2022.09.07
最終更新日:2024.03.08

ジョージア・オキーフに恋をした。南貴之が語る今秋冬の「グラフペーパー」

米国モダニズム絵画の先駆者であるジョージア・オキーフの家に着想を得た「グラフペーパー」2022年秋冬が始動。クリエイティブディレクターの南貴之に、異国情緒あふれるテラコッタカラーが印象的な今秋冬への想いを聞いた。

ジョージア・オキーフに恋をした。南貴之がの画像_1
ジョージア・オキーフに恋をした。南貴之がの画像_2
タクシーの運転手は驚いたに違いない。

2022年秋冬シーズンが立ち上がった「Graphpaper(グラフペーパー)」のインタビュー当日、クリエイティブディレクターを務める南貴之がタクシーで手持ちして来た白い物体は、鯨の背骨だったのだから。もちろん青山店のインテリアとして飾るのだ。



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いつものグレーではなく赤茶色のポプリンシャツ姿で現れた南は、掃除が行き届いた店内をぐるりと見やり、ドローンほどの大きさがある骨を傍に静かに着席。まだ配置場所は決めかねているようだ。

南貴之:「なんともいえない形でしょう。今秋冬のテーマを定めてから自分の興味をさらに掘り下げたモノと言えば、動物の骨。あとは石の収集」


開口一番がこれ。依然として洋服の話は出てこないが、写真集は出てきた。



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10年以上前に発行された「Georgia O’Keeffe and Her Houses」は手垢の付いていない新品同様のカバーだ。中面には重しの跡もちらほら。些細な点だが、趣味雑貨に触れる南の姿勢がよくわかる。

:「テーマの取っ掛かりになったジョージア・オキーフが過ごした家はアメリカのニューメキシコ州の北外れにあります。ゴーストランチとアビキューの2つあって、私が惹かれた家はアビキューのほう。コロナ禍が落ち着いたら真っ先に訪れてみたい場所です」


画家の作品やパーソナリティではなく、「家」そのもの。このアプローチが南らしい。







改めて記すと、今秋冬の「グラフペーパー」のテーマは、20世紀のアメリカ現代美術を代表する画家「ジョージア・オキーフの家」。サンタフェ郊外の砂漠地帯に並ぶ建造物に特徴的な日干し煉瓦の色、テラコッタが、今秋冬を象徴するカラーパレットだ。


著名写真家の伴侶とともに誰もが羨む名声をニューヨークで手に入れていたジョージア・オキーフ(Georgia O’Keeffe/1887年~1986年)が、60歳を手前にニューメキシコの荒野にあるゴーストランチ(Ghost Ranch)に家を購入して単独移住するというアートな事件。2年後には近隣の緑豊かなアビキュー(Abiquiu)の地に18世紀に建てられた建造物を住居として改装し、完全に活動拠点を移すに至る。



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南:「それまでも素焼きや工芸品で馴染みがありましたが、オキーフで言うところの藁や草を混ぜた日干し煉瓦の色を初めて洋服に取り入れてみました。テーマは気分的なものです。それなりに今の時代への想いや生活様式が気分に反映されていると思います」

テラコッタを2022年秋冬のトレンドカラーと明言すると疑問符が付き、秋らしい新色を提案するとマーケティングの結果に聞こえてしまう。それら批評家の予定調和な分析から離れて、ジョージア・オキーフが62歳から亡くなるまでの30余年を過ごした終の住処(すみか)へと、南のイマジネーションは旅をしていた。



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今秋冬の新色はテラコッタカラーの「BRICK」だけではない。件の鯨の背骨は、オフホワイトにもベージュにも似ていない「BONE」としてドレスシャツに抽出されていた。そして、南の興味の矛先とジョージア・オキーフとの共通点もまた、骨だったのだ。

:「彼女の作品には動物の頭骨モチーフが多くあり、ゴーストランチとアビキューの自宅玄関や室内にも頭骨の実物が飾られています」


オキーフにとっての野生動物の亡骸や骨は、魔除けや死生観などのスピリチュアルな観念ではなく、逆に瑞々しい生の裏返しであると評されている。油彩画では「deer’s skull with pedernal」(鹿の頭骨とペデナル山/1936年)が有名。南は続ける。



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南:「孤高の存在ですが、骨好き同志のシンパシー程度ならば許されるかなと。あと、昔の建築家や芸術家は日常的に小石を拾う人が多く、彼女が石の収集家だと知ったときも『やっぱり?』と思いました」

これはファンゆえの謙遜だろう。


ニヒルな笑みを浮かべつつ、腰に手を当てつつ、やおら巨大なショーケースを引き出す。イベント時や土日は店頭接客もするという南だが、実のところ販売員としても優秀。「グラフペーパー」が見たくなる。







Viscose Check Oversized Band Collar Shirt
Color:CHECK
Size:F
¥35,200



大人男子にお勧めの今秋冬の「グラフペーパー」を南が3点厳選。秋色のチェックシャツはネル素材かと思いきや、コレクションカラーをベースに8色に染め分けたというドレスライクなビスコースだった。


:「仕上げに起毛を施して毛羽を出すことで、ビスコース特有の光沢感を抑えてあります。ふんわりとしたネルシャツっぽく見える理由がそれです」


時流に乗った身幅85cmのビッグサイズであることは間違いないが、単に大きいだけでなくディテールやボリューム感を検証して独自のバランスを追求している。毎シーズン、ミリ単位でパターンを変えていることは顧客にとっては周知の事実だ。


