ポンヌフの橋上をランウェイに、ルイ・ヴィトンが2024年春夏メンズコレクションをパリ現地時間6月20日(火)に開催。今年2月にメンズ クリエイティブ・ディレクターに就任したファレル・ウィリアムスの初コレクションを最速チェックだ!
ダミエ+カモフラ=ダモフラージュ!
パリ現地時間6月20日(火)22時すぎ、ラグジュアリーブランドの「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」が、2024年春夏メンズコレクションショーを開催。各国のエディターやジャーナリスト、セレブリティが見守るなか、今年2月にメンズ クリエイティブ・ディレクターに就任したファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams/1973年4月5日生)が手掛ける初のビッグプログラムが披露された。
ショー形式はポンヌフ(Pont Neuf)の橋上をそのままランウェイとして使用した屋外コレクション。
トッド・トウルソ(Todd Tourso)が監督したショートフィルムの前奏曲“PUPIL KING”でショーはスタートした。意訳としては、ファレルの謙遜も含めて“生徒の王さま”といったところか。
果たして、ファレルの「ルイ・ヴィトン」はデビューコレクションとしては地に足の付いたものだった。コンセプチュアルなイデアは仰々しくも、普遍的な源である“太陽”だ。文化や信条を超え、人々を勇気づけ、癒し、団結させる輝きを放つ光の象徴は、ともすれば浮ついた好奇心の発露として過剰なメッセージ性やインパクトを狙ってしまいがちである。が、ファレルは違った。
一部で噂された大規模コラボもなく、米国人アーティストのヘンリー・テイラー(Henry Taylor)の作品が刺繍されたウェアが目立つくらい。徹頭徹尾、ファレルのディレクションということだ。
グラフィックの光線、カラーパレット、ラグジュアリーな装飾などがウェアやバッグ、アクセサリーの随所に表現されているが、これらは円熟味を増したジャスト50歳男子であるファレルならではのデザインバランスで、派手過ぎずアフォーダブルに調整されている。
主力商材であるバッグ、例えばウィメンズで展開しているスピーディ(SPEEDY)がメンズでも登場。LV柄やネームタグをビッグサイズにデフォルメして遊んではいるが、大枠はそのままなのだ。
なによりも、ファレルのタイムリーなアプローチが、1888年に開発された「ダミエ(Damier)」の積極採用だ。しかもカラフルな大柄での提案になる。
緩急を織り交ぜたパワフルルックが橋上を席巻。ブランドの代名詞であるシンボリックな意匠に敬意を表しつつ、メンズシーンの底上げを図った。
加えて、二の矢となるオリジナルファブリックも開発するなどクリエイションにも余念がない。
ダミエ(Damier)・パターンをカモフラージュ(Camouflage)柄と融合させてモザイク調のデジタル処理を施した「ダモフラージュ(Damoflage)」は、カジュアルアウターからスーツ、トランクやミニバッグなどのラゲージ類のほか、シューズや小物・アクセサリーまで網羅。必ずや人気を博すだろう。
一方で、親友であるNIGO®へのオマージュらしきアイテムもあった。それはヴァージルとNIGO®がタッグを組んだカプセルコレクションとして2020年6月に発売された「LV2コレクション」のダミエスーツ。
言うなれば大柄市松模様のスーツだが、NIGO®が手掛けた際の和のテイストと比較すると、ファレルは大胆なカラーパレットを前面に押し出している。さらに“Louis Vuitton”の筆記体は通常英字に戻され、よりシンプルなデザインスーツとして再提案された。フロントローからランウェイを鑑賞したNIGO®も、ファレルのダミエスーツを着用している。
Louis Vuitton Men’s Spring-Summer 2024 Fashion Show by Pharrell Williams in Paris | LOUIS VUITTON
振り返ると、ファレルと「ルイ・ヴィトン」との蜜月は今回の就任劇で三度目。2004年にNIGO®とタッグを組んでサングラスを制作し、2008年にはファレル単独でジュエリーコレクションを発表。ウェアとラゲージのデザインは初の試みだったのである。
動画で確認できるファレルの姿はまるで修行僧のよう。石畳の上で跪き、日本式と西欧式をミックスしたような祈りの姿は多くのSNSで拡散された。
