グラフペーパーの2021年秋冬がスタート。テーマに掲げた「MODERNISM」は建築家のマルセル・ブロイヤーに捧げたものだ。内装を一新したグラフペーパー青山店で、クリエイティブディレクターの南貴之に今秋冬への想いを聞いた。
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アスファルトから匂い立つ芳香を覚えつつ「グラフペーパー青山店」に足を踏みれると、和風だった春夏と内装が一変。ワシリーチェアが置かれたエントランスの白壁には、“MODERNISM”の文字が刻まれていた。
洋服好き大人男子待望の、「Graphpaper(グラフペーパー)」2021年秋冬シーズンの始まりだ。
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南貴之:入口にあるデスクランプは“モダニズム建築の父”と称されるマルセル・ブロイヤーの名作です。店舗のプロデュースを手掛けるようになってから、建築やインテリア関連の収集癖も激しくなりました。
聞くと、1925年に開催されたパリ近代工業装飾芸術国際展の出品物。約一世紀前の工業デザインだ。
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去年の今頃、2020年秋冬のテーマは旧東ドイツの工業デザインの巨匠「ディーター・ラムス」、半年後の2021年春夏は環境デザインやインテリアまで幅広く活躍した彫刻家の「イサム・ノグチ」、そして今秋冬はブロイヤーに代表される「MODERNISM」を掲げた。
南:顧客にも言われます。工業デザインや建築様式とリンクしたテーマの連続性に「グラフペーパー」の個性が見えると。自分のブランドなので当然ですが。
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南:自分でも不思議でして。同じモノがポンポンと、同じ団地がドッカンドッカン、10代の頃から興味が惹かれて仕方がないんです。工業デザインから建築に広がり、量産の意味ではアパレルも含まれて今に至ります。
ふと、8月頭に催された「南貴之の頭のなか展」が思い出された。流行りは追わず、確実にコアだ。
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大人男子にお勧めの逸品を初日のラインナップからリコメンドしてもらった、その筆頭がこちら。
南貴之の現在形は、秋冬最新作であるコーデュロイジャケットに顕著だ。図録の表紙を彷彿とさせるコンクリートのようなグレーが目に飛び込んでくる。
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南:ブロイヤー建築で印象的なコンクリートグレーの美しさを素直に届かせたい。あえて崇高なモダニズムをテーマに決めたので、それに恥じないよう、今秋冬らしいグレーの色出しには吟味を重ねました。
他色にブラックとベージュも量産されている。が、「グラフペーパー」においてブランドカラー的な存在感を放つ「グレー」への思い入れは別格なのだろう。
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南:ここだっけ。いや、違いました。ここのストアデザインを手掛けたのは誰なんでしょう…。
もちろん、ディレクターの南である。“都内で最も辿り着きにくい店”として定着した「グラフペーパー青山店」の楽しみの1つが、この可動式ラックだ。塗り替えられたブルーとレッドはマルセル・ブロイヤーのモダニズム建築から抽出したカラーパレットになる。
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フェイクではなくリアル。今秋冬で12シーズン目を迎える「グラフペーパー」で、久しぶりに使用した素材はゴートスエード(山羊革)だった。
南:9月には初めてシープレザーを使った商品も登場予定です。本革にもフェイクにもサステナブルにもこだわりはありません。理由は、ワシリーチェアの座面が本革だったから。もしフェイクレザーだったなら、フェイクレザーのシェフパンツを作っていましたね。
イージーなフリーサイズ仕立てのシェフパンツ。レザーパンツの固定概念を軽々と超えていく。
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夏の終わりからすぐに取り入れられそうな商品が、新デザインとして好評のスタンドカラーシャツだ。ハイネックの印象でフォーマルっぽさも醸し出せる。
驚くべきは、素材はコットンではなく、ウール100%であること。“スーパー140”の極細トロピカルウールを贅沢に使用した幅広ドロップショルダーのアイコンフォルムには、南が言うところの“大衆的”な旬が詰まっている。着心地は試着で実感してもらいたい。
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そして、前春夏に始動したフレグランスにも新作が登場。香りの名称も今秋冬のテーマである「MODERNISM」だが、いったいどんな香りなのか。
南:調香のイメージは、雨で濡れたアスファルトから漂ってくる硬質的な香り。梅雨時期の“草いきれ”ってありますよね。あのアスファルト版です。
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微細なグレーの色出し、空想した景色を舞台とした調香、そして店舗プロデュースなど、イメージ通りに歯車が噛み合わさったときの気持ちを聞いてみた。
南:表向きは冷静でいたい。でも、「ちょっと、見て、これ!」と声を上げてしまいますね。とにかく誰かに届かせたい。コロナ禍での生産体制も2シーズン目に入り、工場さんとのリモートスタイルやフォローアップにも慣れてきました。クリエイションに集中できる環境は、周りのスタッフのお陰かもしれません。
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マルセル・ブロイヤーが手掛けた世界初のスチールパイプ使用椅子に座り、バウハウスで学び後に教官になった“モダニズム建築の父”に想いを馳せる。秋には趣味が高じたギャラリーもオープンするという。
南:ここはお気に入りのスポット。うっかり1年後の来秋冬のテーマを決めていないことにも気付いてしまいました。モチベーションの源を自力で掘り起こすような毎日です。でも、苦しくはないかな。
モダニズムを象徴する96年モノのデスクランプの光は、まさに秋冬シーズンの立ち上がりを知らせる狼煙のよう。南貴之の敏腕を柔らかに照らしていた。
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Graphpaper
Interview & Text:Takafumi Hojoh