先駆的なアンティークディーラーであるイヴ・ガストゥが、旅をしながら収集した貴重なメンズリングコレクション。その日本初のエキシビションが、ヴァン クリーフ&アーペルが支援しているジュエリーと芸術の学校「レコール」の主催で実現。約400点の多彩なリングを前に、ジュエリーに一家言ある文化系男子たちはどんなものに惚れ、何を思ったのか?
素朴な佇まいと、死者を弔うリングのストーリーに心惹かれます
増井岳人さん(彫刻家)
高校生の頃はスカルリングが高価で買えず、ワックスで型をとって自分で作っていました。その青春時代の思い出のためかけっしてレプリカを作り得ない一点ものに惹かれます。《英国の追悼の指輪》というカメオリングは石自体の表情を生かしたスカルが唯一無二。精巧な作り込みより、イメージ優先の素朴で絵画的な佇まいに魅力を感じました。
19世紀
《英国の哀悼の指輪》は
透かし細工を
施したゴールド製。
結婚指輪に次ぐリングとして強い意味をもつものに興味が湧きます
松坂生麻さん(ファッションデザイナー)
普段身につけているジュエリーは結婚指輪だけで、宝飾品の意味は重いと感じています。直感的に惹かれた《司祭の指輪》はそのストーリーにもぐっときた。豪奢な《司教の指輪》とは違うシンプルな十字架のみのデザインで、本質的な信仰への回帰が表現されているそう。単なる装飾ではない深い意味のあるデザインに感動しました。
《司祭の指輪》
は装飾を
そぎ落とした
粗削りな十字架が特徴。
ポップなのにアノニマスな佇まい。高価なのか安価なのかも曖昧で面白い
オクトシヒロさん(スタイリスト)
アメカジの流行でつけていたカレッジリング以来、20年ぶりにリングが気になっています。40歳を超えたからこそ照れることなくジュエリーを楽しめる。今は控えめなエルメスがお気に入りですが、今日の気づきはキッチュなリングの面白さ。アニメ調のグラフィックと星入りの肉厚なシャンク…つけこなしてみたいですね。
「幅広いコレクション」の章より。
アーティストの
ワイルドキャットによる
キッチュな図案。
素材自体の美しさに気づかせてくれるこれまで見たことのないリング
中野健吾(UOMO編集部)
ジュエリーはデザインよりも素材で選んだり見る意識が強く、いつもはシルバーやプラチナのシンプルなものを身につけています。これは複雑な石座にピュアな丸いガラスが収められているギャップに目が留まりました。ガラスの素材は昔から大好きですが、ここまで大きなものは現行品では見ないので、つけたい衝動に駆られます。
「ゴシック」の章より。
大きなガラスが
埋め込まれたリング。
観る人それぞれの好奇心を 刺激する、美しい宝飾芸術
東京・乃木坂で3月13日まで開催中のメンズ リングのエキシビション。一堂に会した約400点もの圧倒的コレクションは、ファッションとしての装飾品にとどまらず、時代や土地、文化を物語りながら、大人の物欲、ではなくアート欲を刺激してくる。
パリに続く海外初の展示開催地として「東京」での展示が実現した理由・背景をヴァン クリーフ&アーペル日本法人社長アルバン・ベロワーさんに聞いた。「アンティーク・ディーラーの先駆者であるイヴ・ガストゥは、日本に魅了され、極東のこの国で素晴らしいメンズリングのコレクションを披露することを夢見ていました。残念ながら彼は2020年にこの世を去りました。その作品に敬意を表し、彼の夢を実現するため、ジュエリーと宝飾芸術の学校『レコール』、そして息子であるヴィクトール・ガストゥは、東京のデザイン専門の展示会場であり独特の建築で知られる21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3にてエキシビションを開催することにしました。日本人デザイナー、米山庸二のリングも展示されています」。
また本展示の見所については「このエキシビションの章のひとつに、さまざまなデザイン、スタイル、インスピレーションを紹介している『幅広いコレクション』と名付けられたセクションがありますが、これはまさにこのコレクション全体の内容をよく表していると思います。古代エジプトにインスピレーションを受けたリングから、17世紀のヴェネツィア共和国のドージェ(元首)がはめていたリング、1970年代アメリカのバイカーリングまで、社会、宗教、政治が指輪デザインの進化に与えた影響を、歴史的な観点から見ることができます。来場いただいた方はイヴ・ガストゥ になりきってトレジャーハンターとして、蚤の市やオークション、旅を通して30年かけて彼が築いたコレクションに出会うこともできます」
展示は「歴史」「ゴシック」「キリスト教神秘主義」「ヴァニタス」「幅広いコレクション」の5つの章で構成。それぞれのテーマを頼りに、リング一点一点のストーリーを想像するのも楽しみの一つだ。工芸品に造詣の深い彫刻家の増井さんに尋ねると「こんなにも多様な造形の指輪を目にしたのは初めて。指輪一つで空間を演出できる彫刻のような作品もあります。身につけるかどうか以前に、一つのアートとして面白い」とクリエイターならではの視点で興味津々の様子。デザイナーの松坂さんは「展示された指輪のグループごとに時代背景を学べます。その指輪に込められた意味はさておき、まずは目で純粋に楽しみたい」とゆっくり堪能。象徴的ないくつかのリングは音声ガイドによる解説も得られる。一方スタイリストのオクさんは「自然と自分がつけるなら…という目線で鑑賞しました。予期せぬジュエリーとの出会いはスタイリングの想像力に広がりを与えてくれます」。さらに編集部の中野は「ブティックと異なり、この展示では価格やブランド名はなしに、『買う』という緊張感なく一つのリングと対峙できる」と、おのおの自由にメンズリングの世界に浸っていた。見ておかないと後悔するエキシビションだ。
絶賛開催中!
「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」
エキシビション
主催:ヴァン クリーフ&アーペル支援によるレコール ジュエリーと宝飾芸術の学校
会期:開催中~3月13日(日)*会期中無休
開館時間:11時~18時(状況により変更の可能性あり)
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3 (東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内)
入場無料/予約不要
Text:Takako Nagai