価値があるものへの投資は厭わないが、ないものにはたとえ千円でも払いたくない。課金へのハードルが高く、お金を使う前にとことんモノを精査するスタイリストとエディターが語り合う、本当にいいものの話。
E ところでひも靴が欲しくなることはないですか?
S 新しいひも靴の名品を探すというより、手持ちのスニーカーのひもだけチェンジすることはあります。スニーカーをおろしたとき、妙に真っ白なひもが浮いて見えることがありませんか? それに履き込んでも、ひもはただ汚いだけで「味」にはなってないというか。その点浅草製のシューレース11は厚みのあるコットン素材で靴と同時に経年変化する。使用後の馴染み方が素敵です。
E 僕もひもを目立たせたくないので、これはいいアイデア。
11.浅草製のコットンシューレース
E ちなみに最近の変化の話をもう一つしたいのですが、レジ袋問題、どうしてます?
S 宮崎のアウリコというセレクトショップが作っているエコバッグ12がかわいいです。従来のレジ袋の無機質なデザインを、そのままコットンリネンの優しい素材に置き換えているのがいい。
E これ、3サイズあるのにどれも同じ価格?
S そうなんです。生地量ではなく、使う人の用途に合わせて最善なサイズに課金してほしいという意図が伝わってきます。そしてサステナブルといえばプラダの水筒13、欲しくなりました。
E 青山店で「Re-Nylon」(詳しくはこちらを参照)のインスタレーションをしていて、服の横にランチボックスや水筒が一緒に置かれていました。プラダの現代のライフスタイルへのアプローチを強く感じたんです。この水筒一つでブランドのフィロソフィに課金できるのだと思えば、全然、高くない。
S 所有していること自体の気持ちのよさも込みで、値段以上の価値があるという。
12.AULICOのコットンリネントートバッグ
13.PRADAのウォーターボトル
E ここまで時代の変化に伴うニューノーマルな名品を語ってきましたが、やっぱりアウトドアアイテムのリサーチも欠かせないですよね?
S 機能がそのままデザインに直結するので、掘りがいがあります。アークテリクスのネックゲイター14はメリノウールというクラシックな生地を、モダンでソリッドなデザインに仕上げているのがすごくいい。めちゃくちゃ暖かいですしね。
14.ARC’TERYXのロー LTWネックゲイター
E フリースのものが多いですがメリノウールならコートやジャケットからチラリと見えても素敵ですね。シンボルマークのみの刺繡もクール。アウトドアアイテムはミニマルなものに名品が多いと思うのですが、その点アマゾンエッセンシャルズのベスト15はアノニマスなムードが最高。
S コレ、間違いなく「どこの服ですか?」と聞かれそう。Amazonのオリジナルなんですね。
E 美術館の監視員の制服のような匿名性がありますよね。肌の色も年齢も違う全世界の人を対象にして作られた「世界の服の平均点」のような手頃でベーシックなウェアが揃っています。
S デザインとして突出はせずとも、価格も含めて日常着として過不足がない。今後、定期的にサイトをのぞいてみます。
15.Amazon Essentialsのフリースベスト
S ちょっと話はそれますが、個人的に英国製のファクトリーブランドにも必ずコスパのいいアイテムがあると思っています。
E 古くからワークウェアやミリタリーウェアを作り続けている風土だからこそ、現地の人の普段着に掘り出し物があるわけですね。
S ヤーモスオイルスキンズのワークジャケット16はまさにそれ。大きなバッグは持ち歩きたくないので、こうしたポケットの多いワークジャケットが最近すごく便利です。袖口も補強されていて丈夫な作りだし、裏地がないのでリペアもしやすい。
E 削ぎ落とされた佇まいは、まさに機能美という印象です。あとアウターで価格以上の名品ってなかなか見つからないものですが…。
16.YARMOUTH OILSKINSのワークジャケット
S 最近、面白いロングコート17を見つけました。シングルなんですがダブルに見える仕立てで、背中にはアンブレラヨーク付き。袖口にはトレンチのようなベルトもついたハイブリッドなデザイン。ソフトな肌触りも気持ちいい。
E 一見普通のようで、よく見ると見たことない新鮮なデザイン。しかも軽いですね。
S ウールに少しのナイロン混なんです。ウール100%だけが支持されがちですが、ナイロンが入ることで軽くてふわふわの質感になっている。
E 機能を重視してナイロン混にした結果、価格が手頃になるなら満足度は高いですね。
S しかも防虫効果もあったり、毛嫌いしがちな化繊にも意外といいところはあるんです。
17.voaaovのソフトウールビーバーロングコート
E あと今年はやはりショートアウターも欠かせません。ナンガのダウンジャケット18はもともと寝具などの羽毛商品を作っている日本の老舗ファクトリーブランドですよね?
S 言うまでもなく名品ですね。ダウン90%、フェザー10%でダウンパックが内側にあって、ダウンジャケットが苦手な人でも着られる。当然めちゃくちゃ暖かい。普通に一軍として使えます。
E そして色がきれいだと思いました。
S フェード感のあるブルーが上品。アウトドアやスポーツアイテムはやたらと地味か、やたらとヴィヴィッドカラーのものが多いですからね。
18.NANGAのダウンジャケット
E 多くの名品を語ってきましたが、これらを全部揃えれば、たとえ課金額が少なくても十分魅力的なワードローブはつくれます(笑)。最後に無課金スタイリスト、無課金エディターと言われる僕たちが、スマートコンシューマーとしての矜持をもって、毎日身につけているものを出しましょう。
S ブルックス ブラザーズのハンカチ19は海外の店舗で見つけたものだとか?
E 僕は海外旅行で、なんでもないスーパーや地元の大人が通うような小さな洋品店、空港のお土産売り場などで誰にも見向きもされず、ずっとそこに忘れられて積まれているようなアイテムを発掘したときにいちばんテンションが上がるんです。このハンカチセットも最初はシカゴの空港にあるブルックス ブラザーズで見つけて。映画『マイレージ、マイライフ』のシーンでもあるように、海外の空港にはビジネスマン向けにブルックス ブラザーズがよくあるんです。同じ白いコットンハンカチが無駄がなくギューギューに箱にパッキングされている佇まいも好き。基本、同じものをストックしたいコンサバ気質なのでこれはブランド含め、代えがきかない。たびたび買い足しています。
19.Brooks Brothersのハンカチ(13枚組)
S 日用品が同じもので揃う気持ちよさ、わかります。僕はパタゴニアのフリクションベルト20を10年以上愛用しています。このベルトに限っては経年による緩みもなく、本当に頑丈な作り。サイズ感も自在ですしね。空港の身体検査もつけたままパスできます。なんでこんなに持っているかというと日々はいているパンツに一本ずつ装着したままにするためなんです。もうこれをつけることが決まっているので、いちいち外すのがめんどくさい。赤、グレー、黒とベルトの色ごとに専用のパンツが決まっていて。黒いパンツが多いので黒いベルトが多いという。ちなみに青も持っているんですが、それは昨日はいていたパンツにつけたままで忘れてきちゃいました(笑)。
20.patagoniaのフリクションベルト
名品に関するおすすめ記事はコレ!
Stylist:Junichi Nishimata
Text:Takako Nagai