ファッションと向き合うファレルの想い、それはロマンチックに過ぎるかもしれないが、公式リリースに記されている通りならば「LVERS」である。これは彼の故郷である米・バージニア州で1969年から使われているスローガンで、「Virginia is for lovers(バージニアは恋人たちのためにある)」にちなんだものである。
“LOVERS”と“LV(Louis Vuitton)”の両義を込めた造語は、温かさ・幸福感・歓迎する気持ちの基盤となる心の状態を表すものとされる。ファッションの悪癖である虚栄や軽薄とは趣きを異にするポジティブなアティチュードも、ポップカルチャーに根付いた「ルイ・ヴィトン」メンズのこれからの軸になるのだ。
ここでファレル・ウィリアムスの「ルイ・ヴィトン」メンズ就任までの軌跡を今一度辿っておく。
キム・ジョーンズの後を継ぐメンズ アーティスティック・ディレクターとして2019年春夏コレクションからメンズを統率していたヴァージル・アブローが、2021年11月28日に41歳で急逝。1年以上も空席のままだったメンズデザイナーの席に、ヴァージルの旧友でもあるファレルが収まった。端から見るとドラマチックで予定調和な人事のように見えるが、ルイ・ヴィトンにとってはセレブカルチャーとポップカルチャー趣向の継続を意味するファレルの起用は大きな決断だったと聞く。
分水嶺は今年の2023年2月1日。
その日付けで、同じLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH Moët Hennessy ‐ Louis Vuitton SE)が擁するクリスチャン ディオール クチュール(CHRISTIAN DIOR COUTURE)のピエトロ・ベッカーリ会長兼CEOが「ルイ・ヴィトン」のトップとして就任し、パリ財界の一大ニュースになった。ベッカーリの手腕はすぐさま発揮され、2月14日にファレルがメンズ クリエイティブ・ディレクターに就任したのだ。
いわば、ベッカーリ会長兼CEOにとってもファレルにとっても、「ルイ・ヴィトン」メンズの今後を占う極めて重要デビューコレクションだったのだ。
その重責をものともせず、堂々たるコンテンツを世界に披露したファレル。驕りや慢心をカモフラージュすることなく、信心深く、クリエイティブに、自らを“カルチュラル・メゾン”(Cultural Maison/文化的メゾン)と定義付けた巨大ブランドと向き合った。
万雷の拍手が降り注いだフィナーレでは、バージニアの聖歌隊(衣装もダモフラージュ仕立て)が熱唱するゴスペル“JOY (Unspeakable)”に合わせて、ダモフラージュスーツに身を包んだファレルが登場。楽曲のプロデュースはもちろん彼自身になる。
初コレクションで大粒の涙を見せたヴァージルと異なり、常に仕掛ける側のファレルはサングラスを掛けていた。バックヤードのアトリエスタッフも一丸となって彼を讃える。まるでパレードだ。VIPどころではない豪華セレブリティたちも彼を追いかけ、いつしか「LVERS」は巨大な渦となっていた。
太陽、愛、人間賛歌に包まれた宴の終わりは24時近く。ポンヌフはいつもの静けさを取り戻した。UOMOブランド統括の山崎貴之ほか、各国の編集者やジャーナリストらは興奮のあまり寝付けない日となったことだろう。これがパリコレクションの初日だとは過酷な取材スケジュールである。
2024年春夏の発売は年末から年始にかけてが常である。早くダモフラージュが欲しい!
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Louis Vuitton
CREATIVE DIRECTOR:Pharrell Williams
Styling:Cactus & Matthew Henson
Makeup:Pat Mcgrath
Nails:Dawn Sterling
Hair:Kareem Belghiran
MUSIC:
PRELUDE)Directed by Todd TOURSO
1)“Peace Be Still”, Pharrell Williams ft. Lang Lang
2) “Chains & Whips”, Clipse
3) “JOY (Unspeakable)”, Voices of Fire featuring Pharrell