グラフペーパーの2020年秋冬コレクションの販売がスタート。テーマはドイツ工業デザイン界の巨匠、「ディーター・ラムス」だ。ユニークな試みとして、店内にはグラフペーパーの新作商品とラムスが手掛けた工業製品が共存し、ともに販売されている。立ち上がりのタイミングに内装を一新した青山店で、クリエイティブディレクターの南貴之氏に今秋冬への想いを聞いた。
ラムスが社員ディレクターとしてデザイン部門のトップに就いていた会社は独ブラウン社(Braun A.G. / 1961~1995年)。量産されたプロダクツは、世界中にコレクターが存在するほどの機能美に満ち溢れている。
その「ディーター・ラムス」をそのまま今秋冬のテーマに据えたブランドが、クリエイティブディレクターの南貴之氏が手掛ける「Graphpaper(グラフペーパー)」だ。
南貴之:「ディスプレイされたヴィンテージのラムス製品も購入できます。代表作の“白雪姫の棺”(注:マニア垂涎の名機SK61。真空管アンプとラジオとスピーカー内臓のレコードプレーヤー)も適正価格ですよ。1961年製のメイド・イン・ジャーマニーです」
酷暑が続く日々ではあるが、すでにファッションの世界では秋冬シーズンが店頭に並ぶタイミング。その立ち上がり当日、今秋冬への想いを南氏本人に聞いた。
―――テーマを「ディーター・ラムス」に決めた背景は?
南:「僕自身が1960年代から80年代のラムスが手掛けたプロダクトを集めていたコレクターで、2年ほど前からラムスをテーマに洋服を作りたいと思っていました。その過程で、当時の実物も並べたくなりまして、ドイツへの買い付けを含め2年余りが必要でした」
―――インスピレーション源の実物を展示するブランドは多いですが、購入もできるとは驚きです。
南:「単なるテーマを越えたかった。『グラフペーパー』をキッカケにディーター・ラムスを知っていただいても、先にラムスに興味があって来店してくれても、もちろん両方なくてもかまいません。コレクターさんも歓迎です」
南:「僕個人のスタンスですかね。そもそもが1960年代から80年代にかけてブラウン社で機械的に量産された、高額ではあってもありふれた家庭電化製品なわけです。その機能美、デザインの強さが時を超えて訴えかけてくる。できればその感動を多くの人と共有したい」
―――ラムス製品の収集に費やした時間は?
南:「昨年の暮れに、フランクフルトから2週間、クルマで4,000キロを走りっぱなしで買い付けしました。最短のホテル滞在時間は1時間30分(笑)。ガイドもおらず、ツテを頼ってヴィンテージを探しまくる日々でした。一般の収集家の場合は、購入後は自分で梱包作業をしなくてはならず、それも大変でしたね」
ちなみに、NYとLAを結ぶと約4,000キロ。“機能主義”に魅了された者のマインドは、収集家の域を越え、国や時代を超え、職種も越えた。南氏の無骨なまでの情熱は、時代が求めるミニマルデザインの雄と称される「グラフペーパー」のバックボーンに秘められているのだ。
―――では、実際に今秋冬の洋服に落とし込まれた“ディーター・ラムス”を見せてください。
南:「秋冬シーズンですぐに着られそうな商品が、完全別注ファブリックで仕立てた『THOMAS MASON(トーマス メイソン)』のシャツです。ラムスプロダクトの象徴的カラーパレットを反映させた、ライトグレー、チャコール、オレンジの3色は、どの色も捨て難い・・・」
南:「彼自身のパーソナリティよりもプロダクトが持つ視覚的な特色を服に反映させました。このシャツは各色5段階くらいの微妙な色出しを工場さんにお願いして、さらに3度ほどダメ出しして辿り着いた自信作です」
この絶妙な色彩は「グラフペーパー」、南貴之にしか出せない。そして、他メディアのインタビューでも幾度か聞き覚えのあるフレーズが耳に飛び込んできた。
南:「洋服は、生地作りで8割は完成だと思っています」
こちらは9/26に発売される「MIZUNO(ミズノ)」とのコラボシューズ。もとの意匠をそぎ落とし、色だけでなく文字フォントまでラムス製品に近づけたことがわかる。
南:「ラムスが理念を継いだとされる Bauhaus(バウハウス)との繋がりを知ると、もっと今秋冬への興味が沸くと思います。スタッフと一緒にじっくり眺めて、とことん会話して、買い物を楽しんで欲しいですね」
故・ジョブズ愛用スニーカーへのシンパシーをどうしても話題に出したくなる、ノーブルなコラボシューズだ。
スウェット素材の最高峰、吊り編機で生産される「LOOPWHEELER(ループウィラー)」とのコラボフーディにも、特徴的な3色のカラーパレットが充てられた。
タグには顧客の声を反映させたモデルチェンジが。
南:「衿裏に“Less, but better”と書いてあるタグがありますよね。もう1つ定番ラインもあるので、コレクションラインは今秋冬からわかりやすくシーズンとテーマを明記しました。少しは選びやすくなったかな(笑)」
南:「お客様にとってはいつもの秋冬立ち上がりでよいので気負わずに。個人的には、コロナ禍での初めての立ち上がりですし、海外出張もできなくなるご時勢なので、ここまでクリエイションに費やせた日々は貴重でした。まずはカタチになってホッとしているところです」
ラストショットは、ディター・ラムスが自身のデザインチームに提唱した「グッドデザインの10箇条」の隣で。
1.革新的
2.実用的
3.美しい
4.わかりやすい
5.主張しない
6.誠実である
7.長持ちする
8.細部まで完璧
9.環境にやさしい
10.最小限である
南:「おこがましいかもですが、『グラフペーパー』はラムスが掲げた“Less, but better”の哲学にも通ずる部分があると思います。より少ないデザインで、より良い質を突き詰める、その努力を怠ることはありません」
2015年の立ち上げ当初から一貫している「グラフペーパー」のコンセプトは、“着る人の個性を邪魔しないスタンダード”。今の40歳男子に寄り添う洋服は、最新の2020年秋冬においても頑なに“グッドデザイン”だった。
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テーマ:“Dieter Rams” / 発売日:2020年8月15日(土)
問い合わせ先:グラフペーパー TEL:03-6418-9402
www.graphpaper-tokyo.com
※価格は全て税別です。
Interview & Text:Takafumi Hojoh