新型コロナウイルスの影響で全仏オープンは延期、ウィンブルドンは中止となったテニスのグランドスラム(=四大大会)が帰ってきた! 8月31日にニューヨークで開幕、文字通り熱い戦いが繰り広げられる全米オープンテニスだが、昨今再びトレンドとして脚光を浴びている「テニスファッション」にも注目してみると、さらに観戦の楽しみが広がるはずだ。
“なんとか”開催される7ヶ月ぶりのグランドスラム
いよいよ2020年の全米オープンテニスが8月31日に開幕する。いや、今年に限って言えばいよいよではなく“なんとか”のほうがしっくりくるのかもしれない。新型コロナウィルスの猛威によって全仏オープンが10月に延期、ウィンブルドンにいたっては75年ぶりに中止となったわけだから、こうして全米オープンが従来通りのスケジュールで開催されるだけでもファンとしては実にありがたい。
とはいえ今年は無観客開催ということもあって、世界最大規模を誇るセンターコート「アーサー・アッシュ・スタジアム」といえどあの熱気や華やかなムードを100%作り出すのは難しいだろうし、何より各自万全の感染対策を求められながらの出場となる選手、サポートする関係者の方々の苦労を思うと複雑な思いに駆られる部分もあるにはあるけれど、それでも全豪オープン以来グランドスラム(4大大会)開催は7ヶ月ぶりとなるわけだから楽しむしかない。例年と同じ、いやそれ以上に選手たちのプレーをしっかり目に焼き付ける。それがテニスファン、スポーツファンとしての嗜みだと考えたい。
クリーンで知的なテニスファッションが、今っぽい!
実のところUOMOではここ数年テニスファッションにあらためて注目をしている。理由はいたってシンプル。テニスは昔からとりわけファッションとの結びつきが強く、それでいてテニスというスポーツそのものの出自や伝統、格式などに裏打ちされた品性が現代のスタイルにもきちんと受け継がれているから、「アディダス」の「スタンスミス」しかり、「ラコステ」のポロシャツしかり、テニスにまつわるウェアやシューズを普段着として身につけてもただのラフなスポーツカジュアルにはなりにくいのが魅力。力が抜けているけどクリーンで知的。そんな今っぽい大人のスポーツミックススタイルを体現するにはテニスファッションのテイストを取り入れるのが手っ取り早いというわけだ。
例えばウィンブルドン。試合用のユニフォームのみならず練習中に着るウェアまで上下真っ白が義務付けられていることは熱心なテニスファンでなくとも知るところ。世界最古のテニス大会の伝統を重んじる潔くてシンプルなスタイルには、とくに大人が大人らしく白をクリーンに着こなすヒントが詰まっているように思う。
対して全米オープンはウィンブルドンで見られる由緒あるテニスルックとはいい意味で真逆。もちろん全仏や全豪も選手のウェアに色などの規制はないが、とりわけ全米に関してはスポーツエンタテインメントの本場ニューヨークという土地柄も加味されるからか、勝手なイメージだが各選手の契約ブランドも全米オープンに照準を合わせて華やかでモダンなデザインのウェアを投入してくることが多いように感じる。
そんなわけで、ここからは全米オープンの歴史を振り返りつつ、過去の名選手や現代のスター選手のテニスルックをあらためて見ていくとしよう。まずは70年代から80年代にかけてテニスシーンを牽引した活躍した3人のレジェンドだ。
テニス界永遠のファッションアイコン、ビヨン・ボルグ
ビヨン・ボルグはグランドスラムで通算11勝を記録したスウェーデンの英雄。トレードマークのブロンドの長髪にヘアバンド姿で「フィラ」のウェアをエレガントに着こなしながらコートでアグレッシブに躍動する姿は、今見ても全く色褪せない、どこか時代を超越したスタイリッシュさがある。この佇まいでクレーコートの全仏で無類の強さを誇っていた点もカッコイイ。オフコートでもスーツ、カジュアル、リゾートルックと、全てにおいて自身の装いに抜かりがなかったと言われるボルグ。彼こそ、まさにテニスシーンにおける永遠のファッションアイコンだ。
実はそんなボルグが唯一優勝できなかったグランドスラムがこの全米オープン。4度決勝に進みながらすべて準優勝に終わっているのだが、彼を二度ずつ、決勝で敗っているのが2人のアメリカ人選手、ジョン・マッケンローとジミー・コナーズだ。
カレッジスポーツテイストが今見てもおしゃれなマッケンローとコナーズ
マッケンロー(右)は4回、コナーズ(左)は5回、全米オープンを制覇。ともにテニス=優雅というイメージを根底から覆すようなパワフルなテニスとやんちゃぶりで絶大な人気を博し、まさに「フラッシング・メドウズ」の申し子と表現するにふさわしいスーパースターとなった。逆に2人とも全仏では勝てなかった点もボルグとはある意味対照的なキャリアを歩んだ。写真はマッケンローもコナーズも若手だった70年代。ファッション好きの人ならピンとくるかもしれないが、どちらも当時のアメリカらしいカレッジスポーツテイストの流れを汲むスタイルが印象的だ。ラインソックスやシューズのデザイン、ウェアの配色などは今の時代に置き換えても十分“レトロスポーツミックス”的着こなしの参考になる。
次に、ボルグ、マッケンロー、コナーズ以降だと、イワン・レンドルやステファン・エドバーグといったレジェンドもすばらしかったが、ファッションも含めて“時代を作った”選手となるとやはり90年代を席巻した2人、アンドレ・アガシとピート・サンプラスだろう。
