写真家・平野太呂が、気になる人の行きつけにお邪魔。決まって頼むというメニューを食べて、本音をつづる。初回は戌井昭人さんが子どもの頃から食べているたぬきそば。
今月のあの人
店名どおり、家庭的な蕎麦屋。
お店のお母さんが気持ちいい人です。
実はカレーもうまい
戌井昭人さん/劇作家・小説家
パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」にて脚本を担当。近著は『さのよいよい』など。「子どもの頃から通ってて実家に戻っても戻らなくても食いに行きます」。
撮影・文・食/平野太呂
第1回千歳烏山 ファミリーのたぬきそばに山菜とゆで卵を入れる。
ほっとけない店にはほっとけない人がいる
とある雑誌の取材旅行で写真を僕が、文章を戌井さんが担当する巡り合わせがあり、東北行きの電車のホームで僕たちは知り合いとなった。車内では戌井さんが先日まで出かけていたどこか遠くの国のお祭りがいかにハチャメチャだったかという話で盛り上がり、昼はこけしの産地を巡り、夜には一緒に温泉に浸かった。とにかく戌井さんが話してくれる友人知人の話が噓みたい(噓でもいい)に面白くて、それまで戌井作品に出会っていなかった僕は、彼の本を読み、下北沢のザ・スズナリに彼のパフォーマンスを観に行くようになった。
ファミリーという、蕎麦屋にしてはアメリカンな名前がかわいらしいスタンド蕎麦屋は千歳烏山にある。戌井さんの地元だ。L字カウンターのみの小さな店だが、店内はこざっぱりとしていて清潔。早速、厨房のお兄さんに注文する。ほっとするような安定の立ち喰い蕎麦。たぬきだけだと物足りないかも、というところに山菜とゆで卵が投入され空腹が満たされていく。「カレーは食べていかないの?」。気がつくと目の前に女将さんが立っている。「食べます!」と言うしかない。これがうまい。女将さん、戌井さんが子どもの頃から通っていた話をとうとうと話してくれる。今度は戌井さんから女将さんの話を聞きたい。ふと、のれんの向こうに少年戌井くんの後ろ姿が見えたような気がした。
ファミリー
仕入れにこだわり惣菜はすべて手作り。36年もの間、地元の常連たちの腹を満たし、愛され続けている名店だ。戌井さんの定番メニュー「たぬきそばに山菜とゆで卵を入れる」は¥500。
住所:東京都世田谷区南烏山5-11-7
TEL:03-3300-5035
営業日:10時30分~20時00分
定休日:水曜
Taro Hirano
カルチャー誌やファッション誌などで活躍。主な著書に『POOL』(リトルモア)、『ボクと先輩』(晶文社)など。
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