下着界を牽引する老舗「グンゼ」と新鋭「バライル&ガーメンツ」、二人の識者が本気でパンツ史についてトークセッション。目からウロコの近代パンツの歴史がここに!
いつの時代も男たちの股間のわがままを満たしてきたパンツの世界はやはり奥深かった!
――意外と知らないことが多いパンツの歴史を違った視点をお持ちのお二人にひもといてもらおうと思います。
武安 日本におけるパンツ史のスタートは、ふんどしですね。ただふんどしは布帛と呼ばれるシャツのような生地でできていて伸縮性は皆無でした。同じコットンでも編み方を変えることで伸縮性をもたせられないかと考案されたのが、表編みと裏編みを交互に編むフライス編みという製法です。横方向への伸縮性に優れたこのフライス編みの生地を使って広く作られるようになったのが猿股です。この猿股はブリーフが登場する’50年代初めまで覇権を握っていて、現在も愛用しているご年配の方もいます。
ナカソネ 明治時代の半ば、和洋両装が一般化して下着も洋装を参考にするようになり、西洋のパンツと日本古来の股引きが結びついて猿股になったといわれています。別名「西洋パンツ」と呼ばれていました。
――時系列的に、このフライス編みを使って猿股から進化したのがブリーフですか?
武安 使っている生地は確かにフライス編みだったのですが、違います。ブリーフはアメリカ発祥。1935年、クーパーズ社が発売した「ジョッキー」という下着が始まりとされています。それまで日本男子にとって下着はただ下半身を守るものだったかもしれません。しかし、モノクロ映画の中で輝くファッショナブルなパンツを目にして、パンツにもスタイリッシュさを求め、ブリーフへの関心が急激に高まったのではないでしょうか。
ナカソネ ’85年から30年前の’55年にタイムスリップする映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、主人公マーティの若い頃の母親が下着のウエストゴムに書いてあるカルバン・クラインの文字を見て、マーティの名前をカルバンと勘違いするシーンがあります。当時はパンツに名前を書くことが主流だったので(笑)。マーティの下着はブリーフとボクサーの中間のような丈感とデザインで、’85年にはボクサーに似たタイプが登場していたことがわかりますが、実際のボクサーが誕生するのはもう少し後。いきなり新しい型が生まれたのではなく、ニーズやトレンドに合わせて少しずつ形状を改良して、ベストなデザインになっていったんだなって。
武安 ’80年代になると若者を中心に白ブリーフはダサイという認識が広がります。
ナカソネ ’81年に起きた深川通り魔殺人事件も白ブリーフのイメージ低下の大きな理由の一つだと思います。大人になってから犯人が逮捕されたときの写真を見ましたが、とてもショックでした。あの写真をきっかけに白ブリーフ人気が一気に下火になった印象です。
――ファッションと同じように下着にもトレンドの周期はありますか?
武安 ある程度デザインの幅が限られているので大きな移り変わりはありませんが、技術革新や大きなムーブメントの変化は15〜20年周期で起きているように感じます。’80年代後半には下火となったブリーフに代わってトランクスの人気が再燃していきます。
ナカソネ トランクスはフライス編みに比べて伸縮性が乏しい布帛ですが、柄やグラフィックを表現するにはもってこい。まずはサーファーに支持され、’90年代にはヒップホップ人気から腰ばき見せパンが街でも流行ってましたね。弊社でも定番商品としてトランクスを展開しているのですが、最近の大学生ぐらいの世代はそもそもトランクスをはいた経験のない男の子も多くてびっくりしました。
武安 世代的な格差もあるかもしれませんね。2020年にグンゼが調査した結果では、ボクサー38%、トランクス22%、ブリーフ18%となっています。15年前の’06年はトランクスが45%、ボクサーが20%で、トランクスのほうが多かったのです。2000年代に入り、綿中心だった下着の素材がナイロンやポリエステルなどを使った合成繊維中心に急速なスピードで移り変わっています。
――糸が変われば時代が変わるって言葉もあります。合成繊維のメリットはなんですか?
武安 ポリエステルであれば速乾性、ポリウレタンであればストレッチ性と、同じ合成繊維でも種類によって効果が異なります。その特性を生かしてより快適でカッコいい下着を作るのが最近の命題ですね。
ナカソネ ここ最近はボクサーが若年層の人気を独占している状態ですが、少しずつ個性を求めている人が増えている気がします。自分なりに好きな素材感や丈があったりして。他人からは見えない贅沢だからこそ、いかに自分が満足できる下着であるかということが、今の時代の下着選びのポイントなのでは。
戦前
まだふんどしが現役の男性用下着の夜明け前
猿股
今でもコアファンがいるメンズ下着の始祖的存在
とにかく物資が乏しかった頃、皮膚呼吸をサポートしながら清潔さを保ってくれる下着として簡易な作りながら愛されていた。
1935年にアメリカで誕生したブリーフが日本にやってきた!
伸縮性を求める声に応えるべく徐々に縫製工場の設立が始まった
生地の編み方で伸縮性を出したメリヤスと呼ばれる下着生地の縫製工場。
1953年
アメリカ映画を通じて日本でもブリーフ熱が!
ブリーフ
ブリーフが日本に本格上陸! 以降、30年近く覇権を握る
アメリカンカルチャーの流入とともにフィット感のあるブリーフに若者が飛びつきブレイク。’80年代初頭まで人気が続く
機械化が進んでパンツの量産体制が整う!
高度成長期以降、下着界のパイオニアであるグンゼで本格的な機械化が進む。
1985年
深川通り魔殺人事件の影響でブリーフ人気が下火に…
ファッションが徐々に多様化。色柄豊富なトランクスが再注目されるように。
トランクス
色や柄で若者たちの支持をガッチリ獲得。トランクス黄金期へ!
上述の事件をきっかけにトランクス人気が急上昇し、ファッションアイテムの一つになる。スヌーピーなど人気キャラの柄モノがスマッシュヒットを記録。
1995年
カルバン・クラインのロゴ入りボクサーブリーフが“見せパン”で大ブレイク!
同時期に流行っていたストリートファッションと好相性で大人気
ボクサーブリーフ
ブリーフとトランクスのイイとこどり! いざ、長期政権へ!
ブリーフのフィット感とトランクスの遊び心を一体にしたボクサーが誕生。ウエストゴムにブランドロゴはこの頃からのお約束。
人気女優がメンズのボディワイルドをはくCMが話題に。ボクサーブリーフが全国区に!
’90年代の腰パンブームにも対応!各ブランドがウエストゴムに大きくブランドロゴを入れるように
’90年代後半にファストファッションブランドも参入。アンダーウェア市場が活気づく!
2007年
’07年から吸水速乾など機能素材が一大ムーブメントに!
男たちのわがままは加速!機能素材合戦が始まる
パンツの未来はどうなるの?
アンダーウェアに関するおすすめ記事はコレ!
Photos:Yuichi Sugita[POLYVALENT](Still)
Satoshi Omura(Person)
Stylist:Yuta Fukazawa
Text:Kohji Ogata Takeshi Koh