年初にSNSを全削除したボッテガ・ヴェネタが独自のデジタルジャーナル「ISSUE」を創刊。発信は年4回を予定。クリエイティブ・ディレクターのダニエル・リーが新たに仕掛けるデジタル戦略は、“文化系男子”必見のアートなコンテンツだ。
SNSを全削除した荒業は、なんと、ブランド独自のデジタルジャーナル創刊への布石だった!
今年の1月初頭、ラグジュアリーブランドの「BOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ)」が保有するインスタグラムやツイッターなど、ソーシャルメディアのアカウントが一斉に削除。数十万人のフォロワーに衝撃が走った。
もちろん事故ではなく、これはブランドのクリエイティブ・ディレクターを務めるダニエル・リー(Daniel Lee)が新たに仕掛けるデジタル戦略の一環だったのだ。
一斉にすべてのSNSが削除された経緯から、この行為は高い視座に基づいた極めて意図的なものであることは明らかであり、次なる動向が注目されていた。
そして、突然のSNS撤退から約3ヵ月が経った3月31日、「ボッテガ・ヴェネタ」が新たにデジタルジャーナルの「ISSUE」を創刊。全世界に向けて配信した。
創刊号のタイトルは、数字を振っただけの「ISSUE 01」。テーマには2021年春夏を象徴する「Summer Madness」を置いている。発行(配信)はコレクションの店頭発売に合わせ年4回を予定しているとのこと。
「ISSUE 01」はパソコンでもスマホでも閲覧可能。
大々的にデジタルカバーに掲げられた「LOSE YOUR HEAD NOT YOUR MIND」を意訳すると、「夢中になれ。個性を失うな」と言ったところか。
プラットフォームの巨大化により、炎上や誹謗中傷などネガティブな要素を孕む場所となったソーシャルメディアを鑑みてのマニフェストのようだ。
多岐にわたるコンテンツは、昨年10月にロンドンでフィジカル発表したランウェイコレクション「SALON 01」のインスピレーション源とリンクしたもの。
ミュージシャンのミッシー・エリオット(Missy Elliott)が1999年にリリースしたヒット曲『Hot Boyz』のMVをはじめ、アフリカ系アメリカ人で初めて米国版「VOGUE」の表紙を撮影したフォトグラファーであるタイラー・ミッチェル(Tyler Mitchell)が手掛けたエディブル(食べられる)スカルプチャーの紹介など、パンチが効いている。
ファッション分野では、「ボッテガ・ヴェネタ」のメンズを着たパルクールチームのビデオグラフィーや、ジョナサン・ブランティーニ(Jonathan Frantini)撮影によるポートレートが秀逸。リビングレジェンドのバーバラ・フラニッキ(Barbara Hulanicki)作画スケッチにも注目だ。
インスタグラムを削除はしたが、なぜか、日本の街角を切り取った“映える”ジャポニズムも合間に掲載。このスタンスこそ、ダニエル・リーの感性なのだろう。
なお、デジタルジャーナル「ISSUE」のローンチに際し、「ボッテガ・ヴェネタ」は現代におけるソーシャルメディアについて、下記のような見解を示している。
「私たちにとってソーシャルメディアは、誰もが同じ情報を見るという意味で、カルチャーの均質化を表すものです。そのため、個性を育まず、またクリエイティブプロセスに対する弊害ともなり得ます。『ISSUE』は、デジタルカルチャーにおける『ボッテガ・ヴェネタ』の価値観を体系化して表現する方法であり、ペースの速いデジタルワールドに一石を投じること、消費文化に対してよりゆったりとしたペースを推進することを願っています」
SNSプラットフォーム側が用意する枠や制限に囚われず、音声・写真・映像コンテンツの制作に縦横無尽に注力できる意欲媒体は、感覚に訴え掛けてくる面白味がある。これぞ、“文化系男子”がチェックすべき媒体だろう。
ソーシャルメディアから自ら退き、独自のユートピアをオンラインに築いた「ボッテガ・ヴェネタ」のデジタルジャーナル戦略は、果たして吉と出るか!?
確実に言えることは、数多のブランドにとって認知度拡大とブランディングの主戦場であるソーシャルメディアを捨て去る勇気と余裕は、「ボッテガ・ヴェネタ」にしか出来ない“クリエイション”なのだ。
「ボッテガ・ヴェネタ」のダニエル・リーをもっと知りたい!
創刊:2021年3月31日(ISSUE 01) / 媒体:デジタル / 発行(発信):年4回
https://www.issuedbybottega.com/