:「深夜に『脇をあと2㎜詰めてください』とパタンナーに電話したり、ハードなやりとりの末に今回のデザインに落ち着きました。ぜひ、袖を通して今秋冬の絶妙な袖周りを体感して欲しい」



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Wool Cupro Over Cargo Pants Color:BLACK, D.GREEN, BEIGE Size:1, 2 ¥41,800


お次は美麗ドレープが魅力のカーゴパンツ。ウールをメインに、ジャケットの裏地に使用されるキュプラを織り合わせたモードなデザインだ。


:「私の提案素材を聞いて、青天の霹靂と言いますか、工場さんもびっくり。そこから先はもう共犯みたいな関係ですから、製品化に向けた打ち合わせも俄然面白くなっていきます。一応、相手のリアクションを楽しんでいる自分の性格にも気付いていますけども」


パンツ細部のデザインソースは米軍指揮官用の制服だった「41 カーキ」と一般的な「M65」であり、服好きの男子目線はしっかりとキープ。クリエイティブディレクターとしてのバランス感覚が伺える。







Compact Terry Roll Up Sleeve Half Zip
Color:L.GREEN, BRICK, BONE
Size:F
¥26,400



南が着用しているシャツと同じテラコッタカラーも今秋冬は取り入れてみたい。コットン100%のハーフジップスウェットは、ハイゲージに編み立てたフラットな表情の裏毛で製作。起毛素材のスウェットではないので夏の終わりからすぐに着用できる。



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南:「オキーフがニューメキシコに移住して創作活動に没頭し始めた1946年は、近代写真の父と呼ばれる夫のアルフレッド・スティーグリッツが亡くなった年でもあります。創作活動の一環とはいえ、荒れ果てたゴーストランチに62歳から移住するバイタリティにも素直に憧れましたね。自分もそうありたい」

1960年代のアメリカでは、女性解放運動の旗手としてフェミニズム信奉者からオキーフに接触する動きもあったというが、画家としての自己のみを認めていた彼女は当然のごとく興味なし。南もそれ界隈の話には興味なし。熱量はものづくりのみに注がれる。


ふと、南が視線を落とした先にある黒の小瓶に注目。これは今秋冬の新しい施策だ。







こぢんまりと並んだルームフレグランスは、金沢ブランドの「HARPER(ハーパー)」。


南との3週間におよぶアメリカ大陸買い付けツアーに同行するほどに懇意のディレクター、宇佐見透が手掛けるフレグランスブランドだ。金沢市に尾張町でインテリアショップ「Cazahana」を経営する宇佐見は、「石の収集」でも南と趣味を共有している。


調香のアプローチもユニークで、実在する建築家やデザイナーなどの人物像を香りで表現する方法。たとえば「RAY」は、20世紀工業デザインのレジェンドであるレイ・イームズがモチーフ。サンタモニカの海を臨むLAの生家での暮らしをイメージしたという。



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HARPER [GEORGIA for Graphpaper] 30ml ¥4,290


青山店に置かれたラインナップの中で、こげ茶色のラベルが「ハーパー」と「グラフペーパー」とのコラボルームフレグランス。名称は「GEORGIA」だ。


花弁をクローズアップしたオキーフ初期作品の油彩画「BLACK IRIS」(黒いアイリス/1926年)が調香のインスピレーション源。主成分はグレープフルーツ・スミレの葉・クラリセージ(ハーブ)・ベチバ―(イネ科)・タイム(シソ科)・エタノールなど。


「フックのある香り」と公式サイトにある。



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ひと吹きしたエキゾチックな芳香は、「グラフペーパー」の世界線を越え、表参道を超え、存在しない記憶として、訪れたことのないニューメキシコのサンタフェ地区に広がる日干し煉瓦を想起させた。

:「もし、私がアーリーリタイアして移住するなら高知県を選びます。先日も出張で滞在したのですが居心地がよくて。食べ物も美味しいですし、電話とリモートだけで全部ディレクションできそう」






そして、高知にも良い石はありそう。


:「ウィメンズフロアに飾ってある石は一軍の控え。自宅では気に入った石を『ジョージ・ピーターソン』のボウルに入れて眺めています」


ライフワークである路傍の石拾いは、間違いなく目利きの所業であり、審美眼を鍛えるトレーニングだ。モダニズム画家と石との接点を知り、宇佐見透を知り、ウィメンズでようやく邂逅した小石の群れには背景がある。南が手にしてから青山店に置かれるまでのストーリーを知ると、また違った印象を持つのだ。


ちなみに南貴之と宇佐見透の「石拾い」部は随時部員を募集中。正式な部員に昇格するためには、2人を納得させる強い石が必要らしい。



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最後に意地悪な質問を投げてみた。

「私は自分の作品を人には見せたくないのです。私の言っていることは矛盾しています。人々が理解しないことを恐れ、そして彼らが理解しないことを望み、そして彼らが理解することを恐れるのです」(ジョージア・オキーフ/1915年)


当時は教鞭を執りながら絵を学ぶ学費を稼いでいたジョージア・オキーフ。スティーグリッツが目を付けた作品がNYの前衛画廊「ギャラリー291」で展示され、彼女の運命とともに、アメリカ現代美術の歴史が変わり始める数年前の言葉だ。この名言に、クリエイティブディレクターの南貴之は同意するのか?


:「それについてはウェルカムです。今後はコートやダウンジャケットも入荷します。ぜひ、2022年秋冬の『グラフペーパー』を見に来てください」




Graphpaper 2022 Autumn&Winter
テーマ:Georgia O’Keeffe
Graphpaper

Photos:Hiroaki Horiguchi
Interview & Text:Takafumi Hojoh

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