ミラノ・メンズコレクション開催期間中の6月16日(金)、「グッチ」のアイコンシューズであるホースビット ローファーの70周年を記念したアートエキシビションがミラノで開催。摩訶不思議なホースビットの世界を世界各国の取材陣が鑑賞した。
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伊・フィレンツェ発祥のラグジュアリーブランド「GUCCI(グッチ)」が、1953年に誕生したアイコンシューズである「Horsebit loafer(ホースビット ローファー)」の70周年を記念したアートエキシビションをミラノで開催。ミラノ・メンズコレクション初日となる2023年6月16日(金)に招待者限定のカクテルパーティで幕開けし、6月17日(土)と18日(日)に一般公開された。
残念ながら日本では公式ヴィジュアルでの告知のみだが、オーセンティックなホースビットの歴史を舞台にしつつ、ルーツである乗馬の世界にアーティスティックなアプローチでカウンターカルチャーを融合させたエキシビションのパワーは十分に伝わるだろう。
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国際的に活躍する10名のアーティストやクリエイターたちが参画した「ホースビット ローファー」の独創的再解釈は、コレクション期間中に訪れた世界各国の取材陣やジャーナリストたちの脳裏に刻まれた。
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本展を彩ったウォールペーパーは特別にデザインされた「ホースビット パターン」であり、「グッチ」1995年秋冬コレクションにて、当時のアーティスティック・ディレクターを務めていたトム・フォード(Tom Ford)が発表した「ホースビット レッド パンプス」を彷彿とさせるものだった。二十数年来、コレクションを追い続けているジャーナリストにとっては懐かしさとともに琴線に触れるアプローチだ。
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フィジカルなメニュとしては、スペインのアーティスト兼振付師であるカンデラ・カピタン(Candela Capitan)による前衛パフォーマンスや、パリの伝説的な電子音楽レーベル「Ed Banger」によるDJセットが披露された。
だが、本展のアプローチはパフォーマンスだけではない。ファッション・アート・オーディオビジュアルを融合し、創造性に富んだアートカルチャーがふんだんに盛り込まれているが、これらはもちろん「ホースビット ローファー」が唯一の共通項となる。
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コンテンポラリーな空間である「スパツィオ・マイオッキ」に構築されたクラシックな乗馬クラブの様相は異彩を放つもの。刺激的かつ多元的な「HAUS」が一気通貫した「疑似居住空間」で、ホースビットが躍動している。
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この対話が、来場者にとってのタイムレスの象徴であるホースビットに抽象的かつ斬新な解釈を付与することを目的として、「グッチ ホースビート ソサエティ」は完成する。
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アートスペース「スパツィオ・マイオッキ」の中庭(patio)がこちら。
ブルックリンを拠点とするクロスビースタジオ(Crosby Studios)に所属するロシア人建築家兼マルチメディアアーティストのハリー・ヌレエフ(Harry Nuriev)が、家具デザインに「ホースビット」を用いたコンセプチュアルな中庭を創出した。
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中庭に面した「bedroom」では、米国人フォトグラファーのチャーリー・エングマン(Charlie Engman)撮影による白馬のポートレートが視線を捉えつつ、スイス人アーティストのシルヴィ・フルーリー(Sylvie Fleury)が1998年に発表したインスタレーション「Bedroom Ensemble II」が同じ空間に展示された。
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メインスペースは奇々怪々。シアトリカルな「dining room」では、米国人彫刻家の「Pitterpatter」がクリエイトしたシュールレアリスムのテーブルが目を引く。なんと、テーブルを支えるのは「ホースビット ローファー」を履く人形の脚なのだ。
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その奥で額装されるのは、カナダ人デジタルアーティストの「Blatant Space」が創造した幻想的なクリーチャーのポートレート。まるで深淵から、逆にのぞき込まれるがごときディープな世界が広がる。
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ハウス(HAUS)であるからにはキャビネットもある。イタリア人ビジュアルアーティストのアンナ・フランチェスキーニ(Anna Franceschini)が構成した「cabinet of curiosities」、いわゆる「驚異の部屋」では、「グッチ」のアーカイブを中心に希少なアイテムを披露。これは「グッチ」愛好家垂涎だろう。
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そして、ラグジュアリーなシネマルームへと誘われる。そこでは英国人フォトグラファー兼映画監督のボレイド・バンジョー(Bolade Banjo)が歴史的なビジュアルと各時代のムービーでホースビットの軌跡を辿る映像作品を上映。
フランシス・フォード・コッポラ、フレッド・アステア、アラン・ドロンといった映画人やスター俳優のワードローブに取り入れられた1960年代から、1977年に撮影されたスケートボード姿のジョディ・フォスターをはじめ、新しい世代のティーンエイジャーたちに愛用された1970年代を振り返る試みだ。
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暗闇の中では、韓国人デザイナーのギュハン・リー(Gyuhan Lee)がホースビットのモチーフを伝統的な韓紙工芸で再現した「light sculptures(光の彫刻)」が浮かび上がる。
夏の太陽が降り注ぐスパツィオ・マイオッキの中庭に戻る頃には、「グッチ」のアイコンシューズが持つ象徴性が、来場者のイマジネーションの中で渦となっていることだろう。その解釈はファッションを享受する個々人に委ねられている。
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ちなみに、今では普遍的な「グッチ」のシンボルとなっている「ホースビット ローファー」は、「グッチ」創業者であるグッチオ・グッチ(Guccio Gucci)の次男で、1950年代から父の後継者として活躍してきたアルド・グッチ(Aldo Gucci)が1953年に考案したビジネスシューズ。2つのリングとバーからなるデザインは馬具のくつわの形状にヒントを得たものだった。
1953年の発表以来、ファッションが自由な自己表現の手段へと進化していく様を映し出すアイコンとして時代とともに昇華。1980年代には社会での影響力を高めていったキャリアウーマンたちに愛され、1990年代にはセンシュアルで洗練された「グッチ」のスタイルを発信し、「グッチ」がラグジュアリーを再定義した2010年代には、新たな定番シューズとなったシアリング ライニング付きの「プリンスタウン」スリッパをホースビットが飾るに至る。
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陳列されたマネキンが着用した「グッチ」2024年春夏メンズ コレクションと、時を超えた対話が繰り広げられた「HAUS」は、オーストラリアを拠点として活動するイメージメーカーであるエド・デイヴィス(Ed Davis)が手掛けた「closet」だった。ここは同時に、2024年春夏コレクションの発表の場でもあったのだ。
アーカイブビジュアルをコラージュしたウォールペーパーがフロアからシーリングまでを覆い尽くし、「グッチ」の今と共振。年末から年明けにかけて一般発売される「グッチ」2024年春夏コレクションを楽しみに待とう。
ローファーの旬をもっと知りたい!
期間:(※ミラノ現地)2023年6月17日(金)~6月19日(日)
場所:Spazio Maiocchi
キュレーター:Alessio Ascari
GUCCI