019年までの30年間に、パリへは100回近く行ったわけだが、コロナ以降は日本から一歩も外に出られていない。昨年は、なんと34年ぶりに日本を出国できなかった。こんなときが来るとは…と嘆いたが、約1年間のステイホームライフは、自分を見つめ直すいいきっかけになったのは確かだと思う。

 あらためて靴のクロゼットを確認したら、この30年でJ.M. ウエストンのゴルフを3足買っていた。冒頭で話した’89年、そしてその翌年に再びパリで2足目、3足目は2010年前後に購入。初めて購入した’89年当時は、日本では正式には売られていなかった。一部、セレクトショップで買えるものもあったが、ごくわずかだった。なので、パリへ行くなら買ってきてくれないかと頼む先輩もいた。そんな時代だったので、初めてパリの店に入るときは緊張した。外からのぞいた店内では、試し履きしている客と店員が何やらやりとりをしていた。店の設えから湧き出る大人のムードと相まって圧倒された。結局、買ったときのことはよく覚ええていない。事前に東京で、先輩諸氏から「絶対に小さめを勧められるから、ワンサイズ大きめを買いたいと言い張れ」とアドバイスを受けていたが、見事に店のフィッターの言いなりに…。キチキチサイズのゴルフをありがたく買ったものである。その記念すべき1足目は、本気でゴルフにも使い、早々につぶしてしまった。当時合わせていたのはマルセル・ラサンスのシャツとパンツであった。

 今回撮影したのは、’90年に買った黒と、2010年頃に買った3足目。3足目で初めて、自分の希望するサイズが買えた。2足目と3足目のサイズを比べると、ワンサイズ違う。今は青山の店舗でもECでも購入可能だから、変な緊張をしなくても買える。いい時代になったとも言えるが、店の威厳にビビりまくったあの頃が懐かしい。何か特別な壁を乗り越えなくてはいけない緊張感が、おしゃれを深いものにしてくれていたように思える。何でも簡単に手に入ると、真贋の境界がぼやけてくる。高価で手に入りにくいものが本物で、安価で大量生産、大量消費なものが偽物と決めつけるのも短絡的すぎると僕は思う。判別基準が値札次第となると、本質を追求する姿勢は滑稽になりがちだ。僕は本物と偽物が判別できる目をもっていたいと思う。

 30年履き続けてきたゴルフは、僕にとって“本物”である。途中、ボウエンやパラブーツ、ロイドフットウェアなどの同型の靴も履いてきたが、結局J.M. ウエストンのゴルフへ回帰した。そしてこの春、満を持して青山店でゴルフのハイトップを購入。珍しく約1年考えた。3足を並べると、サイズの違いもあるが、時代とともにデザインに微妙な変化があることに気づく。それらを見比べつつ、大谷翔平の活躍を聞きつつ家で一杯やる。今では東京で、希望どおりのサイズが買える状況に感謝しきりである。

 今回のイラストでは、故アルベール・エルバスが、ランバンで発表したファーストメンズコレクションのセットアップを着てみた。永遠のマイ定番であるJ.M. ウエストンのゴルフとしっくりくると思っている。




(左)1990年にパリで購入。シューツリーに使われているロゴが懐かしい。インソールにも同じロゴが使われていたが、数年前にソールを交換したときにインソールも今のタイプに変わっていた。(中)青山店で購入。ハイトップは履くのにひと手間かかるが、そういった面倒を楽しめる面倒な人になりたい。(右)2010年頃にパリで購入。この頃になると頑固そうなスタッフもおらず、サイズもあれこれと試せるように。
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Text:Tomoki Sukezane
Illustration:Sara Guindon
Photos:Hisashi Ogawa

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