2020年のローンチから瞬く間にファンを集めたバッグブランド、モノリス。その新店「モノリス アオヤマ」に彫刻家の増井岳人さんが訪れ、プロダクトを吟味。モノリス ディレクターを務め、ファッション業界を牽引する人でもある中室太輔さんと、デザインや設計の目利きである増井さん、二人の細か過ぎるバッグ談義が繰り広げられた末… 増井さんが本当に欲しくなったバッグとは?
増井岳人さん、気付く。
増井:到着するなりなんですが…このお店はもしかしてスタンリー・キューブリックの映画に登場する”モノリス”と関係がありますか? 世代的にもブランド名やロゴから想像してしまうし、実際に店舗を見ると、空間設計が物体の比率に基づいて構成されているように見受けられます。什器の配置や床にも絶対比率があるような。
中室:体感で気付きました!? さすが、増井さん。その映画に出てくる「モノリス」の各辺の比「1:4:9」を使用したロゴデザインで、そのアートディレクターは数学者のような理論派でした。この店舗自体に1:4:9を散りばめていますし、丸の内店の柱の什器でも1:4:9の立体を重ねたものを使用しています。
増井:それにこのディスプレイ、プロダクトとしての鞄の設計がよく分かりますね。一般的なバッグ店は壁面に商品が並んでフロントだけが見えていますが、ここは立体がボン、ボン、ボンと連続していて、よく見える。
中室:まさに。モノリスのバッグは一見、どれも似ています。それはデザインとして完成されているからであり、知っていただきたい違いはスペックの部分が大きい。[OFFICE][STANDARD][PRO]と3つのスペックに分けられますが、ずらりと横に陳列すると全く同じものが並んだように見えるのでセオリー通り壁面に並べるのは避けたかったんです。
増井:新鮮で面白いです。
中室:空間設計のイメージソースを探していたところで、SMALLCLONEのインテリアデザイナーの佐々木一也さんが、野菜を育てる研究所の写真を見せてくださって。照明の量や天井の素材を調整しながらラボのような空間にしたのもこだわりです。
似て非なるバックパックに興味津々。
増井:子供っぽいかと思いながらも学生の頃から今までイーストパックをリピートしていました。あれは置いても背負ってもヘタった形になるので、モノリスの独立して立ち上がる設計が新鮮です。
中室 :実はイーストパックのようにへたってくれる、オーセンティックなバックパックをベースにしたモデルもあるんです。全く違う2型を比べてみましょうか。全7型あるうちの[BACKPACK STANDARD SOLID] と[BACKPACK PRO] が分かりやすいです。
中室:増井さんのように昔から使っているパックパックがあると、そこから逸脱したくない方もいますよね。僕自身も70-80年代にバックパックというものが完成したと思っていて、あのシルエットが好きなんです。[BACKPACK STANDARD SOLID](左)は、イーストパック同様、底から側面までが一枚地で出来ていて、くたっと下に垂れてくれますよ。販売スタッフからは自立しにくいので陳列が難しいと苦情が出ていますが(笑)。ちなみにパターンが簡略されているから”ソリッド”という名前を付けたんです。
増井 :なるほど。しかも横に広いシルエットにはファッション感もあります。逆に[BACKPACK PRO] (右)は、底とサイドでパネルを分けているから直立するんですね。
中室:まさに設計に使ったパネルの数が違いますね。
増井 :僕は意外と、この潰れずに浮き上がるフォルムも好きです。しかもサイドにスマホを入れられ機能として理に適っている。
中室 :そうですね。置いた時にも背負ってる最中にも、この形状を保って欲しい方に[BACKPACK PRO] は理想的。仕事でPCを使いたい方にも一番人気です。
中室 :出張も想定しているので、重量があっても移動しやすいようにショルダーはハイスペック。モノリスを生産しているメーカー、セイバンからは天使の羽というランドセルが出ていますが、この中に入っている樹脂パーツはそれを踏襲。ショルダーの立ち上がりによって体の近くに重心がくるので、体感する重量は低減されます。
中室 :背面のポケットはPCケースになっていて、フロントの裏には中に何が入っているか一目で分かるメッシュ素材のポケット付きです。ここに、ポケットが付いているバックパックはほとんど無いですよ。
増井 :確かに見ないですね。
中室 :一般的なバックパックではデッドスペースになっていたので、解消したかったんです。そして内側にはマチ付きのポケットがあり、バッグの中を仕分けるようなイメージで使えます。書類を入れられるゾーンと、中が見えないゾーンに分かれています。例えば出張先の打ち合わせで書類を出す時、着替えの衣類などが見えるのはよろしくない。これなら安心です。
増井 :笑ってしまうほど、工夫が満載です。フロントの外ポケットは、かなり大きいですね。すぐ取り出したい小物や長財布など、大体そこに入りそう。
中室 :すみません。機能、まだ有るんです(笑)。サイドの外側ポケットはスマートフォンを入れながら常に充電できる仕様。またサイドの内側には縦長のポケットを配置しています。モノリスは外にペットボトルや傘だったりを差すのを推奨していないので、その置き場所として用意しました。
増井:僕はPCを持ち歩かないですし、機能を使い切れるかも分かりません。だとしても、これだけ機能が備わっている事実に、惹かれています。傘やペットボトルのポケットを実際に使うことは少ないとしても「何かあったら入れられる」というだけで気持ちがいい。追求し尽くしたこだわりを聞いてしまったので、そのプロダクトの完成度の高さという点で、しみじみ欲しくなります(笑)。