UOMOを読んでいただいている“40歳男子”はまさに彼らにジャストで憧れた世代。となれば今さら彼らの選手としての凄さをチクチクと説明する必要はないだろう。全米オープン優勝はアガシが2回、サンプラスは5回。ともにアメリカ人である2人はグランドスラムでの直接対決も多く、全米オープン決勝では3度対戦し、サンプラスが全て勝利している。陽気なアガシと生真面目なサンプラス。そんな対照的なキャラクターも相まって2人のライバル関係は10年以上に渡ってテニス界の中心だった。
テニスファッションとストリートを繋いだ90年代のアガシとサンプラス
94年のアガシ(上)と96年のサンプラス(下)。ともに全米オープン出場時の写真だ。お気づきの通り2人とも「ナイキ」のウェアである。そう、80年代後半の「エア・ジョーダン」登場を皮切りに、 90年代はテニスに限らず多くのスポーツシーンでナイキが世界的規模の大躍進を遂げた10年と言える。サッカーへの本格参入もこの時代だ。そしてアガシとサンプラスは、彼らがマンハッタンの路上で突如“ストリートテニス”を始めるというスパイク・ジョーンズ監督のCMが絶大なインパクトを残すなどテニスにおけるナイキの広告塔の役割も果たした。何より、彼らがコート上で着こなしたナイキのウェアの数々はどれも“街で普通に着たい”と思わせるものだった。まさに2人はテニスファッションとストリートを繋ぐ原点となり、また同時にストリートファッションの中心地ニューヨークで開催される全米オープンの主役であり続けた。
次からは、現役選手たちのスタイルを昨年の全米オープンの写真で一気に見ていこう。
現役選手たちのスタイルを昨年の全米オープンからプレイバック!
シックな黒が新鮮だった、フェデラー
まずは“トップ3”から。近年は「ユニクロ」のウェアもすっかり板についた“生きる伝説”ロジャー・フェデラーだが、昨年の全米オープンでは、この黒に白のトリムがきいたウェアで登場。コート上のスタイルでこれまで黒はほとんど見られず、白やブルーといった爽やかなウェアのイメージが強かった彼だけに、そのシックなコーディネートが新しい“大人のフェデラー”像を見せてくれたようで斬新だった。
何を着ても“ナダルらしい”に落とし込んでしまう
昨年の全米オープンチャンピオンであるラファエル・ナダル。彼のナイキのウェアも黒がメインだった。ウェアのロゴやトレードマークのヘアバンドとリストバンドでパープルを差したスタイルからは実に洗練された印象を受けた。まあ何を着ても“ナダルらしい”というイメージに落とし込んでしまう彼のパーソナリティにはやはり頭が下がる。今回の全米オープンで彼の最新テニスルックを見られないのは非常に残念だが、そこは来夏に期待したい。
ジョコビッチ=ラコステもすっかり定着
今大会出場を表明している現世界ランク1位のノバク・ジョコビッチ。近年はラコステのウェアが本当に様になっている。ユニクロやナイキのように毎回デザインやカラーに新しさはないけれど、誰もが知るクラシックなワニのマークのウェアを端正なサイジングで着こなすジョコビッチのシンプルスタイルはとても好感が持てる。ジョコビッチが着るようになってからリバイバル的にラコステのポロシャツをまた着始めた大人は実は結構多いと思う。果たしてこの全米オープンにはどんなスタイルで登場するのか。注目したい。
コントラストの効いた赤×黒が似合うモンフィス
続いてガエル・モンフィスはウェア、シューズともに「アシックス」。赤と黒のシンプルながらもコントラストのきいたコーディネートが、彼の手足の長さや躍動感あふれるプレースタイルをより引き立てていて実にスタイリッシュだった。
我らが錦織圭は、マルチカラーのユニクロにナイキのシューズ
そして錦織圭。ユニクロの大胆なマルチカラーのウェアにナイキのシューズというモダンなスタイルが、全米オープン特有のブルーのハードコートにとてもユニークに映えた。もし出場が叶えば、いろんな観点から特別な大会になるであろう今年の全米オープンに彼がどのようなウェアをチョイスして登場するのか実に興味深い。
過去から昨年の大会まで、歴史ある全米オープンのコート上で披露されてきた名選手たちのスタイルを写真とともに振り返ってきたが、今大会ではどの選手の、どんなスタイルが我々のテニスファッション熱をさらに高めてくれるのだろうか。フェデラー、ナダルらがいない分、自分だけの新たな注目株を探すのも面白い。またここでは男子に限って言及してきたものの、当然ながら全米オープンは女子のテニスファッションもかなり注目なので家族やパートナーと一緒に観戦するのもきっと楽しい。
もちろん最高峰のテニスプレーヤーたちによる最高純度のプレー、そして会場の規模やオーディエンスが作り出すムードも含めたスポーツイベントとしてのクオリティの高さこそ全米オープンテニス最大の魅力だ。しかしそこに大人だからこそのファッション的な視点も取り入れてみると、より観戦の幅が広がるのもまた事実。開催期間は日本時間で8月31日から9月14日まで。久しぶりに寝不足必至の2週間になりそうだ。
日程:8月31日(月)〜9月14日(月)
会場:アメリカ・ニューヨーク州ニューヨーク USTAビリー・ジーン・キング ナショナル・テニス・センター
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Composition & Text:Kai Tokuhara