時代が変われば、機能は次第に古び、また流行も移り変わる。それでも長く愛用し続ける理由とは? ファッションにもアウトドアシーンにも精通している4人のパーソナルな名品に迫る。
PatagoniaのシンチラスナップTとフリースパンツ
今は日常着だけど、’90年代当時は一張羅のようだった
猪塚慶太さん(46歳 スタイリスト)
初めてパタゴニアのスナップTを買ったのは、大学生だった1994年頃。まだ目白と鎌倉にしか店舗がなく、そこまで行くことが楽しみで仕方がありませんでした。パタゴニアのフリースは今でこそ日常着ですが、20歳だった当時は一張羅のようで、僕は黒のスナップTをレザーパンツ、ナイキACGのスニーカー、ニューエラのキャップとよく合わせていました。黒をセットアップで着るようになったのは、10年くらい前から。今では冬の撮影や事務作業、友人との食事でもよくこの格好をしています。
ほかにもいろいろなブランドのフリースを着てきましたが、やっぱりこの“シンチラ”の包まれるような柔らかさにかなうものはないですね。あと意外にパイピングがお腹や袖まわりをきちんと締めてくれるのもうれしい。この10年で既に3回買い替えていますが、これからも生活の中でずっと着続けていくと思います。
CILO GEARのバックパック
機能ありきのデザインだから長く愛用できている
池田尚輝さん(44歳 スタイリスト)
シロギアはオレゴン州ポートランドを拠点とするバックパックメーカーで、自社の工場で少数生産を行うガレージブランドの先駆けです。アルパインクライマーの経験に基づいたデザインはミニマルでありながらリアリティがあり、背負い心地がとてもいいのが特徴かと。丹沢山系、奥秩父からヨセミテなど、僕のこれまでの日帰り山行で活躍してくれました。
購入した8年前は、装備の軽量化を目的としたUL系のバックパックは雨ぶたがついていないものが多かったのですが、これは初めからついていて取り外しも可能。ベルトも取り外せて互換性があり、自由な使い方を模索できるのも面白い。そして、大概のアウトドアギアに入っているブランドロゴ類がいっさいないのも気に入っているポイントです。ブランドを誇示せずまずは機能優先で、結果として優れたデザインとして表れているからこそ、長く愛用できるのだと思います。
THE NORTH FACEのフリース付きハイベントシェルジャケット
NYのストリートに感じた空気が今もこの服には残っている
小澤匡行さん(43歳 エディター)
2000年代初頭にNYで買ったザ・ノース・フェイスのシェルジャケットは、ライナーのフリースが取り外せる珍しい3WAYモデルで、保温性はもちろん、ハイベントの撥水性も高く、当時としては高機能でした。
今でこそノース・フェイスはファッションのイメージが強いけれど、このジャケットを買った当時のNYではヒップホップアーティストたちが愛用していて、ブラックカルチャーの空気を強く感じるブランドだった。実際に、その頃はスニーカーやレコードを探しにハーレムなどの危険な地域に行くこともありましたが、そこで着ても浮かないというか、現地の空気に対してとてもリアルな服だったことを覚えています。
20年近くたって機能も随分と落ち、ハイテクとしての役割は終えました。それでもたまに袖を通したくなるのは、都会と音楽が結びついた懐かしいカルチャーを感じられるからだと思います。
UGGⓇのトレッキングブーツ&UGGⓇ×White Mountaineeringのブーツ
その時々のライフスタイルがそのまま映し出されています
相澤陽介さん(44歳 White Mountaineering デザイナー)
ここ数年、ホワイトマウンテニアリングでは毎秋冬にアグと協業してブーツを作っていますが、そのきっかけになったのが、長く愛用していたインラインのトレッキングブーツ(写真上・右端)。日本で買えないモデルだったのでアメリカから取り寄せて…。厚底でグリップがよく、かつ内ボアなので非常に暖かい。これで雪山はもちろん北極圏にも行きましたね。
コラボレーションを始めて以降は、アグのブーツの足を包むような履き心地を生かしながら、雪山やキャンプでの実用だけでなく、山でも街でもこれ一足で快適に過ごせるデザインというものを毎回心がけています。その変遷をあらためて見てみると、「この年はスノーボードの仕事でよく雪山に行ったな」とか、「この頃から北海道との行き来が増えた」といった具合にその時々の自分の生活スタイルが自然と投影されていますね。最新のジップアップブーツ(写真下・左端)も、この秋に作った軽井沢の拠点との行き来に履きたいという視点で作りました。柔らかくて車の運転もすごく楽なんですよ。
写真上の右端の一足が愛用遍歴のルーツになっているアグのトレッキングブーツ。コラボアイテムはその隣から写真下にかけて順に、エスキモーブーツをモチーフにした2018年の2モデル、原点のトレッキング型をアップデートした2019年モデルのブーツ&スニーカー、ヴィンテージスキーブーツから着想を得た2020年モデル、そして今季のジップアップのボアブーツと続く。すべて相澤さん自身が履き込んできた私物だ。
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Text:Kai Tokuhara Masato Nachi