中室:有難うございます。正直ここまでのスペックが必要かは自問自答しましたが…スペックが高いほどワクワクしますよね!? iPhone選ぶ時と同じで、そこまで容量いるのか、みたいな(笑)。自分のパフォーマンスの可能性を広げることを重視しました。
増井:物理的に必要か必要じゃないかと言い始めたら、全てのモノが絶対に必要とは言い切れませんよね。でも有った方が嬉しいなら、僕にとって必要なモノということにしています(笑)。
中室:分かります! モノリスに添えた挑戦的なコピーも「このバックは必要か」なんです。
新しくリリースしたトートバックもチェック
中室:これはいわゆる”ビーン・トート”をベースにしたもの。先ほどのバックパックのイーストパックの話と同様、使い慣れたオーセンティックな形に、機能を足したい人にオススメです。
増井 :なるほど。かなり大きくて安心感のあるサイズですね。
増井:こちらはボックス型でマチがたっぷり有りますね。
中室:[TOTE PRO L]は新型です。旅行や出張でボストンバッグのように持てるトートとして作りました。自立するし、キャスター付きのスーツケースとドッキングで使えます。実際にはジムやゴルフに通われている方々や、育児中で荷物の多いパパ・ママにも好評です。
増井:トートバックには適当にパパッとモノを入れたいタイプなので、このざっくり使える感じが嬉しいです。手持ちだけじゃなく、ショルダーでも使える絶妙なハンドルの長さですね。
中室:以前は肩が通らない長さだったんですが、8cmだけ長く改良しました。これ以上長くすると手持ちした時に床に擦っちゃうので。
出張や旅行に便利な蓋付き。ザクザク入れたい日には蓋を中に落として、ポケットとして使える。PCをスムーズに通り出せるポケットや、ワンタッチで開けられるマグネットポケット、スマートフォンへのクイックアクセス機能などモバイル機器との親和性も抜群。¥49,500/モノリス(モノリス アオヤマ)
中室:そちらは新型の[TOTE OFFICE M]。ジャケットやスーツ姿に横長のトートバッグはカジュアル過ぎるので、スマートに作ったもの。マチが付いていて収納力が高く、外側に独立したパソコンのポケットがあるのも特徴です。
増井 :なるほど。ビジネスマンの普段使いに良さそうです。でも、個人的には先ほどの[TOTE PRO L] の方が好きかな。大は小を兼ねる、と思っちゃうタイプなので(笑)。
スマートな縦長シルエットに対して、予想以上の収納力が嬉しい。日常使いしやすいサイズと、オン・オフ問わず馴染むミニマムなデザインも特徴。背面にはPCを直接出し入れできるケース代わりのポケットを備え、内側にはメッシュポケット付き。ワンタッチで開けられるマグネットポケット、スマートフォンへのクイックアクセス機能も備える。¥41,800/モノリス(モノリス アオヤマ)
新発想のポーチを発見
増井:このポーチにも何か機能があるんですか?
中室:よくぞ聞いてくれました。出先で物が増えることってありますし、旅先でパンパンになると困るじゃないですか。これは裏返しにして生地を引き出すと…サイズが大きくなる仕様。
中室:ちなみにモノリスは、裏地に自信アリです。ポーチもそうですが、バッグは裏返しにした状態でディスプレイして構造や縫製を見ていただくこともあるんです。
増井:裏側の作りの美しさ…モノづくりとしてもちろん凄いのですが、こうして見せつけるためにやったのかと疑うレベルです(笑)
中室:見越しておりました。すみません。(笑)
結局、増井さんのイチオシは?
増井:バックパックのもとに戻って来てしまいました。立体的なシルエットが崩れない[BACKPACK PLO]、やっぱりいいな…。
中室:なるほど、くたっと派からカッチリに目覚められました!?
増井:ちなみに気になる耐久性の方はいかがです? こんなに良いバッグといえど、4万ほどで購入するとなると長く使いたいですし。贅沢を言えば10年以上は頑張ってほしい。
中室:まさにモノリスは「一生これでいい」と思っていただくことを目指しています。そこで改良したのが素材。どんな高級バッグブランドでもポリウレタンコーティングされているものは、加水分解によって中から剥離して劣化してしまう。アウトドアの防水素材にもありがちですよね。そこを解消したのがポリカーボネイトコーティングというもの。技術者によると、ポリウレタンコーティングに比べて10数年以上の耐久性があるとか。さらにお直しのサービスも行っています。
増井 :なるほど…コレに決めました。もはや、モノは入れなくても良いです。この立体感あるバックパックをオブジェのように背負って歩きます。
中室 :有難うございます。末長く、ご愛顧いただけますと幸いです(笑)。
[BACKPACK STANDARD]のどんなスタイルにも合うベーシックなスタイルをベースに各機能性を拡張させたモデル。背面に配置したPC用ポケット、マグネットポケット、スマートフォンへのクイックアクセスなどを備える。店頭で手に取り、全ての機能を確認したいところ。¥42,900/モノリス(モノリス アオヤマ)
MONOLITH AOYAMA
7月2日 オープン
東京都港区南青山5-16-3
営業時間:12:00~20:00
定休日:火曜日
Photos:Erina Takahashi
Text:Takako Nagai